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第四章 十五話 ~また会う日まで、エグドラシア~

「ぶー!なんであたしを置いてくの!?」

「分かって下さいお嬢!お父上の言いつけなのですから……」

「うぅぅぅ~~~~~」


あれから一週間後、俺の一張羅と店の修繕も終った(前よりも豪華になった)のでいい節目だったのでガサークさんが帰って来たら俺はそれを節目に旅立つ事にする事を皆に話した。

目的地はナグファルル大陸。エグドラシアの南に位置する大陸で島全体が巨大な火山となっている大陸だ。

この前学院で調べた場所の特定を行った結果黄金郷がその大陸にあるらしい事が分かったからだ。

レブヘインズとも近いという事もあるしその途中でゴムールにも寄れる。まあいいルートだと言えるだろう。

……まあ、それを伝えてぐずりだしたのがレナ、と言う訳だ。


「嫌だ嫌だぁ~絶対一緒に行く!」

「聞き分けてくれよレナ……」


因みにレナは既にここでは無く学院の寮の方へ引っ越している。

レナの部屋は何の因果か前回俺のメンタルをボロボロにした彼女達の部屋になった。まあレナ的には少しでも面識のある奴が居る部屋になっていいだろうけど……


「私もはんた~い!翔のタダメシが食えなくなるのは嫌だし」

「おいシュナ……」

「……動機が酷いです」

「いいじゃん別に!」


毎晩タダ飯を食いに来るのは止めて欲しい。儲けが無いうえに何時間も居られるとかたまったものじゃない。ファミレスでドリンクバーだけ頼んで居座られる方が金がとれるだけ幾分マシな事か……

まあそれでこのレナ含む四人に毎回ちゃんとした料理出してる俺も俺だけどね!?


……あ、そういえばシュナが始めて来た時ジェミィを見た時『あっ……』と驚いた顔で声を出した瞬間にジェミィが目にも止まらぬ速さで駆け寄り口を塞いだかと思うと彼女を抱えて急いで二階に駆け上がって行った事があったな。

唖然としてる俺達をよそに降りて来た二人に今のは何だったのかと聞くと昔話をしていた……と言っていたけれどそれ以外二人は関係については全く話そうとしなかった。

後でコールさんにジェミィは学園に居たのかと聞いたが聞いた事が無いと言われ後日『学院長のおっさんにも聞いたが知らない』と言われた。

とすると……故郷での旧友なんだろうか?まあ余計な詮索はよした方がいいという事でそのことについて根掘り葉掘り調べるのは止めにした。まあ本音を言えば調べたいんだけど面倒そうだし……ね?


「うぅ~~~お父様の手紙を最後まで読んでおくんだったぁぁ……」

「まあまさか別の手紙の誓約書に『学院生活中はエグドラシアからの出国を禁止する』と書いてあるとは思わなかったからな」

「うあぁぁぁぁぁぁぁ~~~………」


力無くぐでんとテーブルに上半身を投げ出して唸るレナ。

ちなみに誓約書の文字はレナの母親の文字だったらしい。説得すると書いてはいたものの……多分手紙を書いた後にバレて誓約書は母親の方に書かせるとかそんな話になったのだろう。


