第四章 八話 ~老人の頼み~
小説家しばらく歩いた後、老人は俺を自分の家だと言った一件のボロ家に招き入れた。
「うおっ……」
家の中に入った俺は中を見て一瞬たじろいた。
老人の家の中は人形だらけだった。ガラスケースの中から床、棚、果ては天井から糸で吊るされていたり
…そんな人形達が老人が持っているランタンのぼうっとした光の中感情の無い目で見つめている光景を想像して欲しい。
まずビビるだろこれは?
「ほれ、早く入ってこい」
老人に呼ばれ俺はおっかなびっくりといった感じで家の中に入った。
何か踏んだような気がしたのでよく目を凝らして見てみると床に人形の手や足……とにかく色々な部分のパーツが床に所狭しと落ちていた。
……やばい、この爺さんの家も相当なホラーなんだが。パーツが無駄に凝った作りをしているせいでこんな暗がりだとバラバラ死体が床一面に転がってるようで凄い怖い。
「え~と……ここだな、済まないが開けてくれ」
俺は老人に支持され取っ手の付いた床の一部を引っ張り上げると床が開き地下へと続く梯子が現れた。
梯子を伝って下に降りるとそこは上の部屋とは違いダクトや機械類が壁一面に取り付けられている部屋だった。
一気に近代的になったな……もうこの世界の文明の発達レベルが分からなくなってきた…
「まずはこれを見てくれ」
老人はそう言って俺を長方形の厳重に鍵をかけられた棺桶のようなものの前に立たせると
自分のはめていた指輪をその鍵穴に差し込んだ。
すると空気が抜けるプシューという音と共に棺桶がゆっくりと開いた。
「え?これは……」
「どうだ素晴らしいだろう?これが私の最高傑作だ」
中に入っていたのは一人の少女だった。白い肌、薄い水色の髪、そしてフリルのたくさんついた…ゴスロリだっけ?みたいな服を着ていた。
見た感じは眠っているようだが多分昏睡状態なのだろうか?
体には無数のチューブが取り付けられており先程外で見たのと同じ不気味な緑色に光っていた。
「……これってあんたの血縁者か何か?」
「いや違う」
だろうな、だったら最高傑作だなんて作品みたいに言う筈が無い。
「それじゃあホムンクルス?」
「それも違う」
「改造した生命体とか?」
「いやいや」
じゃあなんなんだよ…と言いそうになった時老人が得意げな顔をして口を開いた。
「こいつは人形だ…儂の生涯をかけた最高傑作だよ」
「………な?えぇぇぇ!?」
一瞬間をあけて俺は驚いた声をあげ棺桶で眠る少女と老人を交互に見た。
いやだって驚くよ!?見た目完全に生きてるもんこれ!眠ってる人と見た目変わんないよ!?
「フハハ……まあ驚くのも無理は無い。こんなものを作れるのは儂ぐらいな物だからな!」
そう言って鼻高々といった感じで笑う老人。
俺はあんたの自慢話を聞くために来たんじゃないんだけどなぁ…
「で?自慢話はいいとして用け…」
「こいつはただ美しいだけではないのだぞ?美しく、強くが私のモットーだ。この小さな体には儂が資材と心血を限界まで注ぎ込んだ仕込みが山程組み込まれ…」
「……」
その後、俺は小一時間程老人の自慢話を聞かされ続けた…
「……という訳だ!素晴らしいとは思わないかね?」
「ええ、とても素晴らしいと思います。流石は世界一の人形師ですね!着眼点が違います!」
「そうだろうそうだろう!君は解っとる!」
「……ありがとうございます」
老人の話は殆どが専門用語で解らなかったが主な事は解った。
この爺さんは種族はなんと俺と同じ人間だった。
そしてこの爺さんの願いは自立型…つまり生きている人形を作りたいらしい。
まったくどこのアリス・マーガトロイドだよあんた…
「さて、本題に入るぞ、君にはここの外にいるマナゴースト共の発生の原因である奴を倒してあるものを取って来て欲しい」
