第五章 三話 ~傭兵ギルドと共に 上 ~
だんだん一話が長くなってる気がするんだ。
初期投稿時の文字数の約九倍って…
俺が槍の飛んで来た方向を見るとそこには一人の女性が殺気を出しながらこちらに迫って来ていた。
背丈は俺の頭一つ分下、中世の男性貴族が着るような服を着ていて目の色は深紅と薄紫のオッドアイ……目に悪い組み合わせだな。顔立ちは幼く髪は金髪、因みに髪型はストレートだ。ドリルヘ…カールじゃ無い。………うん、昨今のアニメの影響を受けすぎだな俺……
……しかし殺気出してる相手をこうも冷静に確認できるようになったって事は俺も腕が上がっ……って待て!あいつ何か手から槍作りだしたぞ!?まるで生えてきたみたいって投げて来たぁぁ!?
「それにしても今のを叩き落とすとは流石だねぇ」
「感心しないで[ヒュン]説明して[ガンッ!]くれっ!」
再び飛んで来た槍を叩き落としながらネイラに質問した。
しかしなんで槍をどうして投擲武器みたいにポンポン投げられんだよあの女は!
「あいつはフェミナス、吸血鬼だよ」
「で?何で[ガキィッ!]あいつは[ガンッ]俺を攻撃してくんだぁっ!」
「それは彼女が[ヒュン!]うおっとぉ![ばしぃっ!]あぶねぇだろ気をつけろ!」
うわすげぇ!ネイラさん片手で飛んで来た槍掴んだぞオイ!?
俺だって本気出して何とか出来るかもしれない事を平然と……この人もしかしてかなり強いんじゃね?
「落ち着いて下さいィフェミナス様ァ!こんな所で武器を振り回したら懲罰ものなのですぞォ!」
「うるさいデカブツ!とりあえずあいつを殴らせろ!」
「駄目ですゥ!落ち着いて下さいィ!」
慌てた様子でケックが女を抑えつけたお陰で何とか攻撃は止んだがいまだに殺気を出しながらこちらを睨んで暴れている。
本当に何なんだよ……俺あんな奴知らないぞ?てか殴るとか言ってるけど明らかに串刺しにしようとしてたよな?いくら俺でもあんなのがドスドス刺さったら死んじゃうよ?衝撃には強いって自負があるけど斬ったり刺されたりするのは正直自信が無いって言うか……どっちにしろ痛いの嫌だ。
「…ディアトリアであんたと戦った三人組が居ただろ?」
「ん?ザムル、ケルター、バーダムの事か?」
「ああ……その新人幹部の元上司であり戦闘技術を教えた師匠だ。幹部に推薦したのもあいつなんだよ。あの三人幹部になってから初任務だったからなぁ……」
ああ成程……自分が推薦した弟子が初っ端から任務失敗してその原因になった奴が目の前に居たらそりゃあぶん殴りたいとは思うだろうな……
「因みに自分の顔にドロがついたとか自分の事で怒ってるんじゃないからな?」
「え?……そうなのか?」
「あいつの事だからあの三人の事が半分、あんたとやりあってみたいってのが半分だろ」
「おい、理由の半分が酷いんだが…」
「あくまでも多分だ……うん、多分だ」
何だよ今の間は…って何故視線をそらしたし、こっち向いて言ってくれよオイ。
「暴れないで下さいィ!もし武器が一般人に当たったらどうするのですかァ!」
「あいつが避けなければいいだけの話じゃん!とにかく放せっての!」
「駄目ですゥ!」
「いいじゃんちょっとぐらい!あいつどれくらい強いか知りたいし!」
「そ、それは私も非常に興味がァ……って駄目です!絶対に駄目ですゥ!」
「「……」」
う~ん……半分というより理由付けをする為にあの三人の事を俺と戦うための建前として使ってそうな…
…俺、上司がこんなだったらストレスマッハで仕事を辞めるぞ。
「所であいつが敬語を使ってるって事はあの女は立場が上なのか?」
「まあ立場は上だね。因みに私よりも一応は上だ……名目は幹部とひと括りにされてるが戦績とかで上下関係ってもんはちゃんとあるからな……」
「……あんなのが格上って嫌にならないのか?」
「正直幹部連中でも有力者はあれ以上ばっかりだからな……あれ位ならかわいいもんだよ」
……あれでかわいいもんって何だよ、傭兵ギルドの上層部の奴らは奇人変人しか居ないのか?
