表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/129

プロローグ 二話

所変わり冥界の城前、地獄に通ずるただ一つの巨大な扉は閉められその城門前には数百人の死者が立ち往生していた。


「何時になったら此処を通れるんだー!!」

「さっさと通せー!」

「入れるならさっさと入れてくれよぉ~!」


城の前で待たされている死者達が不満の声をあげる。無理もない、何せ地獄の門前には…


[グルルルル……]


地獄の番犬として広く認知されているであろうケルベロスが居るからである。

流石は地獄からの脱獄者を監視しているだけはありその山のように大きい体躯やおぞましい姿だけでは無くこちらを見つめられるだけで本能的な恐怖感がこみ上げ足がすくんでしまう程である。

そんなものがすぐ近くに居る状態で待たされたらいくら何でもすぐにこの場から離れたいと思うのも当然の事だろう。


しかしそんな中にも数人落ち着いている人間も居た。


「何時になったら此処通れるんだよ…」


最前列でそうぼそりと呟いた少年もその一人である。

彼の名は風見かざみ しょう、年齢は十七で高校生である。死亡原因は周りに居る者たちとほぼ同じく飛行機の墜落事故。

家族と共にアメリカに旅行に行く途中に飛行機が海に落ち乗客乗員共に即死したのだ。


「思い返せばつまんない人生だったな……」


望まない形ではあったが受け入れるしか無い。そう割り切った翔は死ぬまでの自分の人生を思い返してみた。


小、中、高校共に特に目立つ生徒では無く友人、親友と呼べるような中になった奴もそこそこ居たし学業の成績も悪くなく安定し特に刺激的な事件が起こったりもしなかった。しかしそんな平凡な人生に退屈して居たのも確かであり何か面白い事件でも起こらないか……と考えていたら人生をゴールしてしまった。

因みに他人に誇れる事は二つだけある、剣道で県大会でベスト4入りした経験がある事、そしてあらゆる分野の仕事をそつなくこなせるという事である。

まあ死んでしまった今では自慢もなにもないのだが…


「風見様、風見翔様いらっしゃいますか~」


ふいに自分の名前を呼ばれ我に返った翔は声の元はどこから聞こえたのかと辺りを見回すと上空に一枚の紙を持った羽の生えた女性…悪魔が目に入った。彼女が声の元だと判断した翔は悪魔の女性に向かって手を振った。


