第四章 九話 ~ゴーストの親玉~
俺は爺さんの頼みを受けた後地図を頼りに緑色の霧が噴出している所に突っ込んだ。
その数秒後……
「シネェ…」
「コロセェ…」
「クルシメェ…」
「うおぉぉ!?」
あっという間にマナゴースト共が群がって来た。
しかもさっきのように数体では無い。霧のせいで視界が悪いがざっと見ても数十体居る。
更に達の悪い事に数体が剣や槍、鉄の棒等を持って武装している。多分それを依り代としているのだろう。
……一体一体潰していったらキリが無さそうだな、突っ切るか…
俺はエクスカリパーを右手に持つとマナゴーストの群れに突っ込んだ。
「コロ…[ザシュ!]」
「ヒャア!ブチコロ…[ズバッ!]」
「カノジョガホシ[………ザクッ]」
「ジゴクニ…[ザクッ!]」
「√32a×√40b÷78…[……ドスッ]」
「ダーリン!アナタダーリンジャ[ドスッ、ズバッ、ザシュッ、ザシュッ、グシャッ!]」
「ユガミネェ[ザスドスガスガスブチッ!]」
「ホイホイチャーハ「チエストォォォォ!」[ズバァン!]」
なんだこの突っ込み所満載の亡霊共は…しかも揃いに揃って弱いし…
あれか?全員俺に一発ネタをかましに来てるのか?突っ込みきれないし俺はそういう立場でありたいとも思わないぞコノヤロー。
そんな感じで向かって来る亡霊共を文字通り斬っては捨て斬っては捨て…と続けていると目的地と思われる場所に到着した。
地面が割れて霧が噴出している…うん、ここで間違いない。まあ割れてというより穴が開いたと言った方がいいかなこの大きさは…噴出している煙で底が見えないな。
「ここに飛び込むのか…」
今度は自分から落ちるか……やれやれ。まあ慣れたもんだけどな。
後ろから大勢のマナゴースト共が追っかけて来たので俺は別段覚悟も勇気も何も無しに亀裂へと飛び込んだ。
「よっと……深さ十メートルそこらってとこか」
どうやら亀裂の中は洞窟のような作りになっているらしいな。
俺はとりあえず霧が流れて来ている方向に歩いて行く。
……そういえばマナゴースト共が追いかけて来ないな。一体どうした?俺を見失ったのか?
そう思った次の瞬間
[ボゴッ]
[ガラガラ…]
「「「「「ヴアァァァァ……」」」」」
「うへぇあぃ!?」
突然地面やら壁から人型の何か…あれゾンビか?ゾンビなのか?
そうですか!こいつらが居るから追撃しなくていいと!あの野郎共考えやがったな!
「とりあえず退けぇ!」
俺はエクスカリパーで前方に居るゾンビを真っ二つにした。
「アァァン……」
文字だけだったら無駄に色っぽく聞こえるような声を出してゾンビは地面に崩れ落ちただの土くれになった。
……これ結局肉体が土になってるだけでこいつも弱いんじゃね?
「[ボコッ]ウグァァァァ!」
ってすぐ地面から新し一匹が…って復活したのかコイツ!くさった死体かこいつらは!
こいつは本当に倒すだけ無駄だな。ここは先程と同じく突っ切って…
「[グイッ]…えっ?」
一歩踏み出そうとしたが時何かに足を拘束されて踏み出せなかった。
そして足元を見てみるといつの間にか地面から生えた無数の手が俺の脚をきっちりと拘束していた。
「なっ!?……放せぇ!」
俺は掴みかかっている腕を切り捨てると再び生えてきた手をかわし素早く抜け出して眼前まで迫っていたゾンビの顔面をぶん殴り包囲網から脱出し奥へと突っ走る。
「ア…アァァ…」
「グゥゥゥ……」
「[ドサッ]ウォォォ…」
「止めろ乗っかるな!」
壁や地面から、果ては上から落ちて来たゾンビを振り落り切り地面から俺の脚を掴もうと無数に伸びて来る足を避けて俺はただひたすらに走った。
そしてやっとの事でゾンビだらけの通路を抜けたと思ったら広い部屋に出た。
中心には緑色に光る水が湧き出しそれから霧が立ち昇っている。多分ここが爺さんの言っていた所で間違いない。
「でもマナゴーストの親玉なんて影も形も[ゴゴゴゴゴゴゴ……]うおっ!何だ!?」
[ドザァァァァァン!]
突然地鳴りが起こり中央の水…いやマナ溜まりが盛り上がったかと思うとそこから何かが飛び出した。
「うわキモっ!」
そのマナ溜まりから現れたのは一応人型はしていた。あくまで一応だ。それじゃなきゃまず見た瞬間に人型なのにキモいなんて言わないだろ?