初対面で実験したいとか言ったり突然理由も言わずに武器投げつけてくる以上の奴なんて探しても早々見つかるもんじゃないと思うんだが。
「……所でディアトリアで活躍したあんたが何でこんな所に居るんだ?」
「まあ色々あってな。今ある場所を探してるんだけど「何をやっている貴様等」…ん?」
質問に答えようとしていた所いきなりこちらに向かって発せられた声の方向に振り向くと全身を装甲服で包んだ男(ヘルメットで顔は見えないが声と体つきからして多分男だ)がこちらに歩いて来た。
体つきからして装甲服を外せば俺と同じくらいになるのかな?……しかし体から発せられるオーラと傷だらけの古びた装甲服が彼が歴戦の戦士である事を物語っている。うん、俺とは大違いだ。威圧感も半端じゃないし…
「げっ、リーダー…」
……ネイラさんはあの人が苦手なのか?顔を引きつらせて後ずさってるんだけど。
ケックの方も女は暴れる事を止めておとなしくなっている……女がおとなしくなってるしネイラがリーダーと言ってたという事はあの装甲服はそれなりに偉いのか?
そんな事はお構いなしに俺と襲いかかろうとしている女の間に立つと交互に見た後周りを見渡しゆっくりと女の方へと歩いて行く。
「フェミナス……場を弁えろ」
「……はい」
うわ、今まで好戦的だったとは思えないほどのしおらしさっぷり!ケックも口をつぐんだまま直立して微動だにしていない……こりゃ相当あの装甲服は恐れられてると見た。
「これ以上問題を起こしたら貴様の降格を進言するからな。覚えておけ」
「……はい」
「ふむぅ…」
「!?」
そして装甲服はこちらを向くとスタスタと歩み寄って来た……って怖い怖い!何で威圧感出しながらこっち来てんの!?
「私の仲間が迷惑をかけたようだな、済まない。許してくれ」
「え!?あ、はい……」
そう言って装甲服はこちらに頭を下げた。あ、謝るために来たのね。俺はてっきり…いや何でも無い。うん、シ、シツレイナコトナンテカンガエテナイデスヨー。
てか俺と装甲服の間に流れてる空気が重いんですけど……え~と、とりあえず返事したけど俺どうすればいいの?
「あ、あのぉ…リーダー?」
「……それで、本部からはァ?」
何だか気まずい雰囲気が流れる中おずおずといった感じでケックとネイラが俺達の間に割って入って来た。
タイミングからしてこの空気をどうにかしようとしたんだろう。
装甲服はゆっくりと頭を上げるとケックの方へ向いた……それと同時に俺と装甲服の間に流れていた重い空気が無くなった。ナイスだ!お前の勇気に感謝する!
しかし振り向かれたと同時にケックはビクッとする……お前どれだけ怖いんだよ。いや俺も同じ状況でそうなったら怖いけどね?
「ああ、その事だが……早くて九日後だそうだ」
「そ、そうですかァ…って九日ァ!?遅すぎますゥ!」
「ああ、それが問題なんだ」
「どうしましょうか…」
……む?あ、もう立ち去っていいの?こういう時って引き際分かんないよね?
まあこちらとしては今話してる事はこっちにとっちゃ関係ない話だし部外者って訳で……さっさとこの場からおいとましようかな。なんか俺のこれまでの経験で研ぎ澄まされてきた高感度厄介事センサーが黄色信号出してるし。
「さてと、情報集めに[ガシッ!]……」
あ、あれ?足が動かないな……そして俺の厄介事センサーが真っ赤になってブザーを鳴らしているんだがこれは一体どういう事なんだろうか?ハハッ……
「フフフ……逃げようったってそうはいかないよ」
「おまっ!?」
いつの間にかさっきの女が黒い笑みを浮かべながら俺の後ろに立っていた。てか両腕両足に手の形したモヤみたいなものがひっついてるんだけど……もしかしてこれのせいで動けなかったのか!?
こいつまだ諦めて無かったのかよオイ!注意されたのに懲りないってコイツは…
「おいもう止めろ!」
「[ゴスッ!]ぎゃひん!?」
「……ったく」
「ああ…ネイラさん、ありがとうございました」
それにしてもネイラさん、おもいっきり殴りましたねぇ……頭おさえてうずくまっちゃいましたよコイツ。
うずくまると同時に体が解放され自由になったので俺は背を向けて今度こそ立ち去ろうとした。
「ああ!ちょっと待ってくれないか?」
「?」
ネイラさんが俺を引きとめたので俺はネイラさんの方に向き直った。
……あ、あれ?俺の厄介事センサーが既に危険信号を出しているんだけど?
