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第一章 九話 ~城下町にて~

「…………暇だ」


とりあえずは当ても無く適当に歩いているのだが………何にもやることが無い。マジで無い。金も無い。

アンダルと別れた俺は特に目的も無くブラブラと城のまわりを歩き回っていた。


町並みはなんかこう、古き良き時代の……中世の時代って良い時代だったのかな?分かんないけどまあいいか。とにかく映画に出てくるような中世の街並みそのものだった。

まあ俺の板世界と違う所と言えば道行く途中にここの住人と何人かすれ違ったが顔を見てみるとみんな歯やら耳やら目やらが人間と違うし果ては顔自体が人間の骨格をとどめていない奴まで……普通の人間は居ないのか普通の人間は。

まあ彼等にも一つは共通点があったけどな……目に生気が宿ってない。それと何故かやけに全員ビクビクしてたな。みんな急いで家に帰ってるみたいだったし…

それはともかく全員まるで人生を楽しんでいないといった感じの目だ、それに路地の暗い所には目つきの悪い奴らが居るし見るからに怪しい物を売ってる奴らも……いや待て、俺からしたら怪しい物であってももしかしたらこの世界では普通の物かも?

……無いな、売ってる奴の顔からして。


「おっ、いいとこ発見!」


そんな事を考えながらぶらぶらと歩いていると小さな公園程の大きさの広場を見つけた。

規則正しく植えられた木の木陰に設置されたベンチ、そして花壇には小さな花が咲いている。

そこはとても静かな………人っ子一人居ないな、子供ぐらいいると思ったんだが。


とりあえず歩いてばかりで休みを取っていなかった俺はベンチの一つに腰掛け背もたれに体を預けると空を見上げた。


「いい景色だ……」


澄み渡る青空、不定型な雲がゆっくりと流れるのを見ているとなんだか心が落ち着くな……

視点を変えて周りを見てみれば僅かな風でさわさわと音を立てる木、そして素朴でありながらも確かな存在感を示している色とりどりの花……花は詳しくないが多分この世界特有の花なのだろう。

そしてそんな俺目がけて捕食者の目をしたデカい狼がこっちに走って………


「ハハッ、そんなバカな」


狼?そんなバカな事あるか、巨大な狼?城下町にモンスターが入ってくるわけ無いじゃないか。

いくら腐敗したといってもモンスターを易々と通すほど兵は無能じゃ無いだ…


「グオアァァァァァァ!!!」

「[バキガシャアン!]うひゃあぁぁぁっ!!?」


飛びかかって来た狼の一撃を間一髪でかわす。狼の一撃はベンチをあっさりと粉砕し花壇を吹っ飛ばした。

………幻覚じゃありませんでした、本物だよ本物。三メートルぐらいのデッカい狼です。

此処、城下町だよね?警備兵どうしたの?寝てんの?それとも無能なの?


「グルルルル……」


こちらを振り返り殺意丸出しの顔で俺を睨み付けてくる狼。何か俺悪いことしたか?この公園は俺の縄張りだってか?

………全く、ツイてないな。

どう考えてもこのまま返してくれそうも無いので仕方なしに鞘の付いたままの剣を構える。……この公園を地に染めたくは無い、というよりあんまり殺しとかはしたく無いので取りあえず衝撃波でも放って気絶させるか。


「グルォアァァァァ!!」

「ふっ……せいっやっ!」


再び飛び掛かってきた狼を紙一重でかわし強烈な衝撃波をお見舞いした。

かなりの巨体だから手加減無しの一撃だ。


「[ズドス!]ギャイン!」


衝撃波はみごとに狼の脇腹にクリーンヒットし狼の巨体が吹き飛ぶ。そのまま地面に叩きつけられ二、三回バウンドして転がった……約三メートルの巨体が吹っ飛ぶ一撃だ。無事な筈が……


「グ、グルル……」


あ……起き上がった、タフだなおい……

しかし若干ふらついているので全然ダメージが無いという訳では無いらしい。


「まあこれ以上お前と付き合う訳にはいかないし……そこで眠れっ!」


まあこのまま押し切ってしまえば勝ちだろう。ふらついているという事はもう一撃でも食らわせてやれば気絶するだろうし。

そう考えた俺はふらついている狼に再び衝撃波を飛ばした、しかし


「グルアッ![シュバッ]グルルル……」

「なっ!?」


狼はまっすぐ飛んでいった衝撃波をサイドステップしてかわすと俺に向かってタックルをしてきた。

こいつふらついたふりをしてやがったのか!……と面食らっていた俺が攻撃を避ける体制を取っている筈も無く


「グルオオオッ!」

「[ドカァッ]けぶぅぅっ!」


タックルをかまされた。今度は俺が紙切れのように吹っ飛ばされ二、三回バウンドする羽目になった。

この野郎さっきのお返しってかオイ……てかアンダルの時といいこの狼の時といい俺はタックルに呪われているのか?

仰向けに倒れていた俺はとりあえず体制を整えようと起き上がろうとしたが……


「[ドン!]ぐふっ!?」

「グルルル……」


狼が俺の腹に足を置き動きを固定した。そして狼の顔が俺の近くにドアップで……マテ、声は少しヤバい気がしてきたぞ?早くこいつを衝撃波でどかし…


「[バシィン!]ノォォォォォ!!!」


あっさり行動を読まれ剣を握っていた手も前足で押さえつけられてしまった。

こ、これから何が起こるのかは大体予想ができる……何て思っていると狼が大きな口を開けて俺の首に……やっぱ予想通りだったー!俺を昼飯にする気だコイツ!だ、だれか!誰かヘルプミー!


