第四章 十四話 ~色んな事が起こると一日って長く感じる~
後先考えずに話を作って行った結果今後の展開をどうするかで思案する日々……
こんな事なら最初っから計算して書くべきだったよ!
やっと大昔に書いた伏線の回収は完了したが説明ばっかりで無理やり感が……許せ
やっとあの神経を使う空間から解放された俺はレナと共に既に夜になってしまった街をとぼとぼと帰っていた。
……はぁ、今日は無駄にぐっすり眠れそうだ……
「…っておよ?」
店の前に人だかりが出来てる……?
見た感じ店がいっぱいになって順番待ちをしている客……というわけでも無さそうだ。
どっちかっていうと何かを観戦してるギャラリーみたいな……なんかキャーキャー騒いでるし。
何だろう?ストリートファイトでもやってるのか?
まあどちらにしろ店の前で騒がれたら困るしこの騒ぎの鎮圧に向かうとしますか。
「ちょっとごめんなさい、はいはいどいてね~~」
俺は人だかりをかき分けて進むとどうやら人の輪の中心に居る三人が言い争っていた。
一人は鎧にマントと騎士のような姿、その他二人は他の二人より一回りは大きいガタイのいい奴に奇妙な文様が全体に書かれている近未来的なデザインのアーマーで体全体を覆っている奴……
何この時代ごとの戦闘服を集めましたみたいなカオスな光景は……
……まあそれはさておいてその三人からはかなり険悪な雰囲気が漂っている。
そしてその後ろにあるガサークさんの店に大穴が……
「ってうおぉぉぉい!?」
み、店がぁぁぁぁ!ガサークさんにどう言い訳すればいいんだチクショー!
「翔!」
「ん?あっ、ジェミィ、それにアンダル!」
人ごみをかき分けてジェミィとアンダルがこちらへと駆け寄ってきた。
どうやら二人とも無事だったみたいだ。
「一体この騒ぎは何なんだ?」
「あそこの奴らが店の中で言い争いを始めてな……それであのガタイのいい奴が壁に穴を空けて……」
「それでそこから外に出て今の状況……って訳か。何で止めなかったんだよ?」
「いや止めようかとも思ったんだが狭い店の中で大斧振り回す訳にもいかねぇし……」
「いや普通に言葉で止めようとか考えろよ!?」
「毎回部下を黙らす時にその方法しかとって無かったからそれしか思い浮かばなかったんだ……それでティールが止めに向かって……」
……あれ?嫌な予感がする。
「………それでティールは?」
「見事に一瞬でブッ飛ばされた」
そう言って言い争っている三人の中で一番巨大な奴を指さす。
ああ……あの厳つい奴か、確かにこの雰囲気の中に入っていったら有無を言わさずぶん殴られそうだ。
ティール……君はなんて不憫な奴なんだ。
「ジェミィは何やってたのさ………」
「何やってたって……料理作ってたんだけど?言い争いなんてすぐに収まるようなものだと思って黙ってたんだけど………甘かったみたい」
何という楽観的な考え……いや余裕だったのか?
……ま、こんなこと考えても仕方ないし、先ずはこの騒ぎの元凶を……
「はぁ……ちょっと俺この騒ぎ止めてくるわ……いつまでも騒がれてちゃたまらないし……」
「あ…うん、怪我しないように気を付けて……」
「ジェミィはどうするんだ?」
「う~ん……私も翔が居なかったなら今は止めに入ってるでしょうけど……上手く鎮圧してくれるでしょ……アンダル、とりあえず店を掃除しましょう?」
「お…応……」
そう言ってジェミィはアンダルと共に店に戻って行った。
………笑顔の後ろでわき出すオーラが怖いよジェミィさん……
笑顔を向けられたアンダルが若干引いてたし。
……まああの三人を止めに行くとしますか。
「ちょっと御免なさいねそこの人……」
「何だ貴様?」
「あぁ!?」
「……ドッカイケ」
はい、思いっきり殺気立った三人に睨まれた。
因みに反応はさっき紹介した順だ。なんか空気読めコラみたいなオーラが出てるが気にしない。
なんたって俺の安眠がかかってるんだ。
「そうはいかなんですよ……うちの店ぶっ壊してくれてどうするつもりなんですか貴方方は……」
まあ正確にはガサークさんの店だが知っててもこの状況なら誰もツッコミはしないし別にいいでしょ。
「知らん、突っかかって来たのも店を破壊したのもあの頭の小さいデカブツだ。私は関係無い」
「なっ……テメェ!」
鎧マントの軽蔑したようなセリフにデカブ……いやガタイのいい男がキレて殴りかかった。
そして鎧マントは俺を掴むとその突っ込んで来る軌道上に……って
「盾になってくれたまえ」
「おいぃぃ!?」
と言っている間にすぐそばには拳が……
俺はとっさに身体強化をして両手でパンチを止め[ミチミチミチ……]ギャーーーーーーーーッ!!!
