第一章 十六話 ~生き残り大作戦 上 ~
「ア……アニキィ……先行させてた部隊がぁぁ………」
「うむ、流石正規兵……といった所か」
「ギシシッ…情報によりゃあ狼に乗った餓鬼がほぼ一人で殺っちまったらしいぜぇ……大丈夫なのかい頭?」
「ふん……心配するな、今回は本隊……お前ら三人はそれぞれの部隊を連れて討伐隊をそいつ共々潰せ、俺は別に行動する」
「りょ、了解です、アニキィ!」
「ギキキッ…了解した」
「頼んだぞ……そうだ、お前らにコレを渡しておく、本部から支給された品だ」
「おぉ?こ、これは……薬ですかアニキィ?」
「キキキッ……見て分かんだろぉ?どお見たって薬だ……で、これは一体何の薬なんですかぃ?」
「ちょ……ちょっと待ってくれアニキ!薬って……これ飲んだら外の奴らと同じようになるんじゃ………」
「心配するな……そのような薬では無いから理性は失わん、飲むのは我らがディアトリアに到着した時だ」
「え?ア……アニキ!……行っちまった」
「お前は元から頭がたりねぇんだからもしもあの薬でも変わらねぇんじゃねぇか?」
「ひ……酷い事言わねぇでくれよぉ……」
「ギキキキキッ……ほらさっさと行くぜぇ?」
しょうせつか「敵襲だぁぁ!反乱軍の奴らが大群で襲ってきたぞぉぉぉ!!」
俺にあてがわれたテントの中……二日間の疲れからぐっすりと寝ていた俺は朝っぱらから騒々しい叫び声で起こされた。
煩いなぁ全く……敵襲?敵襲ねぇ……って敵襲だとぉぉぉぉぉ!?
「翔!起きているか!?」
慌てた様子でアンダルが俺の天幕に駆け込んできた。アンダルも起きたばかりらしく武器も装備も着ていない下着のままだ……服ぐらい着ろよ、慌てすぎた。
敵襲という響きで半覚醒した俺だったがまだ若干眠いので冷静な俺に対しアンダルは表情からしてかなり焦っているようだ。
「翔!急いで武器を持って外に出ろ!あまり時間がない!!」
アンダルの尋常じゃ無い焦りように、流石の俺も不安を覚えすぐに着替えて天幕の外に出た。
外には既にティール、ジェミィが居たが二人ともやはり焦っているような表情だった……しかしちゃんと服は着てるな。
「アンダル……お前は地震が起こったら確実に死ぬタイプだな」
「敵襲の知らせを聞いて悠々と自分のテントから出てくる翔も十分問題だと思いますが……」
「ティール、違うぞ……これは強者の余裕という……」
「馬鹿な事を話してないで行くぞ……傭兵は中央の広場へ集まれという命令だ」
「はい……」
話を折られてしまった……まあ今のセリフはちょっと俺もどうかと思ったしな。
流石に今のは調子に乗りすぎた……反省しよう、人生謙虚さが大事だ。
ジェミィを先頭に俺達が広場に着いた時には既に殆どの傭兵が揃っていた。
しかし皆顔が青くなっていたり中にはガタガタ震えたりしている者も居た……何だ?いったいどんな話をされたらあんな顔になるんだよ、こっちも不安になるじゃあ無いか……
「………以上だ!皆の武運を祈る!」
話の内容が気になって話が聞ける距離まで近づいたものの……既に話は終盤だったようで将軍が喋っている内容を聞けなかった
肝心な内容を聞きそびれてしまったのでそこら辺に居た傭兵に聞いてみるとそいつはガタガタと震えながら俺達の方を向いた……本当に大丈夫かこいつら、震えてる顔が恐い、まるで生気を失ったかのような……ゾンビみたいだ。
「お、おいどうしたんだよ?いったい何を言われたんだ?」
「お、俺達はもう終わりだ……捨て駒にされるんだよ………」
そう言った途端アンダルが目の色を変えてそいつに詰め寄った。
どうやら捨て駒という単語に反応したようだ。
「何だと!?おい!詳しく話せ!」
そう言ってアンダルがその傭兵に掴みかかる。
「ヒィッ!?話を聞いていただろう?兵の数が数倍もの差があって勝てる見込みが薄そうだから将軍共が城に戻って援軍を連れて戻って来る間俺達傭兵が食い止めてろって言ってただろ!?援軍を連れて戻って来るって言ってたが要は俺達に足止めになれって言ってるのも同じだ!!」
「なっ……!!」
アンダルの手をはねのけるとそいつは『もう終わりだ、もう終わりだ……』などと呟きながらその場を逃げるように去っていった。
「…………どうする?翔」
そう言ってこちらを見てくるアンダル。
……どうしよう?周りの傭兵達も逃げようか……と言う声が聞こえてくる。そりゃあそうだ、こちらは金で雇われている身、命を懸けてまで国に尽くすなどという忠義心は無い。
命あっての物種というものだ、わざわざ死ぬと分かっている戦いをする意味などは全く無い訳なのだから。
「……ジェミィ、どうする?」
「正規部隊の将軍に掛け合おう。あちらとしてもこちらが全員逃げてしまったら元も子も無いはずだからな。話を付けて武器でもなんでも置いて行ってもらって……金になりそうな物を貰ってとんずらしよう!」
「うぉい!」
ぐっ!と拳を握り締めてそう言い放つジェミィ、呆れを通り越して清々しいまでの守銭奴っぷりである。
いやまぁ戦っても敗北確定で報酬貰えないんだから仕方が無いのかもしれないけどさぁ……まだ現代っ子の良心が残ってる俺としては心苦しいというか……
「テントでも食料でも火薬でも……木材だって裏ルートで売れば金になりますぜ!」
「フフフ……そこらの事はまかせたぞアンダル」
「勿論で、報酬は七対三で……」
「お主も悪よのぉアンダル」
「ジェミィ様こそ……」
ああ何だろう……ジェミィとアンダルの姿が悪代官と越後谷に見えてきた……
隣を見るとティールが頭を抱ええていた。ジェミィの一件をアンダルから聞いた時は常時とのギャップに軽く眩暈がしたが一応ティールは常識人だからな……
しかしテントや木材、それに火薬……待てよ?
