第一章 十四話 ~黒炎の狼騎士~
飛び交う罵声、金属がぶつかり合う音、絶え間ない悲鳴。
俺の目の前ではまるで映画の世界に飛び込んだかのような光景が俺の目の前に広がっていた。
そう、ここは映画の世界では無い、現実である……どんな臨場感のある戦いをビジョン越しに見ていたとしても現実に起きているのを目の前で見ているのでは全然違う、臨場感なんてレベルを通り越して恐怖しか感じない……戦争は命がけだという事が身に染みて分かる。
「何なんだチクショー!!!」
そして今俺はそんな戦場の真っただ中を全力で突っ切りながら戦っております。
何でって?そんなん知らねぇよ!気付いたらロボの背中の上に居たんだ!
窓から殴り飛ばされてからの記憶が全くないから多分その後気絶したまんまロボの背中に乗せられて出発させられたんだろう。
事実俺が目覚めた時には俺はロボに乗っていたんだが……うん、開戦と同時に走り出したロボの上でバランスを崩して転げ落ちました。その後は流れに任され突っ込む傭兵さん達と一緒に前線へGO……という訳だ。
全く酷すぎんだろ、何か頭痛がするし……これ絶対頭打ったせいだよな、この戦いが終わって生きてたらジェミィに文句言ってやるぞ、絶対にだ!
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ!」
民間人(兵)も襲って来るしぃぃぃぃ!!
ってか何だよこいつら、本当に一般人か?確かに装備はこちらと比べると貧相だし私服を着てる輩も多いけど……
今まで襲い掛かってきた奴らはみんなボディービルダー宜しくなはち切れんばかりの隆起した筋肉してるし顔も鬼のような形相だった……正直こいつらは正気だとは思えない。攻撃もただ単に叫びながら手に持った武器振り回してくるだけだし。
何かに洗脳でもされてるのか?まあどちらにしろこっちが生き残ること優先だ、洗脳されて他って言うなら同情するが同情して殺されるのは御免だ。
「じゃあな!」
「[ザシュッ!]ゲウッ!」
俺は刀で襲い掛かってきた兵の喉笛を切り裂く。スピードならこちらの方が圧倒的に上なので相手が攻撃する前に懐に飛びこめればこっちのものだ。
もう何人こうやって殺しただろうか……不思議な事に罪悪感は全く感じられない。もしかしたら感じているのかもしれないが。
「グルァァァァッ!!!」
「え……うぎぃあぁぁぁぁ!」
正直神経がおかしくなりそうだ、周りは血、死体、血、死体、そればっかりだ。見渡しの良い緑色の平原が今や赤黒いグロテスクな大地へと変貌している。
その光景を見ると少し気持ち悪くなってきた、目の前がクラクラする。吐きそうだが生憎朝から何も食べていないので吐いてはいない……と言うか吐けない。
「オオオォ………」
「死ねぇ!」
「ぐへぇあっ!」
「エ゛アァァァァァ!」
「しまっ……うぎゃぁぁぁぁ!」
周りではもう敵味方など分からない程混沌とした状況になっていた。
敵味方問わず次々と息絶えていく。
ゲームなどとは比べ物にならない。所詮はゲームはゲーム、現実などとは計り知れなどしないだろう。
実際に隣で剣を振るっていた奴が体から血を吹き出し倒れ、息絶える様を見たらゲームなどと例えて気を和らげる事など出来ない。人の思考など簡単に押し潰すくらいの恐怖がのしかかってくるのだ。
「オエッ………」
その恐怖のせいで精神的には完璧に参ってしまっている。あ~、吐き気が凄い……今すぐにでもこの場にへたり込みそうだ。しかし今ここでへたり込んだら間違い無くお陀仏だ。
どうにかふらつく体制を立て直し前を向くとそこには今まさに武器を振り下ろそうとする数名の敵が……
あ、俺終わった……
「グルァッ!」
「ん?……ロボ!」
「[グシャァツ!ザシュッ!]グルオォォッ!」
「アグオォォォ!?」
俺が死を覚悟した瞬間俺と敵との間にロボが割り込みあっという間に敵を蹴散らした。
ロボは唖然としている俺の方を見ると近寄ってきて……
「クゥン」
「[スリ……]うぉ!?おい止めろって」
突然体を擦り付けてきた、いきなりの行動に驚いたが多分これは俺の事を心配してくれているのだろう。
正直今ロボが居なければ俺は死んでいただろう、俺はいくらか恐怖が和らいだ気がした。
こんな情けない俺を心配してくれているロボに感謝しないとな……
「……よし、俺は大丈夫だ……行こう」
そう言って無理やり笑顔を作りロボの頭を撫でる。
ロボは少し心配そうな顔をしていたが、俺が『大丈夫だから』と言って撫でると、ロボは前を向き伏せをした。多分乗れという事なのだろう。
これは期待に応えなければなるまい、俺はロボの背中に跨った。
「よし行くぞロボぉぉぉ!」
「オォォォォォン!!」
俺が号令をかけるとそれに応えるようにロボが吠え走り出した。
「[グラッ……]うぉ!?ちょっとタンマ!落ち……うおわぁぁぁ!」
…………俺を振り落として。
その後……戦闘は一応民間兵の撤退という事で勝利したらしい。
ロボに振り落とされた後は大変だった。前に居た敵はロボが異様な無双っぷりを見せて蹴散らしていたのだがロボの攻撃を回避した奴らが俺の方へとなだれ込んで来たからもう大変。
仲間は殆ど後ろに居て周りを見回しても誰も居ない上目の前前には目がイッちゃってる民間人(兵)が槍やら剣やらを振り回して突っ込んで来ていた。その数ざっと見ただけで数十人。
……暴れましたよそりゃあもう!炎球撃ちまくったり剣から斬空波出したり……人に向かって放ったのはこれが初めてだったが、放った所から約十数メートル位離れた所に居た奴らまでが上下半分になって崩れ落ちるのは確認した。
その後の事は必死過ぎてよく覚えていない。気がついたら周りに敵が居なくなっていて周りには焼け焦げた死体やブロック肉と化した敵が山積みになっていた。
ロボが死肉を漁ってたけど………最後まで目にしたら二~三日はトラウマになる事間違い無しなので見て見ぬ振りをして歩いて本陣まで帰った。
日も暮れ身も心も限界まですり減らされヘトヘトの状態で本陣に帰り着いた俺を待っていたのは………
「おい!“黒炎の狼騎士”が帰ってきたぞぉぉぉぉぉ!!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」
俺を称える大声援だった……一体何事だ?