腕が!腕が悲鳴をあげてるぅ!筋肉と骨がぁぁぁぁ!?
体全体を強化してしてしまったせいもありその場に踏みとどまれたのだがそれがストレートの衝撃をそれ程鍛えていない腕が受けてしまった……痺れて体が動かない……
魔王補正のお陰で何とか堪えられたけどこれからは無理やり攻撃を止めようとはせずに防御に徹して素直にぶん殴られる……あれ?それだともっと痛いか?
「俺のパンチを止めた……?」
「おっ……中々やるじゃないか。それじゃあその下等生物の気を引いていてくれたまえ」
「なっ!?おい!」
そう言って動けない俺達(まあデカブツの方は唖然としていただけだと思うが)に背を向けると人をかき分けてさっさとどこかへと行ってしまった。
………何かすげぇ堂々と逃げられたな。畜生……
「ハッ!?あ、あの野郎何処行った?」
「………逃げられたよ」
「何ぃ!……クソッタレ!?テメェのせいだぁ!」
「えぇ!?俺にキレるな俺に!」
「うるせぇ!一発殴らせやが「チエストォォォォ!」ごぶぁぁぁ!?」
「翔!大丈夫?」
「ああ……大じょ…」
俺に逆ギレし拳を振り上げた次の瞬間弾丸のようなスピードでレナがデカブツのがら空きになった脇腹にライダーキックもどきを食らわせデカブツはくの字で吹っ飛び……
[ドォン!……ガラガラッ……パラパラ……]
「「あ………」」
ガサークさんの家にまた一つ巨大な穴を空けた。その瞬間今までガヤガヤとしていた観衆が一気に静まり返り辺りに静寂が広がった。
舞い上がった埃が晴れるとそこには眉間に青筋を浮かべた笑顔のジェミィさんが……
「そこの三人………こっちに来ようか」
「「りょ、了解しました!」」
「イエス、サー……」
俺達に拒否権は存在しなかった………。
「だって奴が俺達を………チクショォォォォォ!!!」
「あ~はいはい。そういう時は酒でも飲んで鬱憤を晴らすのが一番。私が聞いてあげるから全部出しちゃいな」
「ウォォォォォォォ……」
あの事故から二時間ぐらい後、ジェミィさんにこってり怒られ店を掃除、そして店に空いてしまった穴を即席で補修し、一応営業を再開した。
「サキホドハ済マナイ。ツレガ迷惑ヲ…」
そう言って紋章アーマー……もといログシーラさんは俺とアンダルに頭を下げた。
「ああもういいよ……俺は終わった事は気にしないタイプだから……所でアンダル。ジェミィは何でママさんやってんだ!?」
夜は飲食店をやっていた筈なのにジェミィの所だけ何故か大人のバーになってしまっている。
さっき俺に殴りかかった男……名はホルミルというらしいが…思いっきり泣きながら愚痴をこぼしている。その話を聞いているジェミィの姿がよくドラマで見るバーのママさんそっくりだ。
「ジェミィ面倒見がいいからああやってるんじゃないか?でも何時もはやって無いぜ?」
「そっか……」
「畜生……あの野郎共いつもいつも俺達の事を……」
「そうか……苦労してるんだな」
「ウック……ありがとよ……そうだぁ!俺は生まれたくってこんなんに生まれたんじゃねぇンだァァァァ!」
カウンターにうつ伏せになって大声で泣き始めるホルミル。そろそろ騒音に近いレベルだろこの音量……
「凄ぇ泣き上戸……」
「悩ミハ誰ニデモアル…特二ウチノギルドデハナ……」
そうログシーラさんはぽつりと呟いた。
……先程聞いた話だがこの二人は傭兵ギルドに属しているらしい。
ギルドの活動は名の通り各地で起こる戦争で傭兵を派遣するギルドだ。
そのメンバーの多くは戦争や様々な理由で国を追われた元兵士や奴隷、戦争孤児など主に社会的地位を失った者や社会から異端として排除された者達で構成されている。
