第一章 十三話 ~気絶と睡眠は違うと思う~
「…………知らない天井だ」
俺が目を覚ますとそこは俺の知らない部屋だった……当然か、しかし嫌な夢だったな。
どうやら俺はベットに仰向けに寝かされていたらしい。因みに俺は寝ているときには動かないタイプだ。
まあ昨日の事からして殴り飛ばされた俺は気絶してその後宿に送られベットに寝せられた……という事だろう。
まあそれはさて置き今大事なのは自分の状況を確かめる事ではない……
「何だこの重みは……?」
俺は今腹付近に謎の重みを感じている。
何か嫌な感じがするんだ、いや腹に重みがあるという単純な不快感では無くもっとこう……見てはいけない物があるような、見たら確実に厄介事になるようなそんな感じが……
しかしこのままでは俺は何時まで経ってもこのベットから起き上がる事は出来ない、意を決して起きあがるとそこには……
「スゥ………スゥ………」
ジェミィが寝ていた。体勢は………アレだ、アニメでヒロインが主人公を看病していて眠ってしまったの図だ。思いっきりそれだ、他に表現出来ない。
上半身を起こしたためころりと頭が俺の体から落ちる、どうやら俺の胴に頭を預けた状態で状態で眠っていたようだ。
以外にかわいい……じゃねぇ!何だこの変な展開は!?意味が分からない、一体どうしてジェミィがこんな所で寝ていたんだ?俺は一体どうすれば……
どうしたらいいのか分からず布団で上半身だけ起き上げて固まっていたらふいにジェミィの体が動いた。
ヤ、ヤバい!何がどうヤバいのか分からないがヤバい!俺の心が警鐘を鳴らしている!
「[パチリ]…………ん?」
ジェミィが目を覚ました。眠気眼で左右を見て……俺と目が合う。
「オ……オハヨウゴザイマス」
「………」
一瞬の沈黙……そしてジェミィは今の自分の状況を理解したのか顔を真っ赤にして……
「え、あ、私……翔!?……えと…………これは………いやぁぁぁぁぁぁ!!」
「[バキィッ!]ごふぅっ!?」
鋭いパンチが俺の顔に突き刺さった。パンチの威力で俺は再びベットに勢いよく上半身を横たえ……いや、叩きつけられた、何て馬鹿力だ……
何故だ!何故殴る?いきなり起きて混乱して殴るって何だ!メダ○二でも唱えられたのかよ!?
「うわぁぁぁぁっ!!」
「[ドォン]うごぶへっ![バリン!]………へ?」
………何だこの音は、そして何だこの周りに浮かぶガラス片は………そして何より何で俺は宙を浮いているんだ?何故世界が反転してるんだ!?
そして俺はそれがジェミィに魔法の一撃を受け窓を突き破って今落ちている最中だと気づいた瞬間、頭にゴスン!という鈍い衝撃音が響き、俺は痛みを感じる間もなく意識を手放した。
~ティールサイド~
「フフフ…計画通りに行けば………」
宿の下の酒場、そこで私は不気味な笑みをしていた。隣には呆れ顔のアンダルと昨日翔と共に酒場を荒らしていたヘリムが居た。
……時間からしてそろそろだろう、あの仕掛けが成功すれば私の計画の第一歩が……大いなる計画が動き始める。
大いなる計画……それは翔とジェミィをくっつける事……何でそんな事をするのかって?それはだな……
俺は………他人の恋を第三者視点で見るのが好きだからだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
何故翔とジェミィを選んだのか……それは簡単な事、二人共なかなかいいカップルになるんじゃあないかと思ったからですよ、まあ助けられた事もありますが彼らの出会いを聞けば………ねぇ?中々いいじゃあないですか、シチュエーション的に。
無論第三者視点で見れればなんだっていいって訳では無い。
例えとして考えてみて下さい、筋骨隆々でいかつい悪人顔したアンダルと分類すれば間違いなく美人に分類されるジェミィ、この二人でのカップリングでは………ダメだ!ダメなんだぁぁぁぁ!!
