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第五章 九話 ~調査隊の置き土産~

ティールを叩き起こした後オクターデさんに追い着いた俺達は要塞の目の前まで来ていた。

要塞の入り口と思われる門は半壊しており周囲には既に動かなくなったゾンビが多数。中には鎧と灰だけになったものまで……一体どうやったんだ?


とりあえずはジェミィ達はこちらに殴りこんだのは分かったのだが……何故正面突破したし。

まあこちらが要塞に入る苦労が減ったのはいい事なのだがオクターデさんは『効率的ではない……』とブツブツ呟いていた。

要塞内部に入ると既に入り口付近は完全に制圧されていたようで敵は影も形も見当たらなかった。


「これ放っておいてもあいつ等だけで制圧するんじゃ……」

「かも知れないな……とりあえず敵の排除は奴等に任せて我等はここの調査及び調査隊の遺留品回収だ」

「分がっだ」

「了解」

「分かりました」

「それでは私は単独で上を、ルドブルとティール殿はこの周囲を、翔殿とフェミナスは調査隊の遺留品を頼む」

「ちょっと待って!何で私がコイツなんかと!」

「それは彼にはお前のお守……適任だと私が総合的に判断したからだ」


今絶対お守りって言いかけましたよねオクターデさん?オクターデさんもその言い方はマズイと判断したのか訂正したのだが少しばかり遅すぎた。


「お守りってなんですかリーダー!私は赤ん坊ですか!」

「赤ん坊では無い、赤ん坊は自分勝手に動き回れないからな」

「~~~~~っ!!!」


当然の事ながら抗議するフェミナスに対して煽るような口調で対応するオクターデさん。

言い返そうにも言い返す言葉が見つからないのか顔を真っ赤にした状態で震えているフェミナス。

何だあのかわいい生き物……まあ見た目に騙されて近づいたら襲われそうだが。

……この人絶対フェミナスの反応見て楽しんでるに違いない、俺の本能がそう言ってる。


「(あがん坊ってよりゃじゃじゃ馬だろぉな゛……)」

「……っ!![キッ!]」

「うお゛っと……睨まないでぐれよ、冗談だ(地獄耳だな゛……)」

「もういいっ、行くぞ!」

「お、応……」


顔を真っ赤にしながらすごい剣幕で歩いて行くフェミナス……しかし全く怖くない。

なんかこう……彼女からはカリスマが感じられない。どっちかというといぢめてオーラが体中から溢れ出てるような気がする……無性にちょっかい出したくなるし。

たぶんこいつはみんなからいじられてるんだろうなぁ……今までのジェミィを見た感じそんな気がする。


「それでは我等も行くとしようか……集合場所はここだ……いいな?」

「分かった、それじゃあ“お守り”に行ってくる」

「ああ……あいつの“お守り”を頼んだぞ」


俺とオクターデさんは顔を見合わせて笑う(多分笑っただろ……顔見えないけど)と俺はフェミナスの後を追った。

こうして若干分担に不満を持っている奴もいたようだがそれぞれの担当を決めると俺達は分かれて捜索が始まった。






「本当に死体しか無いな……」

「ゾンビなんだから元から死体でしょ」

「そりゃそうか」


既に動かなくなったゾンビをまたいで通路を進む俺とフェミナス。

それにしてもこの要塞はおかしい。結構探索はしている筈なのだが入ってきた所の大部屋以外には部屋らしい部屋が無い。厨房も、兵士が寝る部屋もだ……

多分ここはゾンビ兵しか居ない事が前提で作られた要塞なのだろう。生きている者が一人もいない要塞……不気味だな。


「ところでフェミナス」

「ん?何よ」

「さっき体から煙みたいなの出してただろ?あれは一体何なんだ?」


死体しか転がっていない通路を歩くのにも飽きてきた俺はふと思い出したことをフェミナスに聞いてみた。


「ああこれね……[ブワッ!]」

「ああそれそれ……一体何なんだそれ?」

「あたしよ?」

「……へ?」

「だからこれはあ・た・し……私の体を霧状にして分離させてるのよ」


そんな能力が吸血鬼にはあるのか……知らなかった。

俺のイメージだと血を吸って超人的な力があって蝙蝠に変身する……って感じだったんだが。


「普通の吸血鬼は霧になる場合変身をしなくちゃいけないんだけど私の場合は肉体が元から霧なのよ」

「……はい?」


肉体が元から霧?一体どういう事なんだ?

