第五章 六話 ~ムスペルローズ 灼熱の門 ~
[ガタガタガタガタ……]
「結構揺れるなぁ……」
あの後俺達一行はサイネルさんが用意した馬車……じゃないな、思いっきり引いてるの四足歩行の竜だし。竜車に揺られて目的地である……名前何だっけ?……なんとか火山に向かっていた。
それにしてもこの竜車結構なスピードで移動してるぞ、揺れが激しい原因はこれか!
「殆ど舗装されて無い道だからね、普通はこんな所まで来る人なんかいないですから」
「人が来ないってことは……特別なとこなんですかね?」
「そうですよ、ムスペルローズは私達の一族にとっての聖域にあたる所なんです。なので大きな部隊は派遣できないので傭兵ギルドに助けを求めたんですよ……」
俺の隣に居るサイネルさんが俺に丁寧に説明してくれる。
うん、そうだ……俺達が向かっているのはムスペルローズという所だった。名前に火山は付いてなかったな!うろ覚えでもねぇよこの野郎……
しかしローズって薔薇って意味だよな確か。こんな殺風景なところに聖域と言えど薔薇の名前を冠する程美しい場所があるとは思えないんだがなぁ……
「しかし不思議ですね、自国の領土の調査を……それも聖域と呼ばれる場所をギルドに任せるなど普通では考えられない事ですね」
「ああ、それは……」
ふいに今まで黙っていたジェミィが口を開いた。
しかし開口一番にそんな事を言うとは……遠まわしに理由を聞かせろって言ってるように思えるんだが…
サイネルさんは苦笑いをしてオクターデさんの方を見た。
「どうしましょう…」
「私に問われても困ります。任務の詳細は私からは明かせませんので」
「あ、そうだった。依頼内容に触れる部分は他言無用と書きましたからね」
「その通りです」
う~んと唸りながらもじもじしていたサイネルさんだったが意を決したのか俺達の方をみて口を開いた。
「実はですね……最近ムスペルローズを含む全ての火山活動が衰えてきているんです……まだ一般の国民達は知りませんがね……この国にとって火山はこの大陸の原動力、環境と生態系を維持する要そのものなのです、もしこのまま火山活動の衰えが進めば大陸の気候変動が起きて大変な事態になる事は避けられません」
「……国は動いたのか?」
「ええ、勿論です。国の調査隊を何回も派遣したのですが……どの調査隊も帰っては来ませんでした」
「ふむ……それで傭兵ギルドに調査を依頼したと」
「はい、その通りです……」
そこで何故かしゅんとした顔になるサイネルさん。
「私は危険だから最初から実力のある者に調査をさせようと言ったのですがこの若さですから他の人に取り合って貰えなかったんですよ……実を言うと貴方達を呼び寄せ調査に向かわせるのは私の独断です」
「え?調査をさせようと言った?独断?」
「あ、はいそうです……それが何か?」
……あれ?俺この人と普通に喋ってたけどもしかしたらこの人って……凄い偉い人じゃね?
俺はオクターデさんの方をぎこちなく首を動かして見る。
「……え~と、オクターデさん?この人って……」
「ああそうだ、言い忘れていたな。彼は炎の民の族長の一人だ」
マジかよ。なんで俺はこう何度もお国の重役と絡む事が多いんだ……
まあ真面に考えてみりゃあ黄金郷の場所知ってるらしいし権力もあるっぽい発言してたからそうかなとは思ってたんだけど…
「確かこの国は族長会議で動いてるらしいですから……かなりの重役ですね」
「まあでも族長の中では一番若いからね……発言力は結構弱いよ」
「しかし意外ですね、貴族階級の者達は基本的に傭兵ギルドとは折り合いが悪いのに……」
「あはは……ちょっとそれには理由があってね」
ティールは本当に唐突に話に割り込むのが好きだな。しかも片手にちゃっかりとノートとペンを持ってるし……まあそれにしても貴族は傭兵ギルドと折り合いが悪いって何でだ?
……あ、そっか。戦士ギルドって貴族や王族がが中心だからか……
「十年前父が他界してね……早すぎる死だったよ。族長は世襲でね、基本的には息子がその後を継ぐんだけど叔父が戦士ギルドを盾に僕をその……暗殺しようとしてね。その時藁をも掴むような思いで傭兵ギルドに助けを求めたんだよ。その時護衛として来てくれたのがオクターデなんだ……」
「ふぅん……」
俺達は揃ってオクターデの方を見た。するとオクターデは無言で俺達から顔を背けた。
……なんだそんなかわいい反応するんだよオイ。
「昔からあんなんだよ、恥ずかしいと無言で顔を背けるんだ……表情なんて分からないのに」
「恥ずかしがり屋なんだな」
「……」
俺達の方に顔を向けようとせず武器を取り出すと無言で手入れを始めるオクターデさん。
……逃避してるんですね、必死に耳に入らないようにしてるんですね分かります。
「まあ話を戻しましょう……貴方達にして貰いたいのは二つ、一つは調査隊の安否確認……生存率は絶望的ですが遺品だけでも持ち帰って欲しいです。そしてもう一つは火山活動の衰えの原因究明……まあ理由は大体ですが分かるんですがね」
「理由が分かってるんですか?」
「ええ、実はこの火山は普通の火山と違って……何て言いますか……人工的な火山なんです」
「人工的な火山?」
……人工的な火山ってなんだ?もしかして人為的に岩盤をぶち破って特殊な魔法やなんかで溶岩を誘導したとかか?
