第三章 三十六話 ~魔神?対魔王~
「おっ、アヴィからか?」
懐に入れてあった魔石が淡い光を発しているのに気付いた俺はそれを手にとった。
「(おいジョニー聞こえるか?よくやったな、これで脱出できるぞ!早く下に下りて来い)」
「ああ分かった」
「(いやそれにしても済まなかった。動力を止めればトラップも止まると思っていたんだが……そっちに向かわせた美雪はどうした?)」
「多分下の階で美雪の量産型三体と交戦中だ。今からそこへ向かう」
「(そうか……私達は橋の手前で待っているから早く来るんだぞ!)」
「分かった」
アヴィとの通信を終えて俺はシロウトの方を向くとシロウトは既に階段を下りる途中だった。
………行動が早いな、俺も早く行かなくては。
「シロウトに遅れる訳には[ブゥン]…!何だ?」
俺も階段の方へと足を運ぼうとした時突如オーラのようなものが俺の上空からドーム状に広がり塔の最上階を覆った。
いやな感じがした俺は急いで階段の方に走って行ったがそこにも結界のようなものが張られていた。
シーヴァで思いっきり斬りつけてみるも傷一つ付かない、
試しに地面も斬りつけてもみたが同じく結界の力で強化してあるらしかった。相当強力な結界だな。
ここから抜け出せない状況にまごついていると地面に魔法陣が現れそこから何かが現れた。
「……嘘だろ」
魔法陣から出てきたのは見てくれはただの人間だった。
……そう、人間。俺は素早く戦闘態勢を取りそいつに向き合う。
魔法陣から出て来たそいつは感情が一切感じられない無表情な顔で俺を見ていた。
こいつは多分、いや確実に魔じ…
そう思った刹那。
「……」
「[ガイィン!]うぉぉっ!?」
少なくとも二十メートルは離れていた筈のそいつは一瞬で間合いを積めて俺の顔に向かって正拳突きを放ってきた。
反射的にシーヴァでガードしたが衝撃が尋常じゃない。
その一撃でバランスを崩した俺に対し相手は続けざまに回し蹴りを放ってくる。
「[ドゴォッ]ぐげぇっ!」
見事に左脇腹にヒットした俺はくの字になって吹っ飛び障壁に激突した。
……確定だ、こいつもう人じゃねぇ。
「く、くそっ!これでも食らえぇ!」
俺は魔段を一気に限界数まで生成すると一気に飛ばした。
その後スカーレットスパークを続けざまに撃ち隕石、ジゴスパーク、最後にメルトン。
俺の全力だ。正直チートだ、全力だ。
「[ズドズドズドズドォン!]………」
「効かねぇのか!?」
……全く効いていなかった。避けるそぶりさえ見せなかったぞアイツ!
まさか……あれが本物のチートと言う存在なのか!?……さすがは魔神。
「……[キュイィィィィン]」
「ん?」
俺の一連の攻撃を受け終わった後あいつは右手を俺の方へ向けてエネルギーを収束し始めた。そして人差し指を俺の方に向けて……
あ、何かヤバい危ガス…
[キュン……ドゴォォォォォォォォン!]
「どぉうわぁぁぁぁ!?」
糸みたいに細い光線を間一髪で避けた次の瞬間後ろで信じられない爆発が起きて俺は空中に投げ出された。
……何あのデスビームの強化版みたいなヤツ!?お前はフリーザか!
「………」
「うぉっ!?やるってか!?ならこっちも本気だぁぁぁ!」
俺は剣を構えると魔法の呪文を唱えた。そう、ナロッジを倒したときのアレだ。
「うぉぉぉピオリムピオリムバイキルトバイキルトバイキルトスクルト[ドゴッ]ポピーーーーーッ!!!」
必死に呪文を唱えていたせいでどこに一撃が来るかを見ていなかった俺は顔面に見事な一撃を食らい結界の天井に叩きつけられた。
こんな時でもネタをやる……この心意気、褒めてくれよ。
スクルトをやったお陰で殴られた所が死ぬほど…厳密に言うと痛さを飛び越えて意識が飛ぶほど痛かったが折れてはいないようだ。相変わらず効果の程が微妙だなスクルト…
「………」
そして天井に叩きつけられた俺にインファイト…つまりはタコ殴りにしてしまおうと突っ込んできた。
しかーし!今の俺にはピオリムが二回かかっているのだ!スピードで言えばウサインボルトで東方の射名丸なメタルキングという訳だ……取りあえず早くて強くなった訳です。
「うおぉぉぉ!」
[ガキガキガキガキィン!]
