第四章 七話 ~厄介事は毎度の事~
町から一歩出るとどこまでも続く森、所々付き出すようにそびえ立つような山やそこかしこに点在する崖や盆地……はるか昔にこの巨木がへし折れた名残らしい。
……よくそんな土地にあんなデカい街を作ったもんだ。たくましいね本当に。
「ティール……本当にこっちの方角で大丈夫なんだよな?」
俺は横を向きティールに質問した。ティールは額に汗を浮かべながら、
「済まないけど……分からない」
爽やかにそう答えた……って何だとぉ!
「オイ待ってくれ!お前あの爺さんに頼まれたって事は行き方知ってるって事じゃ無いのか!?」
「知ってるけど……この状況でそれは無いんじゃないか!?」
ティールは声を荒げてそう言った。
ああ……状況、状況ねぇ………
ああ、まず説明しよう、ここも他の地方と変わらずにモンスターが生息している。
察しのいい方々はもうこの時点で大体の予想は付いていると思う。
……今俺達はモンスターに追っかけられてます。もう二時間ぐらいずっと。
それも緑色のゴリラみたいなのが数十体も。何で毎回こうなるかね?盗賊山賊モンスターと毎回毎回……
俺は口笛なんて吹いたりモンスター寄せのスキルやらも持って無いはずだぞ!?
そんなもの吹っ飛ばせばいいって!?ハハッ!もう何十回とやってますよ!
数減らないんだよ!何回吹っ飛ばしてもわらわらと再び集まって追撃してくるんだよ!
「分かってるさ、分かってるよティール!でももう何か理由付けて八つ当たりしないと俺の身が持たないんだよ!」
「そのタイミングを考えてくれよ翔!」
「ウキー!」
あ、一番最後の声は俺じゃ無いぞ?断じて俺はあんな相槌はうたない。後ろに居るゴリラ共の鳴き声だ。俺の1・5倍位の大きさしてるくせに声ばっかり子ザルのようなかわいい鳴き声……
こんなギャップいらねぇよ……どっか別の所でやってくれ!今出すんじゃねぇよ!
「ウキャー!」
「キキィッ!」
「畜生黙りやがれ!」
[ズドゴォォォォン!]
「「「「ウッキャァァァァァ!!!」」」」
俺は後ろに向かってなぎ払うように小型フレアを放ちゴリラ共を吹き飛ばした。
「キィッ!?キィッ!!」
「「「「ウッキィィィィィィィ!!!」」」」
しかし数が多すぎるのとゴリラ共があり得ないほどタフなせいであっという間に復活し再び追いかけて来る。
分かっただろ?埒が明かないんだ。
「……ってあれ?」
気配が付いて来ないのを不審に思い振り向くとてっきり追いかけて来るのかと思ったゴリラ共が群れのボスと思われる一匹を筆頭に俺達に背を向け退散していった。
何なんだ一体?今までのゴリラ共の行動からして俺達に恐れをなすなんて事は欠片も無い筈なんだが…
「なあティール、あれは一体何だと思……ティール?」
俺は同じく横で立ち止まっていたティールに質問する。
が、しかしティールは俺達の進行方向を向いたままピクリとも動かない。
……いや、動いてるな。足がガクガクと震えてる。
不審に思った俺は回れ右をしてティールが見ている方向を見た。
「……?」
何も無い。ただ眼前に広がるのは周りと変わらず突き出した山や凹凸した大地、そして森林だけ……
[ゴゴゴゴゴ……]
「ひょ!?」
と思っていたらいきなり近くにあった木々が生い茂る小山が動き出いた。
そして小山が持ち上がり土煙が舞い上がりガラガラという音を立てて土が小山から崩れ落ちる。
そして土煙の中から四肢が現れ異様な程巨大な生物が姿を現した。
見た感じは……四本足歩行のドラゴン、地竜と言った所だ。体長は言わずもがな、数百メートルは余裕であるだろう。背中に木々が生い茂っている事からこいつは多分小山に擬態していたのだろう。
何と言うか……スケールのデカい擬態だな。
「ヴォォォォォォォォォォォォォォン!!!」
「ぬぉあぁぁぁ!?」
そしてドラゴンはゆっくりとこちらを向き耳をつんざく程の大音量で鳴いた。
あまりもの爆音に脳が直に揺らされているような感覚に陥り体がふらつく。
モンス○ーハンターでよく咆哮食らった自キャラに叱咤していたが訂正する。
……これは下手したら気絶する。お前らよくあんな短時間で復活できるな。
そしてその感覚が落ち着いた俺の視界に飛び込んできたのは……
「え……ちょっ!」
あのドラゴンの巨大な尻尾だった。
[バッシィィィィィン!]
「ほぶぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
逃げられる筈などある訳が無く俺とティールは空高く飛ばされた。
これは新感覚だ。今まで落ちるばっかりだったがまさか打ち上げられるとは……
「ふぅ……」
……え?何でそんなに落ち着いていられるかって?当たり前だろ?俺は何回空中旅行を楽しんだと思ってるんだ?打ち上げられた高さは目測でせいぜい一~二十メートル。落ちたって俺にとっては最早痛いにも入らな……
「あ、あれ……?」
余裕な表情で下を見た俺の視界に映っていた光景は……さっきとは違い地面がはるか下にあった。
不思議に思って視点を俺が飛んできた方向に向けて見ると、案の定高い崖がそびえ立っていた。
……うん、ここが凹凸が激しい場所だって事を忘れてたよ……
そして俺は横を見ると悟ったような顔をしたティールが居た。
あ、ヤバい、あの顔は生きる事を諦めてる顔だ…
「あはは……私の夢と人生はここでお終いかぁ……あの糞ジジイ死んだ後呪い殺してやる…」
「おいティール!死ぬ事を前提で考えるなぁ!」
死んだ目でブツブツと呟いているティールに突っ込みを入れる。
かく言う俺もこんな突っ込みを余裕でしている時点でどこかで諦めているのかもしれない。
「翔……私達はお終いだぁ!このまま地面に叩きつけられて死ぬんだぁ!」
「ティール!諦めるな!希望を持つんだ!」
……所で今思ったんだが何で俺とティール凄い勢いで吹っ飛んでるのに普通に会話でき…
[ドグワシャァァァァァァン!]
何かにぶつかったような感覚が一瞬体に走り俺は意識を失った……
「ぶはぁっ!げほっ!ごほっ!オエッ!!!」
意識を取り戻した俺は綿のような物で上半身を覆われていた…いや、正確にはこの綿のようなものの中に
に突っ込んだのだろう。
そして口の中にもその綿のようなものが詰まっているのに気付くと大急ぎでその綿のようなものから体を引っこ抜くと口から吐き出した。
「……夜か」
俺は既に暗くなっている森を見回してそう呟く。
ちなみに俺が突っ込んだのはボロボロになった荷車だった。荷物に同じくボロボロになった布団のようなぼろきれと綿の塊が山積みになっていた。これに突っ込んだお陰で大した怪我はしていなかった。
……しかし何でこんな所に荷車があるのだろう?しかも一台だけでは無い。薄暗い夜空の星の光に照らされて何十台も同じような荷車が放置されてある事が分かる。さながら荷車の墓地といった感じだ。
何なんだろう?見た感じ簡素な作りだから商隊のもの……って訳ではないだろうし。
とにかく俺が落ちたのがここならティールも近くに落ちている筈……どうか地面とキスをしていない事を願いながら俺はティールの捜索を開始した。
「……あれは?」
暫くティールを捜索するため荷車の荷物をどけたり地面を注視していた俺は森の奥がぼうっ…と黄緑に光っているのを見つけた。
それを不審に思ったのだが好奇心からか吸い寄せられるようにその方向へ歩いて行く。
「!!」
十分程歩いただろうか。途中から道らしきものになり、突然森を抜けたかと思うとそこには町があった。
しかし見た感じでは家々はほぼ朽ちかけておりしかし人の気配は全くしない。しかも町の中から緑色の光を放つ煙が無数に上がっている。
多分あれが俺が森の中で見た光の正体なのだろう。
そしてその家々の奥には煙で緑色に霞んではいるが巨大な屋敷があるのがはっきりと見えた。
……怖ぇよ……これどう見たってゴーストタウンじゃん。
こんな所は早くおさらばだ……うん、そうだ。そうに限る!それに早くティールを見つけないと……
あからさまに不審な明かりの方に向かうなんてバカな事を非常に後悔した俺は回れ右をして荷車墓場の方へ向か……
「ぎゃあぁぁぁぁ……」
……あれ?今人の声が聞こえたぞ?あれ人の声だよな?叫び声だよな?