「まあ諦めなお姫様、こりゃああんたの母親の作戦勝ちだぜ」

「……こうなったらこっそりと翔達の後をつけて」

「レナは自分の立場を分かっているのか?一国の王女が居なくなったと知ったら学院の者が総出ですぐに見つけて連れ戻すぞ?」

「その時は翔に庇ってもらう」

「俺はお尋ねものになりたくは無いから守らないぞレナ……」

「冷たいっ!そこは男らしく守ってやるとか無いの!?」

「むしろお嬢の方が男らし[ドゴッ]ゲブファア!み、鳩尾ぃ…」

「あははっ!そんな事言ったら殴られるくらい予想できないの?」

「それが彼の性分なんだろう?……多分」

「ぼ……暴力はいけないと………思います……」


そんなアホなやり取りをしているうちにそろそろレナ達が学院に帰らなくてはならない時間になってしまった。


「絶対だよ!絶対行ったら寄り道しないで帰って来てよ!分かった!?」

「分かった、分かったからもう時間だろ?」

「何で面倒臭そうな顔するの!?大切な話なんだよ!?」

「もう八回は聞いたんだから覚えてるって!しかも明日には居なくなる訳じゃ無いんだから……」


その間続いた論争(?)の結果としてナグファルル大陸の調査が終わったら速やかにエグドラシアに帰って来い……という結論が出た。

まあ帰る途中でゴムールに寄ってから帰るつもりだけれどそのくらいの誤差は別にいいだろう。


「絶対だよ!絶対だからね!」


シュナとコールに半分引きずられるような形で学院の方に歩いていくレナを見送るとティールが俺にぽつりと言った。


「翔……君はお嬢に何か変なこ「してないぞ?」……そうか?いやこの前けいたいで見たロリコンという[ドスゥッ]ゴファッ!?何故鳩尾おぉ……」


俺は地面に崩れ落ちたティールを放置して店の中へと戻った。

ジェミィは俺の行動から何かを読み取ったらしく冷たい目線をティールに向けると俺の後に続いて店に入りアンダルはやれやれといった感じでティールを担ぐと店の中に入った。

こうしてエグドラシアでの平和な日々は過ぎていった……






「帰ってきたぞ……ってここは私の家か?」


そして遂に帰ってきたガサークさんの第一声は驚きの声だった。

まあそりゃあそうだろう。何となく古めかしかった店内が壁や床、棚等が全て新品になって店員が三人も増えているのだ、驚かないはずが無い。

俺は唖然として立ちつくしているガサークさんの元にすぐに駆け寄った。


「あの……ガサークさんこれは……」

「おお翔君!良かった、店を間違えたのかと思ったよ……」


俺の顔を見て安堵の表情を浮かべるガサークさん。俺はガサークさんが帰って来るまでの事を一つ残らず説明した。


「そうかそんな事が……それで私が帰って来たという事は翔君はエグドラシアを発つのかい?」

「はい、ガサークさんが帰って来たので明日にでも……」

「そうか、それなら君がこんなに店を素晴らしくしてくれたお礼に豪勢な料理でも作ろうか!」

「え?……そんな帰って来たばかりなのにそんな」

「いやいや心配は無用!今夜は楽しみにしていてくれ!」






「何故君達が居るんだ……」

「センセー、メシー!」

「まさかモレイク先生が店を経営していたとは……」

「……知りません………でした」


そしてその夜、いつもの四人組が『閉店』と書いてある筈の店に乗り込みちょっとしたパーティーのようになってしまった。てかガサークさん自分が店経営してる事生徒とかに放してないんかい。

まあそれはいいとしてこいつらが来たお陰で作る量が増え結果として料理を振舞われる筈の俺とジェミィがガサークさんと並んで厨房に立つことになってしまった。


「しかし君の連れていたあの娘がエンディアス王の娘だったとは……彼女達と同じ部屋という事は私の授業を受けることになるかもしれないな」

「そうですか……でもガサークさんが教えてるのって魔法……ですよね?」

「そうだ、魔法陣の種類、組み立て方、発動法などを教えている」

「でもレナは正直魔法は向いてないと思いますけどね……」

「ハハッ、彼女は王族だから種族はベヒーモスだったかな?種族からなる得手不得手は努力でなんとかなるものだよ……私がその証明だ」

「そんなもんですか……」

「そんなものだよ、私だって学び始めた最初の一年間は全く出来なかったんだ」


そんな雑談をしながらも俺とガサークさんは腕をテキパキと動かして料理を次々と作っていく

そして全員分の料理を作り終えるとテーブルに運びちょっとしたパーティーが始まった。


「翔~~絶対だよ!」

「わ、分かったって!痛いから放してくれぇ!」


もう何回聞いたかわからないフレーズを涙声で連呼され体をガクガクと揺すられる俺

……子供じゃないんだから本当にやめてほしいが怪力のせいでどうにもできない。

助けてくれと救援のサインを目でジェミィ達に送るが全員揃いに揃ってスルー……薄情者め。


「ところで聞きたいんだがレナ君は翔君の事が好きなのか?」

「うん、友達として!」


その光景を見ていたガサークさんの突然の直球すぎる質問にレナは笑顔で即答した。……決して残念とかそういう気持ちは無いからな!?俺はロリコンじゃ無いというか現段階で誰かとそういう関係になりたいとは