まず身長は五~六メートルと言ったところだろうか?見た目は何と言うか…前かがみになったスーパータイラント(腕無し)で背中に毒々しい彩色の巨大な蕾がひっ付いてるといった感じだ。
済まない、俺の少ないボキャブラリーではグロい人型といったらそれぐらいしか思い浮かばなかった。
まあフシギダネタイラントとでも名付けよう。
「グビャァァァァァン!」
フシギダネ(略)はこちらを向くと威嚇するかのように吠え声をあげるとこちらに向かって突っ込んで来た。
「おっと!そんなの食らうかよ![ザスッ]」
「ウギョォウ!!」
しかし直線的に突っ込んで来るだけなので俺は普通に避けカウンターを足にお見舞いした。
フシギダネ(略)は一瞬怯んだがすぐに回し蹴りを俺に向かって放ってきた。
「よっと、その程度の蹴りで俺に当たると思うなよ!」
俺は素早く屈んでそれを避け一気に足元まで接近すると軸足に向けて魔法弾をゼロ距離で発射した。
「[ズドォン!]オグゥェェェ![ザバァン!]」
軸足を吹っ飛ばされてバランスを崩したフシギダネ(略)はそのままマナ溜まりへとダイブした。
丁度上半身だけマナ溜まりに浸かっているせいで犬神家のような感じになっている。
……シュールだな。
そしてそのままフシギダネ(略)の下半身はゆっくりと引きずり込まれるかのようにマナ溜まりに沈んでいった。
……あれ?勝った?
「[ドザァン!]ヴォォォォォォォ!!!」
「デスヨネー!」
すぐさま上半身だけマナ溜まりから出したフシギダネ(略)が現れた。しかもマナ溜まりの中央に陣取っている。あいつここなら攻撃が届かないとでも思っているのだろうか?
あ、そうか
遠距離攻撃の魔法弾ゼロ距離で発射しちゃいましたもんね~、そりゃ近距離攻撃だと思うよな。
そんな貴様の思い込みをぶち壊してやる!
「ハッハー!これでも食らいたまえデカブツ君!」
俺は自分の周囲に魔法弾を数十発出現させる。見たまえ!これが強化された俺の魔法弾だよ!命乞いをしろ!三分間待ってやる!
……しかしフシギダネ(略)もバカでは無かった。
「オォォォォォォォォォ[ミキミキミキミキ…]」
「ひょ!?」
フシギダネ(略)の部分から数十本の触手のようなものが生えてきた。
やばい、普通に対応出来る程の本数なんですけど……
「オグゥォァァァァァ!」
「キャァァァァァ!?」
形勢逆転、こちらが襲い来る触手を撃ち落とす羽目になってしまった。
しかも吹き飛ばしてもすぐに次のが生えて来るから埒が明かない。
……く、くそう…こんな筈では……
一気に燃やしてやりたい所だがここで黒炎使ったら確実にあぼーんだし一気に吹き飛ばすには……
「あるじゃないか!くらえぇぇぇ!スカーレットスパーク!」
俺は渾身の力を込めてスカーレットスパークを放った。
「ウグォ!?[ズドォォォォン!]ヴァァァァァ!!!」
迫りくる触手を一瞬で吹き飛ばしフシギダネ(略)の本体に直撃した。
苦しそうな声をあげたてのけぞったがあまりダメージを食らった様子は無くすぐに体制を立て直す。
「アグォォォォ…」
今の一撃で本気で怒ったらしい。憎しみのこもった目で俺をガン見している。
こういう時は敵は何をしてくるか分からないので身構える。
「ウグッ…」
「ん?」
突然フシギダネ(略)が何かを堪えるような顔になる。それと同時に腹が膨れ始めた。
「おいまさか……」
「オェェェェェェェッ!!」
「ギャーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」
あいつ口から嘔吐物を水鉄砲みたいに飛ばしてきやがった!色んな意味で最低最悪な遠距離
攻撃だなこの野郎!お食事中だったらどうするんだ!誰がとは言わないけども!
何となく予想していた俺は間一髪その攻撃を避け服に一滴でも付着していないか必死に確認した。
……うん、付いていない。大丈夫だ。もうこの一張羅今までにあった色んな事でボロボロだからこれ以上使い物にならなくしたくないんだよ!
「[ボキッ、バキッ…]ウォォォォ……」
「ひょ!?」
不審な音がしたと思いその方向を見てみると奴が吐いた嘔吐物の中から次々とゾンビが生まれ出ていた。
こうやって増やしてんのかコイツは!?嫌な増やしかただなオイ!
「オエェェェ!ウグェェェェ!!!」
「ちょ!?」
いつの間にかフシギダネ(略)の方も通路に次々と嘔吐しゾンビを量産している。
そしてあっという間に部屋が某ショッピングモールのような光景になってしまった。
「ウォォォォォ!」
「アァァァァ!」
「う、うわっ!?は、放せぇっ!」
そして通路が狭いせいで四方から囲まれあっという間に拘束されてしまった。
く、くそう…動きたいけど満員電車以上の圧迫感でピクリとも動けない……
「イグゥアァァァァ……」
その光景を見ていたフシギダネ(略)は触手をマナ溜まりに浸けるとなにやら吸収し始めた。
そして背中の蕾がゆっくりと開く。
蕾の中心部には一際強く光り輝く部分があった。多分あれがあいつのコアなのだろう。
……って待て、あいつこっちに向けて口開けたぞ?口の奥が凄い光り輝いてるんですけど?まさかコイツも嘔吐物以外に光線を吐けるのか!?