「………」
しかも俺の行動全てのスピードが上がっている。さらにバイキルトで力も大幅アップしているので衝撃にも耐えられ且つシーヴァがまるで羽のように軽い。
このお陰で攻撃を全て完全ガード出来るようになった。
「落ちろぉぉぉ!」
「[ドゴッ]……!」
俺は攻撃の一瞬の隙を突き魔神の腹に一撃を入れて叩き落とした。
少し遅れて俺も落下し地面に着地した。それと同時に起きあがる魔神、やっぱり無傷か。
……それにしても妙だ。美雪の時は魔法を乱発していた筈なのに本体のこいつはさっきのデスビーム以外魔法らしきものは一切使って無い。
「……」
「……」
再び無言で睨み合う俺と魔神。
「はぁぁぁっ!」
「………」
今度先に動いたのは俺だった。シーヴァを構えて一直線に突っ込む。
「………[ガシッ]」
しかしシーヴァはいとも簡単に魔神に掴まれて止まってしまう。しかしそんなのは想定内。俺はシーヴァから手を離すとそのままのスピードで奴に強力なアッパーをお見舞いした。
両手で剣を止めたため体はがら空きだ。俺の一撃は見事に決まった。
「[ドゴッ]……!」
「まだまだぁ!」
「[ズドゴォッ!]……!!!」
アッパーの威力で少しだけ宙に浮いた魔神の脇腹に全力で回し蹴りを食らわせた………さっきのお返しだコノヤロー。
俺の回し蹴りの威力も中々だったようで結界に激突までとはいかなくともかなり吹き飛んだ。
「………」
「……やられないのは重々承知だけど少しはダメージ受けてもいいんじゃないかなぁ……」
平然と起きあがる魔神に対してグチりながらも俺はシーヴァを拾い上げた。
(ところで主、一つ効きたい事があるのだが)
「ん、何だ」
今まで黙っていたシーヴァが突然話しかけてきた。
(なぜ魔眼を使わないのだ?)
「いや俺の魔眼は攻撃魔法には意味なさないから…」
(モノは試しと言うだろ?やってみろ……な?試すというのは大事な事だ)
「……分かった、一回だけだぞ?」
俺は無理だと知りながらも魔神に向けて魔眼を発動した………すると
[パリィン]
「………ん!?」
何かが魔神の体から砕けて無くなった…
(やはり……最高レベルの強化魔法だな、一度見た事があるからもしやとは思ったが)
「……最初から分かってたなら早く言えよ!今までの俺の苦労何だったの!?」
(まあ全ては経験だ……とにかく奴の力は弱まっている筈だ、さっさとトドメを刺せ)
「ったく……」
俺は強化魔法を失った魔神の前に立つ……
そして俺はシーヴァにありったけの魔力を注ぎ込んだ。
「悪いけど下に仲間が居るんでね、倒させて貰う!」
シーヴァの血の結晶が砕け刀身が露わになる。俺はそのまま魔神に突っ込んだ。
「………[ズビッ]![ドスッ]!![ズシャ]!?[ザスッ]!!!」
魔神は突っ込んでくる俺から逃げようとするが結晶が魔神の周りにまとわりつき一気に切り刻み始めた。あっと言う間に血だらけになる魔神。俺はトドメを刺すべく一気に突っ込んだ。
「………[ドスゥッ!]!!!!!!」
血だらけになりながらも俺の剣を魔神は掴んだ。しかし血だらけの手で剣を持ったせいで剣はそのまま滑り魔神の腹部に深々と突き刺さった。
感情のない顔に一瞬苦悶の表情が浮かび口から血を吐いて力無く倒れた。
「………はぁ、終わった」
俺は倒れている魔神からシーヴァを抜くと階段の方へと向かった。
第三章は後二話ぐらいで終わるかな。