「え~と、何か?」
「確かあんた、何か探し物をしてるって言ってたよね?」
「ああ、うん確かに……」
「何を探してるかちょっと聞かせてくれないか?」
「ああ、別にいいけど?」
そして俺は黄金郷の事をネイラに話した。するとネイラはケックと装甲服の所に向かい何かを話し合った後再びこちらに来た。
「え~と、黄金郷の話だけど……あたし達と交渉しない?」
「は?」
あ゛~厄介事だ。これは確実に厄介事だ……本当に何だろう俺は?大体一カ月に一度はこういう事態にまきこまれてるような気がする。多分人生の濃さでいうとこの数カ月で普通の人間数人分になるに違いない。こんな濃厚な人生どれだけ運が悪かったら味わえるんだろうか?
「いや~これからちょっと依頼を受けるんだけど人員が少なくて心許なくてね……追加人員を待ってたら色々まずくてね……助っ人として協力してほしいんだよ」
「それで報酬が情報と?」
それって明らかに釣り合ってませんよねネイラさん?
「いやいやいや……そんなケチな報酬じゃ無いよ?これくらいの金は出すしあんたの言ってた黄金郷とやらへ連れてってやる」
「情報じゃ無く……連れてく?」
ぬぅ…指三本か、金貨三枚だったら結構な報酬だな…それだったら場所を特定したりする暇も省けていいし金もあるなら万一の事を考えてあるだけは欲しいしな……
「早ければ六日程度で済む仕事だしいいと思わない……かな?」
「私はコイツと一緒に行くなんて[ゴスッ!ゴスッ!ゴスッ!]っ~~~~!!!」
うぉ、復帰しかけたのに連続で三発も……容赦無いな、それ程余裕が無いのか……
「え~と……どうだい?この条件で?」
「そうだなぁ……」
「……で、了承したという訳か」
「まあな」
「いいんじゃねぇか?」
「結局誰も情報は集まらなかった訳だしな」
昼間、食事をするために訪れた適当な店で俺は全員に先程起きた事を話した。
ティールは呆れ顔だったがその他の二人は普通に了承してくれた。
「翔……お前はちゃんと確証をした上で頷いた……訳は無いか」
「分かり切ったみたいに言うなよ!?」
「違うのか?」
「違いません」
「……おい」
ティールはやれやれといった表情で俺を見ている……何でこういう時はティールは真面目なんだろうか?
いつもこんな感じならいいんだけど一旦スイッチ入ると暴走するからなぁコイツ。
まあ公私混同しないって点でいうなら評価できるがこいつも上司にはなって欲しくないな。こいつディアトリアで教育係やってた頃どういう生活してたんだろうか?
「まあ話を戻そう……どういう仕事なんだそれは?」
「この大陸の中心にある火山の調査……だったっけな」
「あのでっかい火山に行くのか?」
「そうらしい」
「……しかしあそこは確か国の許可が無ければ入れない場所、何故国が調査に赴かないんだ?」
「ああ、その事はな……」
「……分かった。その条件でいい」
「おおっ助かるよ!それじゃあちょっと待って……」
「あ!ちょっと待ってくれ……連れが三人ほど居るんだけど…」
「了解!あんたの連れも一緒に行くんだな?分かった!」
「おい待った俺はそんな事……あ~あ」
俺が止めようとしたがネイラは二人の方へと走って行った……しかし行動早いな。俺が言い終わる前に行っちまった……ホントは話す時間が欲しいって言おうとしたのに…
しかし何でここで話さないんだろうか?俺に聞かれたくない話でもしてんのか?