天の神様は…いや地獄の支配者様は俺にそんなに厄介事に首を突っ込んでほしいのか?
「ち、ちくしょぉぉぉぉぉぉ!」
俺は半泣きになりながらも叫び声がした方向へと突っ込んでいった。
ああ、思い出せ俺、俺は過去に何度も化け物級の奴らと戦って来たじゃないか。あんなチート臭まんまんな奴らなんて早々出てくる訳が無い。そうだ!
それで助けた人から町までの地図を貰って行って、帰って、それでお終い!良し。俺は地図を貰うためにあの叫び声の主を助けに行くんだ!これでこれでいくぞぉぁぁぁ!
「く……糞ぉ!止めんか!まだ貴様らの側に行く訳にはいかんのじゃあ!」
「……」
声の主は……老人でした。
しかもその老人を取り囲んでいるのがアレなんだよ……うん、お爺さんの近くにいると絵になるっていうかだけど生きているものとしてはミスマッチっていう……
うん、回りくどい言い方は止そう。爺さんが見た感じ完全に数体の幽霊の形をしてる奴に襲われてるんだ。半透明の体にそれぞれがシーツのようなもので体を包んでおり頭と手だけが出ていて宙を舞っていた。
それはさながら寿命を迎えたお爺さんが先に死んでいった友人の亡霊と一緒に……
え?何でこんな悠長にしてられるかって?いやそりゃあねぇ……怖いもん。
「お…おいそこの若いの!なにぼさっと見てるんじゃあ!助けようとは思わんのかぁ!」
「ちょ!」
俺の存在に気付いた爺さんが大声で助けを求めて来たせいで幽霊達も一斉に俺の方を向いた。
怖い怖い怖い!目が緑色に光ってる!そんな目で睨むなぁ!
しかしそんな俺の心の叫びを完全に無視して幽霊達は俺に向かって突っ込んで来た。
一…二……全部で六体か。それ程手こずらないかな……
「うぉらぁぁぁ!」
俺は武器を持って来ていなかったのでエクスカリパー(偽)を創り出し最初に突っ込んで来た二体の幽霊に斬りかかった。
「[ザシュッ]ヴォォァァ!!」
「…ア?[グシャァッ!]」
最初の一体は上半身と下半身を真っ二つにしもう一体は頭を叩き潰した。
それぞれが地面に転がると切り口から緑の煙が噴出しただの布切れになった。
……エクスカリパーで倒せるってこいつらどれだけ弱いんだよ。これもしかして素手でいけるんじゃね?
「ノロッテヤルゥゥゥゥゥ!」
「シネェェェェェ!」
「コロスゥゥゥゥ!」
今度は三方向から突っ込んで来た。しかし甘いのだよ!
「せぃっ!」
「「「!!?」」」
俺は渾身の力で空高く(五メートル程)飛び上がる。そして俺がいた地点に幽霊達が到達するのを見計らいそこにエクスカリパーを投げた。
[ズゴォォォォン!]
凄まじい音と共に爆発が起こり一瞬で断末魔を上げる事無く幽霊三体は消し飛んだ。
「[スタッ]フッ…これぐらいの敵[ギュゥゥゥゥ……]ぐぇぇぇ!!」
かっこよく着地してどや顔でもしようと思った刹那幽霊に首を絞められた。
ちょ!苦しいっ!息がっ……って宙浮いてるっ!
「放せ…や……コラァァァァ!」
俺は怒りにまかせて黒炎を後ろに放った。
その瞬間に俺の首を掴んでいた手が解放され俺は地面に転がる。
「ギャァァァ!!![シュゴォォォォ…]」
「え?……」
俺は幽霊の方を見て唖然とした。確かに奴は燃えていたのだが燃え方がヤバい。首と手があった所からまるでガスに火を点けたように黒炎が噴出していた。
そして最後に、
[ズドォォォォン!]
……爆発した。一体何だっていうんだアレは。
「お前さんなかなかやるのぅ……」
「うぉっ!」
いつの間にやら先程幽霊達に襲われていた老人が後ろに立っていた。
「とりあえず例を言うぞ坊主……所で話があるんだがワシの家まで来てくれないか?」
「え?」
「ほら、突っ立ってないで早う来い。またあんなのに襲われるのは御免だからな」
そう言って老人は足早に歩いて行く。
……とりあえず付いて行くとするか。