「……チッ」

「おいコラティール何故今舌打ちをした」

「ん?いや別に何も変な事は考えていないぞ?思春期の男性が性欲のはけ口になる年齢の近い女性が居ないせいで幼女に性欲の対象が移っていかが[ゴスッ!]ふげっ!何故ジェミィが殴るんだ……」

「……お前が食事中に不謹慎な発言をするからだ[ジロッ]」

「?」


相変わらずのティールに近くにいたジェミィが容赦無く拳骨を食らわせて黙らせた。

そして何故か俺の事を睨むジェミィ、何だ?今回俺は何もそんな目で見られるような事はしていない筈だ


「はぁはぁそうですかそうですか……ふぅん……」


その光景を見てティールが頭をさすりながらも薄笑いを浮かべた。

そしてその顔のまま俺の方を向いて……なんか怖いぞティール。


「な、何だよティール」

「……いや何でも無いですよ翔![ボソッ…]これはジェミィを連れて来て正解だったな、いいネタになる」

「……?」


何かボソッとティールが呟いたがよく聞き取れなかった。

まあ何にせよろくでもない事を言った事は確かだろう。


「あ~いやさっきの事で一つ訂正しようと、性欲の対象になる同年代の女性なら一人[ズドスッ!ドゴッ!バキィッ]ゴブフェアァァァァァ!!!」

「死ねっ!」

「な、何故だぁっ!?私はジェミィがそれ[ゴキィッ!]マァァァァァァン!!」


ティールは三コンボ+必殺技を受けて店の床に崩れ落ちた。

……本当に何を考えてるんだティールは、そんな事口に出したら確実に処刑ルートだろ


「……翔、今のこのバカ馬の発言は聞かなかった……いいな?」

「イ、イエッサー……」


体から禍々しいオーラを立ち上らせながらそんな事を言われたら従うしかないだろう。

しかしこれいくらなんでも照れ隠しってレベルじゃねーぞ。殺気出てるじゃん……


「「「「「………」」」」」


しかも全員黙っちゃってるし!気まずい!気まずすぎる!