うぁぁぁ……想像しただけで吐き気してきた。私のユニコーンとしての美的感覚が許さない………
といっても私の本当の姿角が生えた馬だからアンダルの姿の事言えないのだが。
………誰に話してるんだ私は。それに口調も若干乱れてしまった……
「おい、ティール……あんな事してホントに良かったのか?」
「いいに決まってるじゃないですかアンダル!やって減るもんじゃないですし」
心配そうな顔をして聞いてくるアンダル……私の行動に若干引いているようであるが私は全くそんな事は気にしてなどいない。
そう!私が好きでやってる事ですし!いや、それ以外にもあるんですがね……
「ククッ、ジェミィさんにコッソリ催眠呪文をかけてあんな体制で翔の所に置くなんて……」
「催眠呪文をかけたあなたが言いますか?」
「頼んだのは貴方でしょう、仕方なしにですよ……」
「仕方なしにしては嬉々としてやっていたのは何処の誰でしょうねぇ?」
「そちらこそ……所で貴方の真の目的は何ですか?」
「む?………やはり分かっていましたか」
「仮にも情報屋ですよ?その程度見抜けませんと……」
そう言ってニタニタ笑うヘリム。こうなっては仕方が無い……私も笑みを返し、一冊のノートを彼に手渡した。
「? これは何ですか…………これはっ!!」
「ん?何だ……………!!?」
ヘリム氏は手渡されたた本を開き数ページめくると驚きの声を上げた。続いて覗き込んだアンダルも声は出さないが驚愕の顔をしている……二人が驚くのも無理は無い、そこに書かれていたのは……
「「恋愛本か?」」
そう、男女の恋を書いたものだ。実はこのような男女の恋愛を書いた本はこの世界には殆ど取り扱われていないのだ。
まだまだ未完成であり足りない部分ばかりであるが……いつか完成させると心に誓った本である。
「な……何故この様な本をっ!」
アンダルが緑の顔を真っ赤に染めて聞いてくる。
仕方の無い事だ……この世界では恋愛本=艶本と言った意味合いが強いからだ。恋愛本と言ったらそうとられるのが普通である。
「私は……純粋な恋愛本がこの世界に無い事に長い間疑問を持っていた!何故この世界には本が山ほどあるというのに恋の話に重点を置いた本が無いのか!私は考えに考えた末一つの結論に至った……書く者がいないからだ!」
「…………いや考えなくとも当たり前だろ」
何故当たり前だとアンダルは言ったか………それは簡単な事である。
種族が違えば又恋の仕方も違う。この世に数え切れないほど居る種族に同じ共感を得る作品を作ることなど不可能に近い事だからである。
従って書物を書いてもその一種族だけにしか共感が得られない事が多く普及が全くしないのだ。
その為恋愛本=艶本にしないと巻数が稼げずどうしてもそちらの方へといってしまい内容も……そっちの方向が強くなってしまうのだ。
「アンダル、甘い!甘いぞ!!当たり前!?ふざけるな!私は何としてでもこの世界に認められる恋愛本を書いてやる!まずはその中でも一番多い魔族型(人間型)の種族の恋愛を見たいと思っているんだ!」
そう言って私は勢いよく立ち上がる。周りの客が何事かと私の事を見るが気にしない。
アンダルは呆れた顔をしていたがヘリムは私と同じく立ち上がって、私の事をまっすぐと見つめてきた。
「……素晴らしい意気込みだ!俺で良ければ出来る範囲で手伝わせてくれ!」
そう言って私の手を握ってきた。
おお、ここにまた同志がまた一人誕生したぞ……嬉しい事この上ない!
こうして此処に恋の話に飢えたオス達の同盟にまた一人誇り高き志を持った雄姿が加わった。
………しかしその後私達に悲劇が起こった。
「……そういえば翔とジェミィ起きるの遅[バリン!]何だ!?」
突然外で窓が割れた音がし、私達が驚いて窓の外を見ると翔が頭から落ちて来た。
驚いて俺達は店の外に出ると頭から落ちた翔が倒れていた。驚いて抱き上げてみるが翔はピクリとも動かない……まさか……死んだのか?
「「「…………」」」
私達は翔を抱き上げた状態で青ざめていた。それには理由が二つある。
一つは今の光景を見たこと。そしてもう一つは……
「おい…………そこの三人」
………とんでもない殺気を出したジェミィが大剣を持って後ろに立っている事だった。
一体その剣はどこから持ってきた物だろうかと思ったが店の中の傭兵の一人が私たちと同じぐらい青ざめて大剣が収まっていたと思われる鞘を握って震えていた。
多分ジェミィに剣を貸せとでも言われたのだろう……この顔で頼まれたら渡さざるを得ない。
ジェミィはドスの利いた声でゆっくりと口を開いた。
「さぁ貴様等……私にあんな事をした「「コイツです!!」」……そうかティール貴様か」
早いっ!二人共返答が早いっ!そしてヘリム……私を裏切ったなぁぁぁぁ!
二人を見るとアンダルは真っ青になって汗を流し、ヘリムは『済まない、これは無理だ』といった目でこっちを見ていた。
……ふむ、それなら仕方が無い……私だって違う人間が主犯格だったら間違いなくその人物に指を指していた事だろう。
「フフフ…………私にあんな思いをさせて………どうなるか分かっているな?」
「……………」
大変だ、これは確実に“コロス”といった目をしている。
今の私の心境は死刑宣告をされた罪人……といった所だ。軽い絶望感……しかし私は後悔はしていない。
例え私がこの場で力尽きようとも同志の誰かが私の意思を引き継いでくれる筈だ、私はそれを天国から眺める事になろうとも……
「さぁ………来い」
そう言ってジェミィは私の首を掴むとズルズルと引きずっていく。
済まない今までのは嘘だ、死にたくない!私はこんな所で恋の探求を終わらせたくない!
しかし私の抵抗むなしくジェミィは私の事を二階へと引きずっていく……それはまるで罪人が処刑場の階段を登らされているような感覚であった。
そしてジェミィは私を宿の一室に放り込むと扉の鍵を閉めて……
「イ……イヤだ、ちょっと待て、ジェミィ済まなかった!!許してくれぇ!え!?なんだそれは?そんなもの使ったら私の体アッーーーーーーーーーーー!!!」
その日、傭兵達が泊まっていた宿を中心に男の悲痛な叫び声が朝のディアトリアの城下町に響き渡った……
いつか私……他の作者さん位の長さで一話が書けるようになりたいです。
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