第一章 八話 ~長い王様の話~
「此処がディアトリア………?」
「ああ、そうだ……正確には入り口だけどな」
「ほぇ~…」
俺は目の前にある光景をポカーンと見ていた。何故なら……
「でけぇ………」
いやぁ、映画やゲームでこの手の城っぽい感じの……城塞で囲われた国は何度か見たことはあるが実際見てみるとなんかこう……スケールっていうか何というか色々違うな、うん。
改めて俺はこういう世界に飛ばされたんだな……って実感するな。まあ隣には既に現実だと認識せざるを得ない面子が立ってるんだけどな。
「まあそうだろうな、ここらじゃ一番デカい国なんだからよ」
「それでも大きさは中の上といった所ですかね……これで驚いてたら田舎者ですよ翔」
「うむ、この程度で驚いていてはな、世界にはこれ以上の所がいくつもあるぞ」
俺の反応を見たアンダル達はそう言ってさも当然のような感じで同じく城壁を見上げた。
う~ん、田舎者か……ってか田舎者以前に俺はこの世界出身じゃないし。
因みに今俺達は国の中に入るため入り口の巨大な扉の前で検閲の順番待ちをしているのだ。
流石にゲームみたくタダでは入れてはもらえないか。
待つ時間が暇だったので俺達は順番が来るまで自由に(あくまで列から出ないように)しているのだ。
俺は前で話しているジェミィとティールの会話に耳を傾けてみた。
「……むぅ、それでもこの辺境の土地にしては金を使ってるな、一体どれだけ金を使ったんだか……」
「まあ確かに、辺境の地であるこの大陸の一国がこれ程立派な物を作るとは正直驚きです」
それでもこの土地では十分珍しい程立派であるらしくジェミィとティールは若干驚いているようだった。
この土地ってそんなに豊かじゃあないのか?そういやそこら辺の情報を俺は全く知らなかったな。
「なあアンダル?この大陸でこの規模のもの作れるって凄いのか?」
「ん?……まあな。元々この国は鉱物なんかの天然資源が少なくてな、主なのは農作や漁業なんだ、果実や野菜なんかは手広く輸出してるらしいが元が元だ……あんまり儲かりゃしねぇ。だからよ……」
アンダルは再び目の前にそびえ立つ巨大な城壁を見上げた。
「……前まではこんな立派なもんじゃ無かったんだがな。この頃になって突然こんなになりやがった」
「突然、ですか?」
「ああそうだ、いきなりこんなご立派な壁が出来上がりやがったんだ」
「……何でですか?」
ティールの質問に険しい顔をしながらアンダルは答えた。
「数週間前まではな……こんな立派な作りじゃ無かった。もっと質素で崩れそうな城壁だったんだよ、ティアリアとの抗争の少し前だったかな、こんな立派な造りになったのは」
「ティアリアとの抗争前……って事は」
「ああそうだ、それで…」
翔の答えにアンダルは頷いて言葉を切る。そして少し前にいるジェミィを見て口を開いた。
「あのお嬢さんみたいな傭兵が集められてるだろ?遂におっ始める気なのさこの国は……」
「え!?ちょっと待ってくれよ……傭兵を集めたのは農民を鎮圧するためだろ?」
「ああ、名目上はな……でもな本当は……」
「おい二人とも何を話しているんだ?さっさと来い!」
「ん……順番だな、行くか」
いいところでジェミィの怒声に言葉が遮られてしまった……いつの間にか順番が来ていたらしくジェミィ達は既に城壁の向こう側へと移動している最中だった。
「それじゃあ俺達も通るか」
「あ、うん……」
そうして俺達は検閲係りの兵士が居る所に歩いて行った。
俺は見た目で簡単に通されたがアンダルは当然のごとく兵士に止められた。
しかしその時兵士に何か耳打ちをした瞬間慌ててアンダルを通した……一体何をいったんだろう。
「…………良く来た皆の者、勇敢なる兵達よ……私がこの国の王、フィグリン五世である」
あの後まっすぐに宮殿へと足を運んだ俺達は即座に玉座の部屋に連れて行かされた。