(チカラヲノゾムカ?)


うぉぉぉぉぉぉ!死ぬ!死んじゃう!食われる!性的な意味じゃなく本当に食われる!


(チカラヲ……)


待て、考えろ!考えるんだ!何の為に人間に頭が付いていると思ってるんだ!そうだ、俺にはまだ左手が残っている!この手で何が出来るか考えるんだ!奴の顔にパンチをかますか?


(オイ……)


いや体格的に無理か……では今口を開けて迫ってきてる奴の口に手を突っ込んでのどちんこを……何考えてるんだ俺は!その前に噛み千切られるわ!駄目だ危機的状況過ぎて思考が正常に働いてない!


(……キイテル?)


ん?ああそうだ!その手があったか!あんた!なんえもいいからこの状況を打破する技くれ!ハリーハリーハリー!


(………ミギテヲダシテチカラヲハナテ)


良し分かったありがとう!それじゃあ帰っていいぞ!ありがとな!


(……)


「う、うぉぉぉぉ!」


俺は心の声に言われた通り右手を突出し力を込めた。すると次の瞬間左手から紫……というか紫に近い黒色?のの炎が吹き出し狼を包んだ。

ふぉぉぉ!こんな技が出来たのか!?す……すげぇ!魔王様の力万歳、マンセー!!心の声よありがとう!


「ギャン!?ギャイィィィン!!」


顔に炎を放射された狼は悲鳴のような声を上げて俺から離れた。しかし顔の炎は瞬く間に全身に燃え移り狼はあっという間に火だるまになった。


「あ……」


ヤバい。殺すつもりは毛頭無かったんだがこれでは……と思っていたが悲鳴を上げながらも数秒間出鱈目に転げ回ったり地面に擦り付けていたせいかすぐに炎が消え立ち直った。

………もう何なんだコイツ、タフってレベルじゃねぇぞ……


「グルオァァァッ!ウォォォォォン!!!」

「うわわわっ!?」


さっきの攻撃で頭にきたらしい狼はがむしゃらに突っ込んできた。

動きが読めない分この体格差の相手では直線攻撃しか無い俺はのでさっきよりもやりにくい、せいぜいさっきの炎でけん制するのが精いっぱいだ。


「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛……」


狼も俺に容易に近づいたら危ないと感じたのだろう。俺から距離を取り隙を伺うかのように俺の周りを回り始めた。

……はぁ、これで退屈な時間は無くなりそうだが命がけだなほん……


「グルァァァァ!」

「うひゃぁぁっ!」


そんな事を考えてる暇も無さそうだ…








何十分後経っただろうか……互いに牽制し合い数回の交戦……互いにもう限界が来ていた。

これで最後にするか……今までは俺から攻撃することは無かったがこれ以上戦闘が長引くのは御免だ。

冗談抜きでの本気の一撃でこいつを仕留める!

……まるで今まで本気じゃ無かったみたいな言い回しになったけどちゃんと本気でやってましたからね?


「ふぅぅぅ……」

「グルルッ……!」


俺は全身の力を抜き剣に魔力を込める。狼も俺から来ると感じ取ったのか攻撃態勢に入った。

そして暫くの硬直状態の後……


「いくぞぉぉぉっ!!」

「グオォォォォォッ!」


俺と狼はほぼ同じタイミングで相手に突っ込む。狼は俺の喉元に向かって大口を開けて飛び掛かった。

それを見計らって俺は走った勢いでスライディングし狼の下に滑り込む。


「貰ったぁぁぁ!」

「[ズドォンッ!]ギャイィィン!」


そして俺はがら空きになった腹に向かって渾身の衝撃波を放つ。狼は悲鳴をあげながら空高く打ち上げられた……俺の勝利だ。


「[シャキン…]ふっ、当然の勝利[ドォン!]おぶはぁん!」


かっこつけて脇に刀を仕舞った瞬間落ちてきた狼に押しつぶされた。

……うん、かっこ……つけるもんじゃ………ない。ゴフッ……

そのまま俺は意識を手放してしまった。







……ペロペロ、


うあ……なんか濡れたものが頬に……


ペロペロペロ………


まただ……なんか気色悪い…何なんだ……

そう思いながら重い瞼を開けると……


「バウッ」


目の前にさっきの狼が……


「う゛ぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


……そりゃだれだってさっきまで殺し合いしてた獣が目の前にいたら驚くでしょう!だよね!?

ぬぅ、そうだった、俺はコイツの下敷きにされて気絶したんだっけか。近くに居るのは当然か……


「グルルッ!」


……あれ?さっきまでビンビンに出してた殺気が感じられない?

それどころか体をすりよせてクゥンと鳴くとか……犬っぽくなってる?

これはまさか……あれか?俺より強い奴だから付いてきます兄貴ってヤツかオイ……


「一つ聞く、俺に付い「バウッ!!」……そうか」


ハイ、即答ですか、まだ言い終わってないのに返事しますか………。

嬉しそうに尻尾振ってるよ、今更サヨナラなんて出来ないよオイ、そしてコイツどっから来たんだよ……


「なぁ狼……狼って呼びずらいな」


うん、名前何にしよう……取りあえず有名な狼の名前を……


「ロボ……うん、ロボって名がいい!」


やっぱこれだね!某どうぶつが歩き回っている森の住人にそんな名の奴がいたけどソイツじゃないよ!

……ってそれはどうでもいいか、取りあえずロボがどこから来たのか突き止めなくては……


「とりあえず行くか、ロボ」

「バウッ!」


……とりあえず、市場に行ってみる事にするか。


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