最終兵器開発後の平和な世界?
世界はいつでも戦争の危機が迫っている。
愚かな人たちは自分だけは権力を持ち、世界を支配したいと画策する。
今日もどこかで人類の命運を握る研究が行われている・・・かも。
軍の中の最高機密会議に、白衣の男たちが呼び出された。
「それであれだけの膨大な研究費を出してきたんだ、いい結果が出てきたと思うが。我が国は最終兵器を求めている。これさえ持っていれば、他国が絶対に我が国に侵略してこない、そして我が国の進軍が容易に進むという最終兵器を。そのためにお前たち、生物学者を集めて研究所を作り、新型ウィルスの研究をさせたのだぞ」
会議室の奥、一番偉い席にふんぞり帰っている大柄の男が威圧するように言った。彼の胸には色とりどりの飾りがついている。もちろんのことアクセサリーではない。勲章だ。
「どう言ったものだ、効果は、感染力は、それは我が国の軍事的優位をもたらすものなのか。今までのようにのらりくらりと逃げようとしてもダメだぞ。ネットを介しての説明じゃわからん。だからここに呼びつけたのだ。今の状況を正直に話さないと、研究費は打ち切りにするぞ。そして研究所から追い出して、2度と研究活動ができなくしてやる」
偉い男の隣の男が喚いた。この男の胸にも色とりどりの飾りはついていたが、数は少ない。
「我々が研究していたのは、ごく普通にあるライノウイルスをベースに遺伝的に操作したものです。」
静かな口調で淡々と話すのは白衣の男たちの真ん中に立っている初老の男だ。
「ライノウイルスは一般に風邪です。その風邪のウィルスの変異種に我々が手を加え、感染力を高めたのもを選抜し、さらに風邪の症状をより激しく出るようにしたウィルスの変異種の株を作ることに成功しました」
「よし、よくやった。それでそのウィルスはどういった症状を出すのだ」
「まず、感染者は最初、無症状です。感染後すぐに感染力は持ちますので、感染者を介して多くの人間がすぐに感染します。今までの株では感染後すぐには感染能力を持たないので、感染者が症状を表してからだと、すぐに感染者を隔離して感染させる機会を逸してしまうので、この感染後すぐに感染力を持つと言うことは、軍事的には非常にポテンシャルがあると思います」
それだけ言うと、中央の白衣の男は咳を連発したので、その脇の白衣の男が説明を続けた。
「感染者は三日後に咳を始めます。それから熱が出ます。激しい腹痛を催します。」
そこまで説明すると、その男も咳をし、真っ赤な顔でふらふらと席に座った。立っているのが辛いと言う感じで。そのため中央の男の反対側の男が説明を続けた。
「このライノウイルスは体内で爆発的な増殖を続けます。今までのウィルスとは桁違いの増殖速度です。そのため体内に爆発的に広がり、こうなると止める手段はありません。一応、ワクチンの研究も進めているのですが、このウィルスにはワクチンは効きません。」
「それは危ないのではないか。作戦に使ったとして、こちらの兵力に死者が出てしまっては元も子もない」
制服組の軍人が眉を顰めた。
「その点は大丈夫です。このウィルスの特徴は咳、発熱、おおよそ37度台、腹痛、下痢、など、死に直結するものではないのです。敵捕虜や、囚人を使った人体実験では、数ヶ月以上、経過観察をしていますが、誰一人として死亡、または重篤な症状になってはいません。ただ虚脱感と、戦闘意識の欠如、競争精神の欠如、攻撃性、暴力性の欠如などが見られますが、それだけです。今のところ、男性と女性では、男性の方が症状が顕著で、女性にはあまり目立った症状が見られないのは、研究すべきことでしょう。今考えられることは、男性のホルモンのテストステロンになんらかの影響を与えているらしいと言うことです。また女性の方に多く見られるある種のホルモンを過剰に発現させ、性格が丸くなり・・・」
「まあ、戦場では女性は少数派だし、それほど問題はないだろう」
軍人の一人が面倒臭そうに説明を遮った。会議室にいる軍人たちはみな男性であった。この国では軍部での女性の登用はあまり進んでいない。
「あ、ちょっと失礼します。今朝から腹の具合が悪くて」
説明していた男性が出て行ったので、その脇の男性が説明を続けた。
「もう一つ、このウィルスに罹ると性衝動がほぼ見られなくなると言うのです。特に加害性の性衝動は全く見られなくなります。不能になるかは今はまだ被験者が完全回復をしていないので、いつ頃になれば寛解するかはよくわかっておりません、ゴホゴホ」
説明していた男が咳で説明が続けられなくなったので、中央の白衣の男が神妙な顔で、その説明をつなげた。
「そして申し訳ないのですが、このウィルスは漏れ出してしまいました。我々全員が感染しました。」
「なんでそんな状態でこっちにきたんだ。俺たちに感染させる気か」
軍人たちは怒鳴った。
「こちらも着たくなかかったのですが、口頭で説明しろと厳命されたので仕方なく。でもこれは絶大な威力を持つ最終兵器です。全ての人が戦闘意識を持たなくなり、平和を希求し、お互いに尊重しあい、穏やかな性格になり、闘争本能も無くなります。地には平和が訪れます。あ、ラボの外にも感染は広まってしまいましたので、多分、数週間のうちに世界中に感染は広がります。」
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