「はあ……所でマナゴーストってさっき外に居たあの幽霊の事ですか?」
「ああそうだ……っと、そこのくだりは話していなかったな…」
まだ話が続くんかい!もう長話は止めてくれ!……いや止めて下さい……
「まずあの霧の正体だが…あれはこの大地である世界樹からあふれ出したマナだ」
「マナって?」
「大気中に含まれる魔力の事だ……教わらなかったか?」
「…すいません」
「まあいい……世界樹のマナはある特殊な力を持っていてな、無機物…つまりは生きていないものに命を吹き込む事が出来る。まあ特定の条件が無ければそれは起きないが」
「特定の条件とは?」
「思念が必要なのだよ恨み、悲しみ、歓び等のな。それと依り代だ。布、木、土…何でもいい」
「じゃあマナゴーストは…」
「言うなれば魂の抜け殻のようなものだ。本物の幽霊とは程遠い」
「それじゃあやろうと思えば本物の…思念じゃなくて魂も留まれるんですか?」
「……ああ、そうだ」
無茶苦茶だな世界樹の魔力って…
それでこの人形がまるで生きてるように見えた理由は…って容姿はこの爺さんが作ったって事だから理由の半分はこの爺さんの腕か。
「この町は百年前に突然地面が割れてマナが噴出したんだ…町の人々は逃げ出したが皆逃げる途中で消えたらしい」
「らしい?」
「儂がこの町に来たのはその三十年後だ。この人形を完成させる為にな」
「え?爺さん今何歳!?」
「百はゆうに超えてるな!気合だ気合!目標があればどんな奴でも元気に生きられるもんだ!」
素晴らしい根性論。実際生きてるんだろうから信憑性抜群だな。
「儂はこのマナの噴出と人々の消滅はこの町の一番奥に建っている屋敷が原因だと思っておる。まあ確かめた事は無いがな」
「……」
あの荷車墓場は人々が消えたからあそこに放置されてたのか…でも本当に一体何があったんだろう?
……しかし俺はその問題には首を突っ込まないぞ!絶対にな!
「さて、儂はそのマナを使いこの人形に命を吹き込む事に成功した。そして通常の魔力から世界樹の特殊な魔力に変換する装置も作った……しかし……」
「しかし?」
「肝心なその魔力を貯めておく部分がどうしても完成出来ないのだ!お陰でずっとチューブに繋いで魔力を流し続けなければ止まってしまうのだ」
あ~あれか。車を作ってガソリンから電気に変換して走れるようにしたはいいけどガソリンを貯めておく部分が完成しないって感じか。
そりゃ大変だな。
「そこでだ!君に取って来て欲しい物がある!」
そう言うと老人は古ぼけたこの町の地図を取り出して[入口]と書いてある一角を指さした。
「ここにあるマナの噴出口に潜んでいるマナゴースト共のボスを殺してそいつの核を取って来てほしい」
「はぁ……えっ!?」
「奴の核さえあれば儂の作品は完成するんだ!もうこの年では取りになど行けんのだ!頼む!」
そう言うと爺さんは俺に向かって頭を下げた。
……そこまでされて断るっていうのは……ねぇ?結構長い間話聞いちゃったし。
「……わかったよ爺さん。すぐ戻ってくるから待ってろ」
そう言って俺は爺さんから地図を受け取ると梯子を登…
「待て!そう言えば君は先程炎を使っていたが……あれは魔力に引火する炎なのか?」
「え…まあハイ」
「それはマナの中では絶対に使うんじゃないぞ!」
「え?何でですか?」
「解らんのか?通常の大気中ならまだしも高濃度のマナの中で点火したら…」
「………あ」
そうか、ガスが充満した部屋でマッチを点けるようなもんだ。
使ったらドカン!という訳か。さっきマナゴーストが吹っ飛んだ理由が分かった。
「それさえ気をつければ問題ない!気をつけるんだぞ!」
「ああ解った!行ってくる!」
俺はそう言うと梯子を登りドアを開けて町へと飛び出した。