第五章 二話 ~王都スペルム~
「お客様、あと少しで目的地に到着します」
「おぉっ!やっと着いたぁ!」
船に揺られて二日後、俺達は旧王都スペルムへと到着した。
因みに周りの光景はと言うと岩、岩、岩……生き物の気配が全くしない。
空は火山から噴き上がっている真っ黒な雲が天を覆い地面や火山の天辺から流れ出ている溶岩がこの地獄のような光景を不気味にライトアップしていた。
そんな死の大地の中浸水林の水源である巨大な間欠泉からなる巨大な温泉の湖を中心に建設されたのが旧王都スペルムだ。
山脈の外側に造ればいいじゃないかと突っ込みたい所だが多分長きにわたり火山と共に暮らしてきたここの先住者達のプライドとかが許さなかったのだろう。
そしてこのスペルムの名物は……
「あれが噴水宮か……本当に噴水みたいだな」
「これ程ミスマッチな光景も早々無ぇな」
巨大な温泉の中心にある巨大な噴水……もとい城。
噴水宮と呼ばれるこの城は……説明しろと言われると巨大な噴水と城が合体しているとしか表現のしようが無い。
ちなみに噴水のようになっているのは間欠泉の真上に城を建設しようとした結果ああなったらしい。
なんでもこの殺風景な場所に少しでも華を……といった感じでここを統治した初代の王が建設したそうだ。確かに城に施された装飾は美しい限りだがそれがこの建造物を城ではなく噴水に余計近づけてしまっている………だれか反対しなかったんだろうか?
そんな感じでアンダルと二人で噴水宮を眺めていると暫くして岸にある船着き場に着き船が動きを止めた。
「港に着いたみたいだな翔」
「それじゃあさっさと降りる準備でもするか」
俺達はそう言って船室に居るジェミィとティールを呼びに船の中へと向かった。
「しかしどうやって城に入るか……」
「噴水宮はそこへ行くための専用の船が出ているんだが観光客は基本入れないぞ」
「どうして?」
「……翔、今はどんな時世か分かってるか?他国のスパイだったらどうするんだ」
ああ……そうだった。この世界っていま戦争がどこかしらで起こりまくってる世界だったな。
ディアトリアから数カ月はエンディアスやエグドラシア(エグドラシアの博物館で起きていた事は除く)での平和な生活が続いていた為にすっかり忘れていた。
いや~平和ボケって怖いね……ってあれ?俺今までで簡単に平和ボケするような体験していないよな?
「全く翔は……情報を城で聞いたという事はここでも情報が手に入る可能性は高い……とりあえず情報が集まる所に行こう」
「「酒場にでも行くのか?」」
……あれ?なんかジェミィとティールが呆れたような顔で俺とアンダルを見ているんだが。
やっぱりRPGの常套手段は現実では眉唾物だったという事か?いやしかしアンダルも同意見だし…
「アンダル、翔……君達は何か?酒が飲みたいのか?」
「い…いや、情報といったら…」
「酒場じゃ……ねぇのか?」
「「はぁ……」」
た、ため息吐かれたぁぁぁぁぁ!やっぱりここの世界の常識では間違ってたのか畜生!酒場が情報を集めるのに最適な場所なんて考えたやつは誰だ!関係無いし仕方ない事だとは分かってる。とりあえず前に出ろ!そしてRPG脳になった俺を殴ってくれぇぇぇ!