というかそれって最早吸血鬼じゃ無いだろ……


「吸血鬼が元から持ってる能力があるのは知ってる?」

「血を吸うとか……日の光に弱いとかか?」

「それは生理現象と種族の特徴じゃない……ちなみに流水や聖水にも弱いわ」

「吸血鬼は水が苦手なのか……」

「一概にそうとは言えないわ……吸血鬼と一言で言っても生まれる環境によってその特性を大きく変えるから……って話がそれたわね。私達の種族が元から持ってる能力っていうのは霧になる力なんだけど……私はその能力が異常で常時それが発動しっぱなしなのよ。突然変異ってやつね……私の事調べた奴は霧じゃなくて万能粒子だって言ってたけど」

「万能粒子?なんだそりゃ?」

「……説明するより見た方が早いわ……はい」


そう言うとジェミィの周りにふよふよと浮かんでいた霧が一か所に集まり一本の剣となって手元に落ちてきた。

ジェミィに渡されたそれを持ってみると……うん、このずしりと来る感じ、手触り、そして硬さ……間違いない。これ鋼鉄の剣だ……

フェミナスが何故あんなに武器を投げつけて来られたか今理解できた……こういう事だったのか。


「……分かった?」

「自分の体を違う物質に変えられるのか……凄いな」

「材質や形、大きさも限界はあるけどほぼ自由自在よ……研究者達が質量保存の法則を完全に無視してるって頭を抱えてたわ」

「……そうなのか」


確かにエンディアスの図書館で魔法書を流し読みしてた時魔法で物質を変える事は不可能では無いが質量は変える事が出来ないって書いてあったような気がするな……

つまりジェミィは魔法でまだ到達出来ていない地点の技を軽々とやって見せているという事か……恐ろしいな。


「どう?凄いでしょ……得私の事見直した?」

「キャーフェミナスサンステキー」

「欠片も感情こもって無いじゃない!」

「そう怒るなって……」

「こっちが親切丁寧に説明してあげたってのにその反応されたら誰だって怒るわよ!……いいわ、それじゃあ今度はあんたの番よ。洗いざらい聞き出してやるんだから覚悟しなさい!」

「はいはい、何でもお答えいたしますよ我儘お嬢様」

「誰が我儘だー!!」


いちいち反応してくるのが本当にかわいいなコイツは……

その後、俺はフェミナスに自分の事を洗いざらい話していく事となった。






「翔、階段見つけたわ」

「本当だ……地下なんてあるんだなこの要塞……溶岩だらけじゃ無いだろうな」

「う~ん……大丈夫じゃない?暗いから多分溶岩は無いわよ」


暫く捜索を続けると下へと下りる階段を見つけた。

地下はあるんだなこの要塞。俺は近くの壁に掛けられていた松明の一つを取ると地下へと下りて行った。


「ここは……牢屋か?」


階段を下りるとそこは一本道になっておりずらりと鉄格子が並んでいた。

牢獄塔の部屋よりは全部広いな……って牢屋の形が違うから当たり前か……

ここに捜索隊は放り込まれていたのだろうか?


「そうみたいね、もしかしたら捜索隊の持ち物があるかも」

「だな、探してみるか」


俺は通路の壁にかけてあった鍵束を取ると一つづつ牢屋の中を照らして調べて行った。

牢屋の中はベットも何もなく割れた皿や壺、壁に取り付けられた手錠に繋がれて万歳の体勢で風化したぼろきれを纏ったミイラ……ご愁傷様です。

その他の牢獄も同じような状態であり、残りの牢獄も後二つとなり俺とフェミナスの期待が薄れかけていた時、一つの牢獄に真新しい死骸が繋がれているのを見た俺とフェミナスは急いで鍵を開けるとその中に入った。


「……間違いないわ、これ捜索隊の一人よ」

「壁に何か書いてあるな」


壁に死ぬ間際にこの人物が残したと思われる血で描かれたメッセージが書いてあった。



「『となり たいちょう つぼ めっせーじ』……隣に何かあるのか?」

「兎に角隣の部屋に行こう」


俺とフェミナスは調査員の手枷を外して遺体を寝かせると隣の誰も居ない牢屋の中に入った。

先程は誰も入っていなかったのでろくに見もしないまま通り過ぎてしまったが見回してみると一つだけ不自然に逆さになった壺が置かれていた。

それをどかすとそこには小さな手帳が置かれていた。俺はそれを取ってページを広げた。


「何て書いてあるの?」

「ああ待ってくれ、今読む」



~捜査開始一日目~

我等調査団二十三名は本日から聖域の調査にあたる。理由は最近問題となってきている火山活動の衰えによる気温低下の原因究明だ。

私はこのナグファルルの地質・歴史の調査を初めて五十年になるが聖域・ムスペルローズに入った事は一度として無い。

再三ムスペルローズの地質調査を要求して却下されてきたのにこのような理由で入れる事となろうとは……こちらとしては不本意だが仕方が無い。

我等は祭壇からムスペルローズの中へと入った。ムスペルローズの内部の第一層は神殿のような造りとなっていた。一説ではここはスペルムの旧王都があった場所だというのだが……信憑性が増してきたな。