「あ、はい!此処です!此処でーす!」


手を振りながら大声で空を飛んで自分の名前を呼んでいる悪魔に呼びかける。


「あ、そこにいらっしゃいましたか」


翔の事に気付いた悪魔がパタパタと飛んできて翔の前に降り立つ。周りに居た人々は何事だという表情で翔と悪魔の女性を交互に見た。

そんな目線を感じてか悪魔は妙にそわそわとしながら翔に要件を告げた。


「ハデス様がお呼びです。私に付いて来て下さい」

「え?あ、はい……(ハデスって言ったら地獄の王だよな?何でそんな大物が俺を呼んでるんだ?)」

「それじゃあ連れて行きますね」

「え~と、連れて行くってどうやって[グイッ]おわぁぁぁ!?」


翔が頷くと同時に彼女は翔の後ろにまわると脇を掴んで飛び上がった。

そして驚いている翔をよそに悪魔の女性は翔を抱えたまま城門を飛び越えて城の中へと入って行った。






「着きました!お疲れ様です」

「はい……」


城の中に降ろされた後彼女の後を追い十分程城の中を歩き、ようやく目的の部屋に着いたらしく彼女が一つの扉の前で足を止めてこちらに振り向き笑顔を見せた。


「……。……」

「………!?」


その部屋からは良く聞こえ無いが誰かが話しているらしかった。翔は一体何を話しているのだろうかと首をひねった。

それを尻目に悪魔の少女は取っ手に手をかけるとゆっくりと扉を開いて中に入った。


「失礼しますハデス様」

「あ、失礼します」


そう言って部屋に入る悪魔に続いて慌てて部屋に入る。


「ほら、噂をすれば来たじゃないか」

「ほう、こ奴がお前の言っていた風見翔と言う奴か」


部屋に入ると二人の男性がこちらを向いて話していた。片方は黒い服、もう片方は白い衣服を着ていた。

そして黒い服の男が白い服を着ている老人に愉快そうに話しかけた。


「で、どうだ?見た感想は?」

「……面白みが無いな」

「?」


部屋に入って突然見た目に関しての評価をされ、翔は訳が分からないというような顔をした。


「おぉっとすまない、肝心の君を置いて話を進める所だった、ちなみに私はハデスだ、宜しく」


ハデスと名乗った黒い服を着た男性は軽い挨拶をして翔の方へ手を差し出した。

何かイメージと違うなと感じながらも翔は差し出された手を握って握手した。


「ど……どうも、風見…翔…です」

「ハハハ、そうカタくなるな、さて、君の座る所は……」

「まあ私の隣の椅子にでも座ればいいだろう」


ハデスの隣にいた老人がそう言って自分の隣にある椅子を指差した。


「あ、ありがとうございます」

「うむ、礼儀がなっておるな」


翔はこの老人が一体どのような人物なのか分からずおっかなびっくりと言った感じで椅子に座る。

その光景を見ていたハデスがニヤニヤしながら言った。


「いいね~ゼウスの隣にただの人間が座らせて貰えるなんてな」

「え?ゼウスって………えぇぇぇぇ!?」


翔は素っ頓狂な声を上げて椅子から転げ落ちた。

それを見たハデスは大笑いしている。


「アハハハハ!面白いな!何だ今の顔、傑作じゃないか!!」

「余りふざけるなハデス……」


ゼウスが呆れた様に笑っているハデスを見る。


「ハァ…ハァ…そうだな、そろそろ本題に移るか」


暫く笑い続けたハデスは肩で息をしながらそう言うと机からボードを取り出した。


「それでは今からこのハデス様の素晴らしいプレゼンテーションが始まるからよーく聞くように!まずは…」

「簡潔に言うとあそこにある死者メーターが君の番でオーバーするので、その記念イベントに君に刺激的な第二の人生をプレゼントしようとハデスは思っている訳だ」


ハデスが言う前にゼウスが全を遮るように簡潔に言った。


「オイ!!簡潔って何だ簡潔って!まるで今から私が話す事がただ単に長ったらしくて無駄が多いみたいじゃないか!?」


説明出来なかった事がショックだったのかハデスがドンドンと机を叩いて騒ぎ始めた。

その光景を見て翔は開いた口がふさがらない状況だったのだがゼウスは慣れているのか呆れ顔でその光景を見ていた。


「またお前の説明を何分も聞くのは御免だ」

「むぅ………まあいい。じゃあ翔君こっち来て」

「は、はい」


ハデスは窓の方まで翔を案内すると窓を開けた。

翔が窓の外から外を見ると暗黒の雲が空を覆いく不毛の大地が続き亡者たちが働いているまさに地獄と言っていい光景が広がっていた。

翔は自分がこの世界に放り込まれたら……そう思った瞬間身震いが起きた。


「はい、手を出して」

「?、はい」


ハデスに声をかけられ我に返った翔は言われるままに窓の外に手を出した。すると


[チーン]


「はいオメデトー!」

「これだけですか!?」

「これだけか!?」


あまりのあっけなさにゼウスと翔は同時に驚きの声をあげた。


「エエ、モウコレデイイジャナイデスカ…」

「こいつ…投げやりにも程があるぞ」


ハハハと笑うハデスの目には生気が宿っていなかった。余程ゼウスにもした長ったらしい説明を翔にも聞かせたかったらしい。


「あの~、それで、俺の第二の人生ってどういうのなんですか?」

「おおそうだ!それはだな……」


翔が第二の人生の概要を聞こうとすると瞬く間にハデスの目の色が輝きを取り戻し懐から一冊の本を取り出してペラペラとページをめくり始めた。

そしてふいに手を止めると翔に質問してきた。


「君は山も無いし谷も無い人生に飽き飽きしていた。…そうだね?」

「はい」

「そしてその日常から解き放たれスリリングで面白い日常を手に入れたいと思った事がある!…そうだね?」

「まぁ……そうです」

「それならばっ!」


本を持ったままクルリと回りその本の一ページを見せた。そのページには[魔王になる方法]と、書いてあった。

そして翔これから楽しい事をする子供のような目で翔を見たそしてとんでもない事を口走った。


「君はこれから戦乱の世で魔王となり魔界を統一するっていう人生はどうだい!?」


ババァーンという音が聞こえて来そうなポーズをとり、ハデスは叫んだ。

そして一瞬の沈黙の後……



「「はぃぃぃぃ!?」」


またしてもゼウスと翔の声がハモったのであった……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