つまりこのギルドは今の時代だからこそ生まれ、そしてこのそこかしこで戦争が起きる時代だからこそ急成長したギルドと言えるという訳だ。
そしてそれをおもしろくないと思っているのが先程この二人ともめていた戦士ギルドの連中だ。
戦士ギルドは傭兵ギルドと同じく兵士が中心となっているギルドである。
彼らがおもしろく思わない理由は二つある。
一つは……いやまず戦士ギルドについて言おう。
戦士ギルドは地域に起きる問題の解決や高潔な意思を持った戦士・騎士を育てるといった事を目的にするギルドだ。
そしてそのギルドの中心を担っている者の殆どが各国の貴族や地方領主の二男や三男……つまりは家督を継げない物達が中心となっている。
そして彼らのパイプで依頼を受けている為世界一ともなる巨大なギルドへとなった訳だ。
しかしそこで彼らの存在を脅かす存在……傭兵ギルドが現れた。
何故彼らがそう思ったのか……それは彼らのギルドの掟の一つにあった。
『何時如何なる時も中立であるべし』……つまりは戦士ギルドは戦争に加担する事は許されない……これは中心人物がありとあらゆる地の有力者と血縁関係があるこのギルドにとっては破ろうとしても破れない掟であった。
そしてその穴を埋めるかのように現れた傭兵ギルドによって戦争に敗れた地ではその地の有力者が没落した事により戦士ギルドよりも傭兵ギルドの方が力を持つようになっていってしまったのだ。
それともう一つの理由……先ほど言った通り戦士ギルドの中心に居る面々は高家の生まれである事が多い為何と言うか……俺達の世界で言う人種差別的な……いや腐る程種族が居る世界なので単に種族が違うという事だけでは差別をされないけれど……あ~……何て言ったらいいんだ?
俗に言う突然変異や混血を見下す……つまりは純潔至上主義みたいなものがあるらしい。
その考えの下に多くの国では異端者とみなされ迫害の対象となっている彼らをかき集め兵士としているのも傭兵ギルドである。
……まあつまりは上の者達はギルドの影響力が傭兵ギルドに奪われるのを恐れ、下の者達は異端者を集めている下賤な者達の集まりと見下している………こんな感じだ。
ホルミルとログシールの二人もその異端の出でホルミルは生まれたての頃異端としてすぐに捨てられた所を傭兵ギルドに保護され、ログシールも傭兵ギルドに入る前までは容姿の事で相当な迫害を受けていたようで自分をすっぽりと覆い隠すアーマーはその自分の姿を隠すための物らしい。
因みに異端に対する皆様の反応は……
「ふぅん……そなんだ」
レナは凄い反応が軽かった。理由は単純明快でエンディアス大陸ではそのような差別が無いとの事。
あんな品種配合出来そうな種族いっぱいのでかい大陸でその手の差別が無いとか意外だったが……まあエリアスさんの立場を思い浮かべてみれば分かるっちゃあ分かるな。
「一人だけ他の奴らと違う苦労ってのは分かってるつもりだ……まああいつらに面と向かって言える立場じゃあ無ぇけどな」
アンダルは他のゴブリンの上位種で一人だけ容姿が違う事もあってか理解はあるようだった。
……まあしかしリーダー格でチヤホヤされてたんだろうからあの二人に面と向かって言える筈は無いよな。
「……この事についてはあまり話したくは無いな。しかし偏見を持ってはいないという事だけははっきりと言っておく」
……なんか喋ってる時にジェミィの顔に影が差したように見えたんだが……この事がらみで何か嫌なことでもあったんだろうか?