「おおぉぅ……」
「おう大丈夫か女A」
あ、コイツ再び蘇ったぞ。よろよろと立ちあがったその姿勢からは最早敵意は全く無かった。
所でコイツの名前って何だっけ?さっき聞いたような気がしないでもないが忘れたのでとりあえず女Aでいいだろう。
「女Aってなんだよ!私の名前はフェミナスだ!」
「そうかフェミニス君、これからはそう呼ぶ…」
「フェ“ミ”ナスだ!私は男女同権なんて掲げてないぞ!」
「冗談だフェミナス君」
うん、これだけのツッコミが出来るなら心配はしなくていいだろう。
そういや彼女が投げてた槍がいつの間にか消えていた。ザムルと同じく武器召喚の類だろうか?とすると武器召喚を教えたのはフェミナスか。
しっかしこんな童顔でちんまいのが師匠で俺より大きいザムル達を鍛えている図を想像するとかなりシュールな光景だ。二人を並べたらどっちというとザムルが師匠に見えそうだし……
「なによその顔?私の事馬鹿にしてるでしょ。主に顔と体で」
「気にしてるのか?」
「うっ………」
そっぽを向き赤くなるフェミナス、図星か……まあ冗談はさておき彼女の実力はそれなりにあるのだろう。理由はどうであれあの投擲術の威力は本物だったし。
しかしこいつはどういう教え方をしたんだろうか。まあザムルは……一撃でふっ飛ばしちゃったからなぁ…まあその後少し鍛錬をつけて貰った時の剣だけでの訓練のハードさは半端無かったけどな。遠距離攻撃を覚えていなかったら多分再びハデスと面会する事になっていたかも分からない、それぐらい強かった。
だけど本当にザムルを育てたのがこの童顔でちんま…
「………」
「…ゴメン」
何で丁度良く俺がお前の悪い所を考え始めた瞬間に睨めるんだよ。
お前は読心術でも使えるのか?……あり得なくも無い所が凄い怖いんだけど…
そう考えている間に話を終えたらしいネイラ達がこちらへと歩いて来て装甲服が俺の目の前で立ち止まると俺に手を差し出して来た。
「協力に感謝する、約束は必ず守ろう」
「ああ……でも一つだけ聞かせてくれ」
「……何だ?」
「どうして黄金郷の場所を知ってるんだ?」
俺がそう質問すると装甲服は少しの間黙っていたが腰に着いているポーチから一枚の手紙を取り出すと俺に差し出してきた。
見た感じはよく映画で出てくるような高級そうな手紙だ。俺はそれを開けて中身を見た。
……手紙の内容は火山を傭兵ギルドに調査して欲しいという内容だった。そこには報酬金の金額も書いてあったが……う~ん、目がくらむような金額だ。しかしこんなものを見せて一体どうしようと言うのだろうか?
「その依頼人が黄金郷の事を知っている」
「え!?」
「彼に頼めばお前の行きたい所へと案内してくれるだろう」
……待て、それならこんな依頼受けなくてもその人に直談判しに行けばいいんじゃね?
「この依頼を蹴って会いに行こうとは思わない事だ、この男は基本的に外部との接触はしない……お前が独自に会う事は不可能だろうな」
あ~……やっぱ反応読まれてたか。まあ考えればそうだよな、簡単に会えるような人物だったらわざわざ名前バラしたりしないだろうし。
「ああそうだった、自己紹介が遅れていたな……私の名はオクターデだ。明日の朝また同じ場所に来てくれ、君の友人と共にな」
「あ、はい……」
「それではな……行くぞ」
そう言うと装甲ふ…オクターデはケックとネイラを連れてその場から立ち去って行った。
「…さて、全員が来るまで暇をつぶすか……誰か情報持って来ないよな!?」
今更になって心配する俺であった。
「……それでさっきから隣のテーブルの女性が熱い眼差しで見てる訳か」
「熱い眼差しか?あれが!?殺気の間違いだろ?」
「翔は分かって無いな、断言する!あれはツンデレだ!この前ケータイで見た小説に書いてあったパターンとほぼ同じ入り方だ!攻略すればいずれデレ期が…」
「……お前今度から携帯使用禁止な。使ったら頭にメテオだから」
「何故だぁっ!?」
「あれをよく見てみろ!絶対ツンじゃ無い!」
そう言って俺達は隣の丸テーブルに一人ポツンとすわっている女性…フェミナスの方を向く。
「あのぉ、お客様ご注文は……」
「水」
「いやあのお水は…」
「水っ!」
「かしこまりましたぁ!」
いや店員さん睨むなよ!?ちょっと半泣きしてるぞ……
しかもさっきから水だけ頼むとか何の嫌がらせだよ、しかも無駄に殺気を出しまっくてるせいで誰も口出し出来ないし……ちなみに一人で座ってるからと言って彼女に近づいた不埒な輩は全員床で眠っている。うん、フェミナスが体術も凄いという事がよく分かった。
店員さん、こんな惨状の中彼女の前に立って変わりもしない答えを聞いて睨まれて……あんた頑張ってるよ。
「しかしなんであの女は翔に?」
「仲間に置いてかれたっぽいな」
「……可哀相だな。ちょっとこっちに呼ぶか?」
「はい?」
ちょっとジェミィさん、あんたなんていうトンデモ発言してるんですか?
俺に近づけたら危険な物をこっちに持ってくるとか何を考えてるんだ?何か?俺を殴らせてスッキリさせてこの場から立ち去らせるつもりですか?
「それじゃあ行ってくる」
「え?ちょっ!?」
言うが早いかジェミィはテーブルから立ちあがるとフェミナスの方へ歩いて行った。
周りの席からどよめき声が聞こえる中ジェミィがフェミナスと話し始めた。
「ナイスだジェミィ、これで上手くこの席に来させて翔が彼女にフラグを立てれば……」
「フラグ?あの女に旗付けてどうすんだよ?ゲームでも始めんのか?」
「……はぁ」
頭が痛い……もうどうにでもなれ。