「おい二人とも、俺いい事思いついたぞ?勝てるかもしれない秘策」
「は?」
「え?」
ジェミィが不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。
俺はたったいま思いついた作戦を薄笑いを浮かべながら三人に話した。
「!?そ……それはいくら何でも無謀だろう!!一方間違えれば全員が危機に……それに翔は体が保つのか?」
「大丈夫!だけど下準備にはアンダル達も含め傭兵全員に手伝って貰う事になるけど……」
「それは大丈夫だ。少しでも生き残る方法があると言えば奴らは手伝ってくれるだろう」
「オーケー、それじゃあ頼む、俺は将軍の所に行って来る……まずは指揮権貰わないといけないからな」
「おう!こっちもやれる事はやっとくぜ!傭兵共も出来るだけ引き留めとく!」
「あぁ!集まった奴らは此処へ集合させといてくれ!」
そう言うと俺は将軍達が居る天幕へと走って行った。
「ふむ……いいだろう。お前の強さは前の一戦で実証済みだしの」
「では将軍……宜しいですか?」
「皆は……良いのだな?」
「我々に異論はありませぬ」
「……うむ、分かった……貴様に現場の指揮権を任そう」
俺は将軍達に現場の指揮権を貰うために掛け合ったら案外すんなりと承諾された。
もうちょっと手こずると思ったんだけどなぁ、意外と簡単に承諾された事に肩透かしを食らったような気分だった。
まあ誰が傭兵達の監督官をするかで揉めていたらしい将軍達は誰も負けがほぼ確定している戦闘の指揮などやりたくは無かったのだろう。
「ありがとうございます……それでは」
「………待て」
こちらの用事は終わったので軽く会釈をしてテントの外へ出ようとすると将軍と呼ばれていた人物達の中の一人がが立ち上がりこちらに向かって歩いてきた。
いかにも歴戦士と言った雰囲気を漂わせるその風貌は彼が全く老人だという事を感じさせない程であり思わず息をのむほどの威圧感が漂っていた。
「……半日だ」
「はい?」
「半日までに援軍を連れて戻って来る……それまで頼んだぞ」
俺の目の前まで来ると将軍は俺の肩に手を置いてそう言うと続いて立ち上がった兵士と共にそのままテントの外へと出て行った。
暫く唖然としていた俺を残しワンテンポ遅れて残りの将校達も慌てた様子で後を追って外へ出て行った。
その後、兵士達が出て行くのを見送った後、残していってもらった資材と資料を貰い自軍の数と相手の数を比べてみる。
傭兵部隊は約二千人に対し相手の反乱軍は三つの部隊で三千、三千、二千の合計八千人か……諜報部隊の人ご苦労様です。
相手の兵力差は約四倍か……しかも後もう暫くでこちらに来るという。
……こりゃあ結構急がなきゃあな。
俺は手早く資料を纏め上げるとテントの外に出てアンダル達が待っている広場へと急いだ。
因みに傭兵達は少しばかり逃げ出してしまった奴もいたが殆どは残ってくれた。
多分前回、前々回での俺の働きならば勝てるのではないか……という希望があっての事だろう。
死ぬような思いをした見返りがこんな所で来るとは嬉しい限りだ……俺がこれからやろうとしている無謀な作戦に参加してくれる傭兵達には感謝しなければ。
「よ~し!全員居るな……時間が無いからさっさと始めるぞ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉ!」」」」」
広場に着くと待ってましたとばかりに傭兵達が俺の所へ駆け寄ってくる。
俺は傭兵達の期待の眼差しを受けながら全員の目の前に立ち俺は大声でこれから始めるとんでもない作戦の説明を始めた。
最初の方はきょとんとした表情をしていた傭兵達だったが最後の方では『面白れぇ作戦だぁぁぁ!』と叫んでいる奴が居た。
結構ノリの軽い奴らが多いな本当に……全員の命かかった作戦だってのに。
「よ~し、これから俺達は決死の大作戦を始める!失敗の許されない一発勝負だ……全員心してかかってくれ!」
「「「「「了解ぃぃぃぃ!」」」」」
こうして俺の考えた”生きのこり大作戦”が始まったのである……
「……なぁ、思ったんだけどよ……この作戦名ダサくないか狼騎士さん?」
「何いっ[ガーン!]」
やっちゃったよ………自分の力量では分けないと無理なんですスイマセン………
今日の満足度は結構高い……かもしれません。
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