「翔……何をいきり立っているんだ」
「……あ、いや何でも無い。ちょっと恥ずかしかっただけだ、うん」
「まあいいか……アンダルは元山賊「山賊辞めた覚えはねぇぞ」……山賊をやっているアンダルや知識がまだ足りない翔なら分からなくて当然だか「交代だ」うおっと?」
ティール、お前顔が凄い真剣じゃなかったら馬鹿にしているセリフとしか取れないんだが。
いや馬鹿にしてないって事は表情から良く分かるんだがアンダル君の額にちょっと青筋が…
それを察したのかティールを押しのけてジェミィが解説を始めた。
「基本的には情報を集めるには人が多く集まった場所が最適だ。確かに酒場があるような商店街に行くのも一つの手だがもっと情報を持ってそうな人物を探すなら各方面にあるギルド支部に限る…最後の手段として依頼をするという事も出来るからな」
「成程……所でアンダルは何で俺と同じく酒場を?」
何となしに聞いてみるとアンダルはバツが悪そうな顔をして答えた。
「奪った金目の物を闇商人に売買する時話し合いをする場所が酒場だったんだ」
「「「ああ……」」」
「……ここがスペルムギルド支部ねぇ……支部の外見って基本同じなのかティール?」
「基本的には同じだったと思う……特殊な例もあったはずだけども」
スペルムのギルド支部は見た感じはディアトリアで俺が見たギルド支部とほぼ同じ造りだった。
多分違う地方に派遣されたギルド団員が見つけやすくするためなのだろう。
「あ……でも内装はかなり違うな……」
「それはいくらなんでも違うぞ翔」
ディアトリアのギルドは簡素……いや綺麗で素朴な感じがしたがここは床や柱、天井などに磨かれた綺麗な大理石……なのか?まあそれっぽい石で出来ている。さらに宝石や美しい色の鉱石で作られたオブジェが目を引いて何だか豪華な感じがする。豪華さなら今まで見てきた中ではダントツだ。
「うへぇ……こりゃあ凄ぇや、最高の景色だ」
「……目が痛い、嫌な景色だ」
後ろのアンダルとジェミィはこの光景に対し全く反対の事を言っている。
……育ちの違いという事だろうか?
「所でティール、どうやって情報を集めるんだ?」
「ここに依頼に来ている人達に聞くんだ。色々な身分、階級の物達が集まっているからそこらの酒場に居る酔っ払いに聞くよりはずっと効率がいい」
「ふぅん……」
でも以外に路上の乞食とかが情報を持ってる事も……いやもうRPGから離れろって俺!
「とりあえず全員で別れて情報を集めるのがいいと思う。大体昼過ぎぐらいにまたここで集合、という事にしたらいいんじゃないか?」
「ああ…うん」
「後ろの二人もそれでいいか?」
「分かった」
「了解だ」
そして俺達四人はそれぞれ分かれて情報集めをはじ…あれ?ちょっと待った。
「ティールが………仕切ってね?」
「黄金郷?………どこかにあるって程度になら聞いた事があるけどねぇ」
「そうですか……」
情報を集め始めてかなり経ったが全くと言っていいほど情報を手に入れる事は出来なかった。
やはりそう都合よく情報を持っている人が居るほど世の中は甘くないって事だ。
そろそろホールを歩き回っていたせいで足が痛くなってきた……
しかし本当に色々な職業、階級の人が来ている。鍛冶屋、商人、兵士、貴族(の使い)……本当に多種多様だ。そのお陰で聞く人数には事欠かないんだけどな……
ドラマでやってた刑事の聞き込みとか人を探すために走り回る分あっちの方がハードなんだろうなぁ…
……いかんいかん。また変な事を考えてしまった、聞き込みをしないと…
「………」
「ん?」
何かに見られているような気配を感じた俺はその方向を向くとその方向にはガタイのいい白衣……というか研究衣を着た男がこちらをじっと見ていた。
一体何だと思いながらその男を見ていると男は懐から小さいノートを取り出すと視線を落とし俺とページを交互に見つめ確認するようにめくり始めた。
因みに男は肌は灰色で強面の顔に丸眼鏡、髪はドレットヘア、どうやら後ろで結っているようだ……
なんだあの着る服を間違ったかお遊び服を装着したような格闘ゲームの色違いキャラは……
「………!」
そして目的のページを見つけたのかページをめくるのを止めページと俺の顔を数回頭を上下させながら確認すると口元をゆがめヒステリックな笑みを浮かべると小走りでこちらに近寄ってってギャァァァ!?