ハッ!もしやそれで何らかの事故が起きて暴発してこの大陸が形成されたのか!?
「この火山帯の中心ムスペルローズには世界を焼土に変える程強大な力を持った剣が封印されているんです」
「世界を……焼土に?」
なにその中二が喜びそうな設定……世界を焼土にって某火の七日間の巨人さん達じゃあるまいし……
「ええ、その剣は昔世界を一度崩壊させたそうでその剣の持ち主と主人は剣と共にムスペルローズの奥深くに封印されと伝わっています……その剣からこぼれ出る炎の魔力がこの大地に流れる溶岩を作り出しているんです」
待て、こぼれ出た魔力程度で大陸をここまでひどい有様に変えられる剣に近づいたら俺達は問答無用で蒸発しちまうんじゃねぇのか!?
「……ねえサイネルさ[ゴトンッ!]うおっ!」
サイネルさんにその事を聞こうとした瞬間竜車が止まり俺は体制を少し崩した。
勢いよく止まるなオイ。もう少しで壁に頭をぶつける所だったぞ……
「目的地に到着です……さあ降りましょう」
「あ……ちょ……」
言うが早いかサイネルさんはさっさと竜車のドアを開けて外に出て行った。それに続きジェミィ達や傭兵ギルドの面々も続々と竜車を降りていく。
「俺も出なきゃな」
ポツンと取り残された俺は竜車から降りて外の様子を見てみる。
「……殺風景だな」
外の景色はただひたすら黒い平地が広がっている場所だった、所々に巨大な岩が点在している以外は特に変わった所は無い、どうりでさっきから揺れが無かったわけだ……
「おーい翔!早くこっちに来い!」
「ん?ああ分かった」
特に目を止めるような景色では無かったので俺はさっさとジェミィ達の方へと歩いていった。そしてそこで見たものはとんでもない光景だった。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!」
「これが聖域・ムスペルローズだよ」
俺の眼前にある景色は恐ろしく巨大な割れ目だった、もう大きいとしか言えない。さながら地獄の入り口のようだった。恐る恐る底を見てみると割れ目の壁や底から鮮やかな色の溶岩が凄まじい勢いで吹き上げている。もう割れ目全体が真っ赤だ、明るいオレンジ色だ。
……待ってくれ、これ一体どっから入るんだよ、周りを見てみても崖に突き出した祭壇っぽいの以外に人工物っぽいのが皆無なんだが。降りる階段とか洞穴とか隠し通路は無いのか?
「どこがローズなんだよ、思いっきり地獄の入り口じゃないか……」
「ですね、さあ入り口に行きましょう」
サイネルさんは俺の言葉を軽くスルーするとスタスタと割れ目にある突き出した祭壇っぽい物の所に向かって歩き始めた。俺達も続いて祭壇っぽい物に向かう。
「それでは皆さん、その紋章の上に」
俺達は言われるままに祭壇の中央にある紋章が書かれた円形の場所に立った。
……転移魔法装置かな?
「それではオクターデさん、これを」
「了解しました」
サイネルさんは懐から取り出した赤く光る石の付いたプレートを取り出しオクターデさんに渡した。
「ところでこの装置って何なんですか?」
「ああこれはですね、昔罪人を生贄として送るために使われていた祭壇なんですよ」
ふ~ん、生贄ねぇ、生贄……待ってくれ、何か背中にゾクゾクっとしたもの……これはデジャヴ、デジャヴの予感がするんだが気のせいだろうか?
そそそ……そんな訳は無いよな。こいつは転移魔法陣の筈だし安全……
「それではご武運を!」
サイネルさんがそう言って俺達に頭を下げた次の瞬間
[ガコンッ!]
「……は?」
ガコン?ガコンって何だ?それに俺の視界がだんだん低く……あれ?魔法陣(?)が光ってないぞ?どうやら地面が下に沈んでるみたいだな……って待て待て待て待て!!
このまま沈んでいったら祭壇から外れてそのまま溶岩の海に真っ逆さまじゃ無いか!?
「え、ちょ、待っ、落ちるなんて聞いて無[ゴォン!]あひゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
魔法陣っぽい床の部分が完全に祭壇から分離され凄まじい勢いで落下していく。
待って!地面……じゃない足場から足が離れそう!ってかこのまま落ちたら普通に死ぬんじゃね!?いや待て待てそんな事は無い筈だ多分落ちる寸前で止まって秘密の入り口かなんかに入るに決まってるそうだそうだそうに違いないだってそれ以外だったら俺炭どころか肉体の欠片も残らない惨めな姿でっていうかこんなひどい死に方したく…
[ザブゥン!ゴプゴプ……]
「え?ちょ!?いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
全くスピードを緩めないまま足場は溶岩の海に突っ込んであっさりと足場は溶岩の下に沈み俺は溶岩の中に飲み込まれていった……
……いい最終回だった。
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