「アァァァァ……[キュィィィィィィィ……]」
ヤバいヤバい!あれ溜め時間からして絶対威力高い!クソッ、こいつら生みだしたのはこの為か!
「放せっつってんだろうがぁぁぁぁぁぁ![ズドォォォォン!]」
俺は両腕から威力全開のスカーレットスパークを発射しゾンビ共を蹴散らした。
さて、あいつからコアを取るにはあの蕾が開いてる時を狙うしか無い…と言う事は今だ。
でも正直全力でジャンプしても届く距離じゃないからどうにかして足場に近づけさせないと…
でも触手を掴んで引っ張りよせるだなんて無茶な事は無論出来ないし…
……そうだ!
「引いて駄目なら……」
俺は全身の魔力を集めフシギダネ代わりフシギバナ(略)に狙いを定めスカーレットスパークを発射する態勢に入る。
「押してみるぅぅぅあぁぁぁ!!」
「[ズドォォォォォン!]!!!?」
発射準備中は全く動けないらしくもろに食らうフシギバナ(略)
何の抵抗も無いまま反対側の岸まで移動させる事に成功した。
「よっしゃあ!これで[ズビャァァァァァァン]うおぉぉぉぉぉ!!!?」
ガッツポーズを取ろうとした瞬間目の前に光が迫って来たのを間一髪でかわす。
どうやら俺がスカーレットスパークを撃ち終わったのと同時に奴はレーザー攻撃を開始したらしい。
しかし自分の生みだしたゾンビ共も巻き添えにするとは……
[ギュビャァァァァァ……]
「え?ちょ!!」
レーザーがこちらに迫って……ってアイツ首動かしてやがる!一旦発射すれば動けるのか!
ってかそれだとせっかく岸まで近づけたのに離れられてしまう!
「ぬぅおぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は全速力でフシギバナ(略)が居る所に突っ走る。近くに居たゾンビは通り抜けざまにアッパーをかましたりマナ溜まりに叩き落とした。
そしてスルーされたゾンビ達は皆仲良く俺に向かって迫ってくる光線に飲み込まれた。
まるでゾンビがゴミのようだ!
「せいやぁぁぁぁぁっ!」
俺は岸から離れようとしているフシギバナ(略)の所まで付くと足にありったけの力を込めて奴の背中めがけ飛び込んだ。
「とっ!うおぉぉぉっっ!!せっ!」
何とか転がり込むような形で開いている花の部分に着地しすぐに触手攻撃に備える。
「……?」
……しかし攻撃が来ない。それを不審に思った次の瞬間
[グググッ!]
「のぉぉぉぉ!!」
花弁が上にせり上がり始めた。そしてあっという間に中心部に追いやられる。
こいつこのまま俺を押しつぶす気なのだろう。しかし俺もそうはいかない、ここを何処だかお忘れでは無い筈だ。そう……
「押し潰される前にコアをむしり取ってやるよ!」
俺は緑色に光っている花の中心部に手を突っ込むと無理やりにその光源と思わしき拳大の石を引きずり出した。
「うぉっ眩しっ!……じゃなくて目がぁぁぁぁ!」
……こんな時にネタやるもんじゃないよな。というか腕が緑色の液体でベトベトだ……
「ウゴァベクェチィシブルボァァァ!!!」
「うぉぉぉ!?」
コアを奪われたフシギバナ(略)は花弁をグネグネと不気味に動かした後萎れるように花が開きそれ以降ピクリとも動かなくなった。
「よっしゃぁ!勝ったぁ!」
いままでかなりの難敵と戦ってきたからか今回は楽勝だったな!ウン!
[ビシッ…]
「ん?[ビシビシ……]」
足元から聞こえる不審な音に気が付き下を見てみるとフシギバナの遺体のそこかしこに亀裂が入り脈動していた。
……ウ~ン、これはもしや……アレか?
待て、落ち着け、落ち着くんだ。まずは戦利品を絶対無くさないようにポケットに仕舞う。
そして次に自分にスクルトをかける……限界までだ。そう、これでもかってぐらいに。
……そして最後は覚悟を決める。大丈夫、これまでも何とかなってきたじゃないかと自分に言い聞かせる。
もしもこれから起こる事に心が押し潰されそうになっていたら自分の心を落ち着かせるため面白い事でも考えてみよう。
「答えは決まったかね?……バル…」
[ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ………]
その夜、ゴーストタウンでは凄まじい地鳴りが起こり地面から新たに巨大な穴が出現したのであった……