しかしこの状態を打破する術など俺が知っている筈など無く沈黙の時間が過ぎていった……


~数分後~


「……上がりだ!」

「嘘だ!万策封じたはずなのに何故!」

「甘い、甘いぞ!今までの行動からわざと読み取らせ自分に有利な状況にする……まんまと引っ掛かったな!」

「くそぉ……」

「んじゃ私も上がりっと」

「なぁにぃぃ!」

「えへへ、勝負は時の運……勝つか負けるかなんて最後まで分からないよ~?」

「うぐっ…畜生、何で俺の札ぁ全然いいの出ねぇんだよ……」

「はははは!カードの駆け引きは恋と同じだよ諸君!」

「つまり恋の駆け引きは運なのか?」

「た、多分違うと……思い……ます」


俺達はトランプゲームを楽しんでいた。

状況を何とか打破しようと必死に考えた結果苦し紛れでそこら辺にあった紙で作った物だったが全員のツボにはまったらしく案外上手くいった。


「あ~もう!何で私が下からニ位なんだ!」

「それはジェミィの手札、策、運が悪かったからだな」

「あああああっ!もう頭きた!もっかい!もっかいやらして!次こそは勝ぁつ!」

「ジェミィ君の性格が変わってないかい?」

「あれが素なんだろ……なぁ翔?」

「……多分な」

「今度は私が切る!さっさと貸して!」


……まあ上手くいきすぎて朝方までゲームが続いてしまい全員で学院に謝りに行く羽目になったのは……うん、誤算だったよ。






「それじゃ~ね~~~翔」

「おう!なるべく早く戻って来るからな!」

「うん、待ってる!お土産よろしく!」


学院に謝りに行った後、俺達はすぐに支度を整え飛竜の発着場へと向かった。

そしてガサークさんやレナ達が見送りに来てくれたまではいいのだが……


「何故セディクさんが?」


いつ情報を知ったのかは知らないが例の件でお世話になったセディクさんまで見送りに来ていた。

いいのかあんた。ギルドマスターだろうに……


「いや、君達がここを離れると聞いたものでね……少し用意をさせてもらったんだよ」

「……用意?」

「まあ来てくれたまえ」

「は……はい」


俺達はセディクさんに誘導されるまま発着場を進んでいくと周りの竜より圧倒的な存在感を示しているふたまわりは大きい竜の前に到着した。


「え……あの……」

「ナグファルル大陸に移動するのにこれを使うといい……二日程で到着できる……もしかして不満ですか?」


いやそうじゃ無くてこれどう見てもVIPオーラ出しまくりな竜なんですけど!

こう竜の体全体から気品というか……上流階級の雰囲気が出まくっててすげぇ乗りずらいんだけど……

なんかこう『我が乗せてやると言うておろうが!早く乗れぃ!』みたいな……


「(翔……これもの凄ぇ貴重な竜だぞ!!)」

「(アンダル……マジで!?)」

「(昔絵本の挿絵で見た事がある……大陸移動が出来る竜って言ったらデカイ城二つは買える値段だぞ!?)」

「(それなのに手間、食事がバカにならずしかもこの種の元の性格が気高いため調教が難しく図体の割に載積量も少ない……王族が大陸移動用に使うレベルのものだ。)」

「(えぇ!?……所で何でそんな事まで知ってんの?)」

「(え!?……あ~……私も本の受け売りだ、うん)」

「三人とも何をしているんだ?早く乗った方がいいぞ!」

「「「ん?」」」


俺とアンダルとジェミィがボソボソと話していると不意に上から声が聞こえてきた。

俺達が顔を上げるとそこには既に竜の背に付いた鞍の最前に座ってくつろいでいるティールが居た。


「ふぅ、極上極上……流石としか言葉が出てきません……ありがとうございます」

「いえいえ、私は彼に対する恩を返しただけです……困った事があれば何時でも」


何かティールがセディクさんといい関係を築いちゃってる……だがグッジョブだティール!

君のお陰で何か後ろめたさが無く竜に乗れそうな気がする!


「うぉ!本当に座り心地いいなこれ!」


俺達は鞍まで移動すると各々の好きな席に腰かけた。

マジで凄い座り心地がいい。これなら丸一日座りっぱなしでもケツが痛くならずに済みそうだ。

俺は自分の隣にゴトリと数は少ないながらもサイズのデカイ自分の荷物を置いた。

俺はその中のまだ一度も開けていない爺さんから貰った妙にデザインのいい棺を見た。


『師匠の作品……まだ使ってはいないようですね』

鞍に乗る途中にナロッジさんが突然話しかけてきた。

『もしそれを開くような事がありましたら……その感想をここに帰って来たときに聞かせてください…師匠の最後の作品の出来栄えを』

それだけ言うとナロッジさんは足早に竜から離れていった。

これを使う事……そういえばどうして俺はこの棺を開けなかったのか?

そんな事を考えていると……


[ゴドンッ!]


「うおぉぉ!?」


突然体に衝撃が走り俺はそれで崩しかけた体のバランスをふんばってどうにか固定した。

どうやら飛竜が飛び立ったらしい。

まったく……一声くらいかけてくれないものか…いや、俺が聞いていなかっただけなのかもしれない。


「……」


俺は後ろを振り返りだんだんと小さくなっていく切り株のような……というか世界一大きい切り株をその姿がかすむまでじっと見ていた。


さて、ナグファルルでは女神像が見つかるかな………?

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