何か凄い事したのか俺?などと思っているとジェミィ、ティール、アンダルが駆け寄ってきた。
「おぉ翔!いや凄かったな!」
「流石です……どうやっても私には真似できませんね」
「派手にやったな………翔」
「は?何を?」
俺が状況を理解できずキョトンとしていると、やれやれと言った表情でご丁寧にティールが説明をしてくれた。
その内容はこうだ。
あの民間人達は正直に言って身体能力が異常だったらしい。剣で切っても魔法を唱えても簡単には倒れないので苦戦していたそうだ。
更に敵が二手に分かれ挟撃しようとしていたらしいのだが俺を乗せたロボが挟撃しようとした一方に突っ込んで来て一気に相手を蹴散らし俺が有り得ない数のエアブレイド(斬空波の事、皆さんに何故かそういう名前にされていた)と紫色の炎を出して挟み撃ちにしようとした敵を次々と倒していったらしい。
その間にジェミィ達は残りの半分を相手取って戦っていたらしい。
つまりは俺とロボが敵の部隊の半分を丸投げされていたという事か……
その後敵が撤退していく中ジェミィ達にも撤退命令が出され帰還したのだが俺は戻って来なかったそうだ……当たり前だよ、周りの声なんか聞こえるかってんだあの状況で。
……それにしてもあの死体の山は俺とロボの一人と一匹で成した訳だったのか…………我ながら恐ろしいな。
やっぱりまだ俺は力に振り回されているんだな。力を持った以上制御できるようにしなければ……ただ力任せに戦っているだけならそこらの獣でも出来る訳だし、修行をする必要があるかもしれな……
「[グイッ!]おいおい今回一番の軍功をあげた奴が何て顔してんだよ!さっさとこっち来い!」
「え!?ちょ……」
そんな事を考えていたのもつかの間、あっという間に他の傭兵達に囲まれ、
「さぁ!今日の主役はてめぇだ!楽しもうぜオイ!」
「いや俺もう休み「問答無用!」……ハイ」
宴会に強制参加させられた………勿論酒は飲ま無いぞ!これでも俺は日本人なん……
「さぁ!まずは一杯!」
「え……ちょっと待グボガバァッ!!」
間髪入れずに酒瓶を口に押し当てられました……それ一杯じゃねぇだろどう考えても!
抗議しようにも口の中に酒が流し込まれ反論出来ない。畜生、こいつら絶対酔ってやがるだろ!
親父、母さん……ゴメンナサイ。俺、法律破っちゃったよ…………
一気に酒を流しこまれ、意識が遠のくのを感じながら俺は元の世界に居る両親に謝ったのだった。
~???サイド~
「ふむ………資料を見る限りだとまだまだ補完すべき点はあるようですね」
「ふん、当たり前だ!大雑把な指令しか出せんようではそこらの魔物と大差無いぞ!」
暗い部屋の中、フードを被った男同士が話し合っている。
「フフッ、余り急かさないで下さい……急いては事をし損ずる、と言いますよ……今回はご満足頂けるかと」
「毎度同じ事を言われて信用できるか……貴様の顔を見ていると腹が立つ、その挑発するような……見下した顔、そして声がな」
「そうですか……しかしこれだけはどうにもなりませんので」
「皮肉も分からんのか貴様は。金も地位も利権も要らない、欲しいのは価値の無い荒廃した土地と薬効の資料だけ……不気味な奴らめ」
片方が声を荒げるのに対しもう一方は冷静に、そして淡々と喋っている。
「土地はおまけですよ、本当に我らが欲しいのは薬効の資料だけですからね、本音を言わせて貰えば誰でもいいのです。我らとしては大規模戦で運用する際の実験として貴方の目的が最適だと判断した……それだけです」
「……フン!貴様らは全く手を汚さずに済むから……か、まぁこちらも強い兵は欲しいからな……利用するだけ利用させて貰うさ。それで、例の品は?」
「用意できております、すぐにでもそちらにお持ちを」
「出来るだけ早くしろ……彼らが城に居ない今が好機、明日にでも運び込め」
「了解しました……」
返答を聞くと片方のフードの男性は立ち上がり無言で部屋を出ていった。
部屋に残されたフードの男は男が出て行ったのを確認すると一人笑いながら、
「ま、精々頑張ってくださいよ」
そう小さな声でぽつりと呟くと煙のようにその場から消え去った。