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第四章 十一話 ~芸術ギルドにて~

「すみませ~ん……」

「ん?何でしょうか?」


あの爺さんの一件が終わった翌日、俺はギルド本部の芸術ギルドと呼ばれる場所に来ていた。


あの後地面に上半身を突っ込んだティールを発見して目的地の町へ向かい本を届け、明け方頃にやっと店に戻れた。

昼頃じゃなくて本当に良かった。棺を背負った奴なんて周りからどんな目で見られる事か……

まあしかし店に戻った途端ジェミィの飛び膝蹴りを受けたけどな。俺とティールがこんな時間まで帰って来ない事とどうして服がボロボロになっているのか、そして背負っている棺は何かという事を逐一問い詰められた。

目が真っ赤になっていたので多分寝ずに待っていてくれたのだろう。そこまで心配させていて話さないのはマズイと思い全てを話した。


そして俺は一休みしようと思ったら「そんなボロボロの服で寝るな」と言われて衣服を全て没収されたうえで水魔法で汚れを落とされてパジャマに着替えさせられ寝室へと向かった。

因みにティールは「床で寝てろ」と言われていた。何処まで嫌われてるんだティール……


まあそれで翌日になり俺は服を着てギルドに行こうと思ったらジェミィが俺の服を補修していたので着れず、アンダルに頼んで私服を買ってきて貰った。というかジェミィは寝ずに作業したのか?


……まあそんな感じで今の状況に至るといった訳である。


「何か我がギルドにご用件でも……」

「あ、はい……実はこれを渡しに来ました」


俺はそう言って爺さんの指輪を受付の男性に渡す。

受付の男性は怪訝そうな顔をして受け取りその指輪を見る、すると突然顔色を変えて椅子から立ち上がった。


「こ、これは……しょ、少々お待ち下さい!」


受付の男性は慌てた様子で俺にそう言うと凄い勢いで奥へと走って行った。

そして暫くすると再び男性が戻って来た。


「お、お待たせ……致しました………ギ……ギルドマスターが………お話したいと申しております……どうぞこちらへ……」


肩で息をしている受付の男性に連れられ俺はギルドに入る。

内装は流石芸術ギルドと言うだけあり数々の目を引く美しい装飾があちらこちらにある。

そしてひときわ目を引く装飾のされた大きな扉の前で受付の男性は足を止めた。


「ギルドマスター様がお待ちです……粗相の無いようにお願いいたします」


俺はその扉をゆっくりと開け中に入った。


中は応接間のようになっており大きなテーブルを挟んで長椅子が置かれている。

そして壁には沢山の肖像画……どれもこれも素晴らしい出来だ。

そして部屋の奥には一人の男性が立っていた。


「初めまして……私はこの芸術ギルドのマスター、セディク・マルシェンと言います。どうぞ、おかけになって下さい」

「あ、はい……」


穏やかな声でしゃべりかけてくる男性……この人爺さんと一緒に書かれていた人だ……

耳がとがっているから多分エルフだと思う。しかし絵で描かれた頃より少しやつれたかな?


「先ず聞きたいのですがこれは何処で……?」

「正確な場所は解りませんが人が居なくなった町です……そこで本人からここに渡すようにと……」

「本人!?」

「ああ……正確に言えば幽霊になった彼からです」

「………」


セディクさんはそれを聞くとフッ……と笑った。アレ?俺信じてもらえてない?


「彼は私の師匠だったんです。あの頃はもう殆ど居なかった人間でした。天才でしたよ……」


そして暫く経った後静かに喋り始めた。


「芸術に関する分野ならほぼ全て一流、寿命が短い人間とは思えない程の多彩さでした。そんな彼に弟子入りして……作っては毎回怒られてました……『お前のは上手いが心がこもって無い、生き生きしてない』と…毎回自分の横に置いてある箱に放り捨ててたんです……初めての時など怒りを覚えましたよ…あの頃は天才ともてはやされていましたから……一体何作品捨てられた事やら」


懐かしい昔話をするような口調で話す。

ん?捨てられた?でも確かあの爺さんのガラスケースには……


「……捨てられてはいませんでしたよ?」

「え?」

「彼の……死ぬ前まで住んでいた家のガラスケースに綺麗に並べられてましたよ?埃一つも無く」

「そんな……」


心底驚いたという顔をするセディクさん。

……やっぱ厳しい人だったのかな?


「……爺さ……いや貴方の師匠はどういう人だったんですか?」

「彼は……師匠は先代のギルドマスターでした………来て下さい」


そう言って俺を呼ぶと俺と共に一つの肖像画の前に立つセディクさん。

………あれ?この絵の人物って爺さんじゃね?豪華な服を着ていた絵のせいでよく分んなかったけど。


セディクさんは爺さんの指輪を取り出すと額縁の下の方のネームプレートと思わしき金属板の下にあった窪みにはめ込んだ。

すると金属板が光りだし文字が現れた。

……え~と、イディア・マーキンス……って書いてあるな。これが爺さんの名前か?


「歴代のギルドマスターはこうして指輪を残す事が習わしと決まっていました。しかし師匠は指輪を持ったままギルドから脱退してしまいまして……」

「……どうして脱退なんかしたんですか?」


そういや最後のガラスケースにギルドを脱退って書いてあったよな?