どうやら王から直々の話があるそうで丁度その時間の少し前に俺達は到着したらしい。
部屋に案内されて数分後、他に集まった傭兵達と共に王の話を聞いていた。
しかしこの王様どうにも覇気というか何というか……風格を感じない。まあ王様と対面なんてした事も無い俺が言うのも難だけどな……
「君達はわが国の発展の………」
「(話長っ!)」
「(さっさと終わらせろこの糞ジジイ…)」
「(シイッ!静かにしろお前ら!)」
「(だってもうどれぐらい話してるよ?足が棒になっちまうぜ)」
「(腹減った…)」
「(どうでもいいから早く終わってくれ!)」
耳を澄ませばそんな声が周りから聞こえてくる、最初は静かに聞いていた傭兵達も集中力が切れてきたらしい。
……既に王が話始めて三十分程が経過しただろうか。
俺の近くは妙に静かだと思って見てみるとアンダルや付いて来たゴブリン達は立ったまま器用に寝ていた。ティールは何やら手帳を取り出して一心不乱に何かを書き込んでいた。王の話を聞いている気配は全く無い。ジェミィはただ静かに話を聞いている……真面目だ。
まるで校長の長話だな……そんな事をぼやっと考えていると俺はふいに自分が学校に行っていた頃を思い出した。
級友たちは俺が居なくなってどう思っているんだろう?親友と呼べる間柄の奴は居なかったがよくつるむ奴らは居たからな、ああ、それと父さんと母さんはハデスが生き返らすって言ってたけど……今頃どうしているかな……多分泣いてるだろうな、だってハデスの言う通りになったとしたら飛行機事故で助から無かったの俺だけだもんな……
「………と、いうわけで出発は明日だ!各自準備を怠らぬよう……」
翔が物思いにふけっている間に王の話は終わっていたらしく、隣に立っていた武官と思われる強面の男と側近と思われるイケメンの……イケメンの男が出撃の話をしていた。
「それでは集合は明日の朝。それまで皆には城下町の宿を貸すので休むといい、それでは……」
「お待ちください陛下、私からも一言……」
「……うむ」
「有難うございます」
そう言うと側近と思われる男性が一歩前に出た。その瞬間言いも知れない緊張感が張り詰め玉座の間が静まり返る……一体何なんだあの男?
「諸君らはこの役目を農民の鎮圧だと思って甘く見ているようだが……油断は禁物だ、僅かな油断が諸君らの命を奪うことになるやもしれない……しかし迅速に、且つ完璧に諸君らが任務を全うしてくれる事を期待する……以上です」
それだけ言うと男はまた一歩下がった……何だ今のは?何というか、一応激励の言葉にはなっているようなのだが俺達の死の宣告のように聞こえたのは気のせいだろうか?
「……それでは解散!」
そう言うと王は玉座から立ち上がり部屋から去って行った。
その後俺達も城の外へ出され宿の場所が書いてある地図を渡された。
「さて、明日までは各自自由行動だな…それじゃあ私は少し自由行動をさせてもらう、お前たちも好きにしろ」
そう言うとジェミィはスタスタとその場を去って行った。
「え!ちょっとジェミィ!!宿の場所分かってるんですか?地図貰ってないでしょう!?……私ジェミィを追いかけてきます!」
そう言ってティールは地図を片手に小走りでジェミィを追いかけて行った。
それを見送ったアンダルと俺はゆっくりと歩きながら城下町に向かって歩いて行った。
「さてと、俺もここで別れさせて貰うぜ……ちょいとやりたい事があるんでな」
そう言ってとアンダルは部下たちを呼び集めてどこかへ行ってしまった。
う~ん、見事に一人ぼっちになってしまった。これからどうするか…
俺は周りにある景色をきょろきょろと見回した。
……とりあえずぶらぶらしてみるか。
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