……まあ詮索はしないに限るな。
「私もお嬢と同じ生まれなので偏見は持ってないよ。……しかし異端・異種族の恋、許されざる禁忌…これは貴族と庶民の恋愛を描いた本と似たテーマだとは思わないか翔!?これが卑下されるなんてこの世界はどうにかしてる!最初は私はそういう本を書いて世界に共通する恋愛本を書く足掛かりにしようと思ったんだが世界における戦士ギルドの影響力が大きすぎたせいで……って何処に行くんだ翔!?」
……うん、ティールは偏見なんて考えは砂粒程も無いって事が良く分かった。
[ガチャ]
「済まないここに俺の仲間が……お騒がせしているようだな」
「ん?」
回想とは思えないような説明的な回想をしていると店の扉を空ける音共に黒いローブを被った男性が入って来た。
その顔はフードを深く被っているせいで表情が全く分からないが声のトーンからして呆れているっぽい。
「うぉぁ?りぃだぁ~?なんれここにぃ?」
「おいおい完璧に出来上がってやがるな……ってお前は……」
黒いローブを着た人物は完全に酔いが回ってしまっているホルミルにちらとみるとログシールさんの座っている所を見ると少し驚いたような声を出すとこちらに歩み寄って来た。
そして俺の目の前でピタリと止まった。
「ん?」
「これはこれは……黒炎の狼騎士、風見翔殿では?」
「え?………何で俺の名を?」
「いやいや、貴方程の腕でフリーの傭兵というのはこの世界で数える程しかいないんでね」
なんか非常に嫌味っぽい声で言ってくるんだが……俺なんかこいつにこんな嫌味っぽく言われるような行動とったか?
「それに俺はディアトリアの戦いの時裏でいろいろやってたんだよ……辺境の大陸の争いと言う事で試作段階にあった肉体強化薬と新人幹部三人……読みが非常に甘かった。相手の国がフリーの傭兵を集めていると聞いたので作戦の弊害となりそうな有名な傭兵はどかしておいた筈だったんだけどなぁ……まさかイレギュラーがいるとは……お陰で目的の半分はおじゃんだ。まあ今更何を言っても変わりはしないけどな……」
そう言って黒ローブは俺の隣の椅子に腰かけた。
こいつが言ってるのは……俺がこの世界に来たばかりの頃の話だよな。
まあ聞いてもいないのにペラペラ喋ってるようだし色々と聞いてみるか……
「……あんたらはナロッジと組んでたのか?」
「ああ、あいつか……ナロッジの奴は魔力は桁外れだったんだが肝心の発動する才能が無かった。それでも幼い頃はその魔力量のせいで天才扱いされて高慢で野心の塊になっちまってたそうだ。自分の実力を知って悔しがっている奴に浸けこむのは容易だったよ……我ら盗賊ギルドは奴に交渉を持ちかけた。お前を一国の王にする力を与えてやる、そのかわり一部の土地を貰う……ってな。そして奴に実験用に試作型であった薬と強力な魔法が使える指輪を与えたのさ……数年かけて徐々に進めた計画だったのに……」
「俺がそれをぶっ潰してしまったと」
「ああそうさ……まあ勝敗に関らず薬品と指輪の情報は欲しかったからからザムル達三人には敗北した場合速やかに降伏するように言ってあったからな。それであっさり貴様方に付いた訳だ。しかし我々ギルドと俺の名に傷がついた……お陰でこの頃はずっと冷やかされっぱなしだ。嫌になる……」
「俺を恨んでるのか?」
「恨んだってどうにもならねぇだろ……しかもお前は傭兵。昨日の敵は今日の友……ってな。お前が傭兵業を続けるんなら否が応でも俺の仲間と関る事になるだろうしよ」
そう言うと黒ローブはすっと立ち上がり完全に酔いつぶれてしまったホルミルの所に行くと軽々と抱え上げた。
……凄ぇな、自分より大きい奴を軽々と肩に乗っけてるよ。
「おっと、そうだった。こいつは店の修繕費だ……」
「うおっ!?」
そう言うと黒ローブは俺に拳ほどの大きさの袋を投げて来た。袋の中身を確認してみると金貨がぎっしりと……
「え!?これはいくらなんでも……」
「気にするな。あ、後巾着は捨てるなよ!それ結構高いんだからな!?ログシール、行くぞ!」
「ハイ、リーダー!!」
「あ……」
まるで用は済んだとでもいう様な速さで二人……いや三人は店から去って行った。
「さて……もう夜も遅いし店を閉めるか……ティール、アンダル、それに翔も手伝ってくれ」
「了解」
……こうして俺の慌ただしい一日は幕を閉じた。