……ギルドマスターの地位を捨てる程の事が起きたって事だよな?


「……原因は師匠が作ろうとしていた一体の作品にありました……師匠はギルドを辞める十年程前から生きる人形を作ろうとしていました。その為の資金稼ぎのために彼はその頃発足したばかりの傭兵ギルドの一人の科学者と結託し人型の戦闘兵器を作り出しその見返りに兵器技術と莫大な報酬を受け取っていたのです」

「……何でそんな奴と?それに何故あなたの師匠を……」

「師匠の作る人形の外観は近くで見ても本物と見違えるほどの出来です。多分人ごみに紛れて戦闘を起ここす……そういった要素の兵器を作り出したかったのでしょう。ホムンクルスは成長を待たなければ使用出来ませんがカラクリ兵なら一度に大量に、そしてすぐに実戦登用出来ますから……」


……でもそれだけの理由でギルドを抜けるか?

いや、もしかして資金が十分に溜まったから完成させる為にあの場所へ移り住んだとか……


「そしてその行動が芸術ギルドの古株達から批判を受けたのです。我々のギルドは兵器を作るギルドでは無いと。更に人形の事も知れ命を作り出すなど貴様は神にでもなるつもりかと批判が強まり……それで師匠の考えを良しとする新人たちが中心とした肯定派と古株の人々が中心となった否定派で激しい争いが起こりギルドが一時は分断寸前になりました……そしてその争いを収めるため師匠はギルドを……」


そこで一旦話を切るセディクさん……中々凄い事になったんたんだな爺さんのあの作品のせいで。

セディクさんは俺に椅子に座るよう促し俺を座らせると自分も俺の向かい側へ座った。


「師匠がギルドを去る際に私は師匠の無事を祈って一体の人形を渡しました。あの作品は私の中でも渾身の出来だと思っています。唯一褒めて貰った作品でもありましたし……その時に言っていたんですよ。たとえ幽霊になったとしてもこの作品を完成させ指輪を戻しに来る……と、だから貴方が幽霊になった師匠に頼まれた、と言う事も信じていない訳ではありません。師匠は本当に執念で幽霊になりそうな人でしたから。それを考えたら自然と……」


ああ、さっきの笑いはそういう訳だったのか。


「しかし指輪が帰ってきたという事は作品は……」

「はい、完成しています。一応私が貰ったんですが……」

「そうですか……そうだ、指輪を持って来てくれた貴方に私から何かお礼がしたいのですが……」

「いえいえ!大丈夫ですお気になさらず……」

「いやいやそんなこと言わずに……貴方は何か悩み事があるような顔をしている……出来れば力になりたいんです。師匠が作品を託したような人ですから…」

「そ、そうですか…なら……」


押し切られるような形で俺は悩み……かな?

自分は堕天使の像を探している事。その手掛かりを掴みたいので魔法学院の特別図書の本を閲覧したいと思っているという事を話した。


「まあ暫くすれば許可が下りると思うんで気長に待ちます「それなら力になりましょう。私も後見人になればすぐにでも閲覧は出来ると思いますよ?」……え?」


セディクさんは机に向かって紙とペンを取り出すとサラサラと何かを書いた後封筒に入れ俺に手渡した。


「これを学院に持って行けば特別図書が閲覧できる筈です」

「あ、ありがとうございます……」

「いえいえ……頑張って下さい」


セディクさんはそういうとにっこりと笑った。

その後俺は特にする事は無くなったので彼に再度お礼を言い芸術ギルドを後にしてとりあえず店へと戻った。







「ただいま~……って何事?」


帰ってきたら店の中にはうつぶせに倒れ伏し力尽きているティールとそれを勝ち誇った顔で見ているレナ、それをあきれた目で見ているジェミィ……そして普通に接客しているアンダル。

……何があった。


「あ!翔お帰り!」

「ただいまレナ……ジェミィ、一体何があった?」

「……これを見てみろ」

「……?手紙?」


ジェミィに手渡された手紙を見てみる。どうやらエンディアスから届いた手紙のようだ。

多分この前ティールが飛ばした返事の答えだろう。

俺は無言でそれを読み始めた。


~愛する我が娘へ~


お前が乗り物に非常に弱いというのにエグドラシアに居るというのは驚いた。

だがいい機会だ、そこには大きな学院もある。そこに居る限りはそこで勉学に励んでくれると嬉しい。

私がいつでも会える所に居ないのは寂しい気もするが見聞を広めるには十分な土地だろう。

大丈夫、母さんとガルテリアは私が何とか説得しよう。

つまらなくなったら何時でも帰ってきていいからな?父は何時でもお前の帰りを待っているぞ。


学院の入学許可を申請する紙を同封しておいた。

あちらには既に別のが行っているので最終確認として持って行ってくれ。


~父より~


「……」


俺は無言でティールを見た。

……それ程ショックだったかティールよ。度重なる精神攻撃で遂に頭がショートしたか。


「とにかくコイツは客の邪魔だから二階に運ぼう」

「そ、そうだな……」


俺はジェミィと共にティールを抱えて二階まで運び込んだ。

そしてその後俺はレナを学院まで連れて行けと言われたので自分の用事もあるので軽く了承してレナと共に学院へと向かった。

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