怖い、怖すぎる!眼鏡が反射して丸眼鏡が光っているのと強面の顔を無理やり歪めているような笑みがもうヒステリックというより狂気じみた何かを感じる。
…やばい、これはお化け屋敷に居るメイクした幽霊なんかよりも百倍恐ろしい…しかもなんか『動くな!』的なオーラが体中から溢れ出しているせいで動けない!
そんな感じでビビっている間に男は俺の目の前まで来ると顔と顔がくっつきそうな程近づけて来た。
そして何故か嬉々とした声で俺に質問してきた。
「君ィはァ……風見翔ゥ君で間違い無いかなァァ!?」
「は……はい…っていうか近い!近いです!」
何故俺名前を知っているんだ……という質問よりも俺は視界を支配している不気味な笑顔を退ける事を選択した。
「! おっとォ、失礼ィィ……」
うっかりしていた、といった表情で顔を離すと男は一歩離れた。
そこで一回咳払いすると、落ち着いたのか俺を遠目で見ていた時の普通の強面の表情に戻った。
「……で、聞きたい事があるんだがあんた何で俺の事…」
「おいケック!お前何一般人を襲ってるんだ!」
男に質問しようと思った途端突然俺達の間に女性の声が割り込んで来た。
俺がそちらの方を向くと緑色の女性……トレントだろうか?とにかく女性が俺達の間に割って入って来た。
「ちち、違う襲って無いィ!彼は風見翔だァ!」
「え?」
「ほ、ほら見ろォ!情報と一致しているゥ!それに本人だとさっき言ったァァ!」
男が慌てて差し出したノートを女性は俺と交互に見た後…
「あ、ホントだ……で、あんたが風見翔な訳?」
「あ~……はい、そうです」
あ~、なんか何で名前知ってんのとか聞くのダルくなってきた……
良くあるよね、一回聞こうとした時途中で話折られると話す気無くす事って。
「ごめんね~この変態が迷惑かけたみたいで……こいつあんたの事知ってから一度でいいから実け…会ってみたいって言っててさぁ」
「何か今実験って聞こえましたけど……」
「あ~……え~とぉ……」
「是非貴方の事をォ!体の隅から隅まで調べてみたいィ!」
「ちょ、この馬鹿!」
「何故そんな事を言うんだァ!私は率直な意見をォ言っただけだァ」
「実験するなんて言われた奴の気持を考えろってんだこのタコ!」
「んなぁぁぁッ!!」
当の本人を置いてヒートアップする二名。
ああ畜生、ただでさえ疲れてるのに何だってんだよ……
「……あ、ゴメン目の前で……気を悪くしないでくれ」
そんな俺に気づいたのか緑色の女性の方がすまなそうな顔をして誤ってきた。
男の方はバツが悪そうな顔をしていた。
「そういえば自己紹介がまだだったね……私はネイラ、種族はトレントだ。そしてこいつはケックウェイン……おい」
「ぬぅゥ……ケックと呼んで欲しィ、………それと先程は済まなかったァ」
渋々といった感じで自己紹介をするケック。そしてボソッと呟くように謝罪をすると腕を組んでそっぽを向いてしまった。
「ああいう奴なんだ。気にしないでくれ」
「そうか……所で何で俺の名を?」
「ああ、私達は傭兵ギルドの一員なんだよ……あんたはウチのギルドじゃ結構有名だよ?」
「そういう事か…」
「まあディアトリアで何かあったらしいけどあんたの事を敵視するような輩は居ないから安心しといて」
まあどうでもいい事だな。俺は別にこいつらのギルドと争う気は無いしこいつらも俺を敵視してる訳じゃ無いみたいだし……興味津々な奴なら居るけど。
「あっ!そう言えば……」
何かを思い出したようたような顔をしてネイラが何かを言おうとした瞬間横から凄まじい殺気が……
「死ねぇ!」
「[ギュン]ギャァァァ!?[バキィン]」
その方向に振り向くと同時に無数の槍が俺向かって飛んで来たのを確認した俺は素早くシーヴァを引き抜くと槍を叩き落とした。
「……この場に一人だけ敵視してる人が居たんでした」
「………それは早く言ってくれよ」