この調査が終わったら是非とも調査したい。


~捜査開始二日目~


本日は第一層の調査だ。特に異常は無かった……というよりこれは後の学会で発表する資料にするための私的な調査だ。族長達からはなるべく早く原因を究明するようにと言われているがまあ一日や二日遅れても問題は無いだろう……全くこの場所は私の心を躍らせる。


調査の結果をまとめてみた所ルリヴェニーザ大陸(現エンディアス大陸)のパレミア山脈の中腹に位置する半壊した神殿と非常に似通っている事が判明した。これはあちらの遺跡も調査する必要がありそうだ……


~捜査開始三日目~


本日は第二層の調査を始める……これが調査の本番と言ってもいいだろう。

この聖域は全三層に分かれており第一層に神殿、第二層に“ムスペルローズガーデン”と呼ばれるこの聖域の地の由来にもなった美しい獄炎の薔薇庭園、そして第三層にはこの大陸の心臓と言ってもいい炎の剣が封印されている空間だ。

それにしてもこの場所は美しい……どうしてこのようになるのか隅々まで調べたい衝動に駆られるがここは我慢だ……時間ならいくらでもある。調査が終わった後じっくり調べても罰は当たらないだろう。

……所で中央に建っている要塞は一体何なのだろう?渡された資料にはそんな物があるなどという事は一つも書いていなかった筈なのだが……


~捜査開始四日目~


悪夢だ、我々はいまこのムスペルローズ中央に建っている要塞に幽閉されている。

私一人が足枷付きでこの文章を書ける事が唯一の救いだろうか。持ち物は全て没収された。万が一にと思いこの手帳とペンを下着に隠しておいてよかった。

私達はまず中央に建っている要塞を調査しようと思いそこへ向かった。しかし私たちを待ち受けていたのは悪魔の下僕と化したゾンビ達であった。

我等も必死で戦ったが数の暴力には勝てず隊員の大半は殺され溶岩の海に放り込まれてしまった。

我等は降伏し残った数人の隊員達と共にこの薄暗い牢獄の中に閉じ込められた。

こんな事が起きるなど誰が予想していたであろうか……私はここで死ぬ運命なのだろうか。


~捜査開始五日目~


ゾンビ達の司令官と思われる男が私達の前に現れた。

しかし彼もまたゾンビである……しかし彼はゾンビだとは思えないような理性を持っていた。

そして自惚れ屋のようである。自分がどれほど有能か、そして不死では無い事がどれだけ不便な事かを延々と我々に話した後悠々と立ち去って行った。

彼をうまく使えば色々と聞き出せるかもしれない……


~捜査開始六日目~


私達は明日処刑される事となった。あの司令官のゾンビが私達にそう言ったのだ。

私は族長会議であらゆる場所の調査を承認させるために培った口八丁を使って彼を煽てて秘密を聞き出すことに成功した。

彼らは一人の強大な力を持った死霊術師によって作られたゾンビだという事、そして彼らの目的はこの地に封印されている巨大な戦艦ナグファルを封印から解き放って大陸を征服する事であった。

大陸の軍隊をまるまる乗せられる程巨大な戦艦ナグルファル……そんなものが復活したら大陸が大変な事になる……

彼らは封印の要となっている人柱を守る結界となっている膨大な炎の剣の魔力を特殊な魔具を使い吸収、細分化して自らのゾンビの魔力の供給源として使っているのだ。彼らが殆ど体が朽ちていないのと身体能力が異常なのはこの為である。

そして剣の魔力が殆ど失われた後、その魔力で守られていたナグルファルの封印の人柱を殺すつもりなのである。

その人柱を殺す役目を受けているのがここの司令官である。もうじき人柱を守る結界が消えてしまうそうだ……

そのような事があってはならない!どうにか出来ないものだろうか……


~捜査最終日~


捜査の終わりの日というよりも私の人生の終わりの日である、後数刻すれば私を処刑するためのゾンビ達がこちらに来る事だろう。

私に出来る事と言えばこの手記をこの場所に残す事くらいだ。

しかし普通にここに置いて行ったらマズイ。なのでここらに置いてある隠せそうなもの……壺の中に隠す事にする。


隣に居た隊員は司令官ゾンビの気まぐれで生かされる事になった。死ぬまで暗い部屋に居ろとの事だそうだがこちらにとっては好都合、彼に手記の隠し場所を託す事にした。

……若干心配な点はあるが私がやれる事はここまでのようだ。

足音が聞こえる、私達が死ぬ時間が来たようだ。後続で派遣された誰かがこの手記を手に取ってくれる事を切に願う……






「こいつは結構重要な情報が手に入ったな」

「そうね……他には何も無さそうだからこれを持って集合場所[ドォン!ドォン!]……!!」

「うぉ、何だ!?」

「リーダーが戦闘を始めたみたいね……行きましょ」

「応!」


俺は手帳をポケットにしまうと地下牢を後にした。

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