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プロローグ

黒くよどんだ空、殺伐とした大地には山のような亡者がひしめき合っている。

ここは冥界、死者達が集まる場所。

そしてその景色を見下ろすかの様にそびえ立つ城…

冥界の王ハデスの住む城である。


「……ふぅ」


その城の執務室の一番大きな机でこの城の城主であり地獄の統治者でもあるハデスはつまらなそうにため息をつくと気だるそうに首を動かすと外の景色をぼんやりと眺めた。


彼は退屈していた。しかしする事が無い訳ではない、死人は毎日どこかしらで出る為ハデスの元には絶え間無くこの地獄に来た者の身上が書かれた書類が山と積まれている。

つまりは彼は仕事に退屈していたのである。彼は何か面白い事でも起きないかと思いながらこれまた変わり映えの無い景色を見つめていた。


「ハデス様、新しい書類です」

「……ん」


そう言ってハデスの部下の悪魔が書類を持ってきた。

ハデスはその声を聞き今更ながらにこの作業も随分と事務的になったものだと思いながら顔を向ける。


「ん?……何でこんなに数が多いんだ?」


いつもは一回に二~三枚しか送られてこない程度なのだが今ハデスの目の前に置かれたのはゆうに二百枚はあるであろう紙の山だった。


「どうやら飛行機が落ちたようで……」

「落ちた飛行機の国は……日本か。という事はこの紙の山の殆どが日本人か?」

「左様で」

「はぁ、何であの国は信仰が薄いんだ……私の管轄で死んだら仕事が増えるだろーに!……ん?待てよ?」


面倒くさいと言わんばかりのハデスだったが壁に取り付けられているある物を見るとにやりと笑った。


「おい、ちょっと天界に行ってゼウスを呼んで来てくれ」

「……はい?」

「ほら!もたもたしないでさっさと行く!駆け足っ!」

「は……はっ」


書類を持ってきた悪魔が小走りで外に出ていくのをハデスは見送ると机に置かれた書類を調べ始めた。

そしてある一枚の所で手が止まった。その紙をハデスは手に取るとパンパンと手を叩いた。


「誰か!誰か手の空いてる奴はいないか?」

「はい、ここに……」


すぐさま現れた一人の女性の悪魔にハデスは先程の紙を手渡した。


「え?……あの、これは?」

「彼をここに案内しろ、なるべく早く頼む」

「は……はぁ」


不思議そうな顔をして出ていった女性悪魔を見送った後ハデスはほくそ笑んだ。


「退屈を紛らわすには丁度いいな……さて、下準備を始めるか」






それからしばらくして部屋のドアをノックする音が部屋に響いた。


「ハデス様!ゼウス様がお見えになりました!」

「おぉそうか!早く通せ!」


ガチャリとドアが開き白い髭をした老人が入って来た。彼こそが神の中の神、ゼウスである。

ゼウスは鋭い眼光をハデスに向けると無言でハデスの方へと向かった。


「……久しぶりだなハデス、いきなり呼び出して何の用だ」

「はははっ!そんなに機嫌を悪くしないでくれ!とりあえず座って話をしよう」


そう言うとハデスは近くにあった椅子を指差した。

ゼウスは鋭い眼光をハデスに向けたまま近くにあった椅子に座った。

そしてハデスは不敵な笑みを浮かべながらゼウスの正面に置いてある椅子に座った。両者とも喋らずしばらく沈黙が続いたがたまりかねたゼウスが先に口を開いた。


「それで?もう一度聞くが突然呼び出して何の用だ?」

「フフフフ……それはだなゼウス……」


ハデスがパチンと指を鳴らすと何故か天井から一本のロープが落ちてきた。

それを片手でつかむとハデスはこれからさも面白い事をするかのような顔をしてロープを引っ張った。


「これを見て貰おう!」


[パッパラパ~]


ハデスがロープを引っ張ったと同時にファンファーレが鳴り壁に掛けてあった横断幕が落ちると巨大な文字が書かれているメーターのような物が現れた。


「どうだ!これを見て思うことは無いか!!」

「……お前は阿呆か」


目を輝かせているハデスに対しゼウスはというと呆れきった顔をしていた。


「まさかこんなくだらない事をする為だけに呼んだのか?」

「ちっがぁう!メーターを見てみろ!」

「メーター…?」


ゼウスは言われたとおりにメーターを見た。

最早単位など計れないほどの数字の列が全て“9”になっている。


「この文字の羅列が一体何だと言うんだ?」

「これは私が地獄に来た時から刻々と死者の数を数え続けてきた物だ、それが今再び全ての数字がゼロになろうとしているんだ……そしてこのめでたい瞬間にゼウスを呼ぼうと思った訳だ」

「ふむ、それは喜ぶべき事だな」

「すごいだろう!?後一人この冥界へ入ればこのメーターはゼロになる……我々が治める地を決めた時の状態に戻る訳だ」

「……待て、ポセイドンは何故呼ばないんだ?」

「あ……」


いい雰囲気になっていた場に一瞬気まずい沈黙が流れた。


「ま、まぁいいじゃないか!ハハハ…」


少し焦りの色が見える笑い声が部屋に響いた。

流石に虚しいと感じたのかハデスはすぐに笑うのを止めた。


「それで?最後の一人を通してこのイベントは終わりか?」

「フフフ……そんな訳無いじゃないか!聞いて驚くなよ?今回の為に特別なイベントを考えているんだ」


そう言うとハデスはボードを持ち出し、ゼウスの前に突き出した。


「名付けて!“退屈でつまらない人生を全うしてしまった青年にスリリングでちょっとラブコメな二度目の人生をプロジェクト”だ!!」


「…………何だそれは?」


こうして一人の少年の物語が始まる……

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