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クマさんに出会った

 拝啓 父上 母上

 私が森に向かってから数刻ほど経ちました。

 無事に到着したのですが、早速私は自然の厳しさを身をもって体験しています。


「グマアァァアアッ!!!」

「……どうしてこうなった!」


 ジーザス!オーファン様、どうかお助けください!


 森に入った瞬間、俺は巨大な熊に見つかった。本で動物の知識はある程度持っていたが、登場したどの熊よりもコイツはデカい!


 あれだよな!俺が戦いたがっていた魔物だろコイツは!俺は現実を見誤っていたらしい!


 走る。走る。走る。

 しかし、一向に距離が開かない。それどころか縮まっている気すらする。


「ブフゥッ!」

「……オゥ、シット」


 気がするどころかすぐ後ろまで来てるんだが!?


 荒い息遣いが聞こえる位置まで近づかれている。これはマズイ、あと少しで頭からバクリだ。


 しかし木々で逃げづらいことこの上ない。熊の方は慣れているのかスラスラと避けながら迫ってくる。


 幸いなことに魔術を使ってこないのが救いだ。身体能力で負けている以上、なんにせよピンチなのに変わりはないが。


「……このままじゃ殺られる」


 迎撃しようにも力負けするのは目に見えている。地の利も向こうにある。


 この窮地を脱するためには……方法はある。だが、これは賭けになりそうだ。


「ブフゥッ!」

「……やるしかないか」


 目の前の木を通り過ぎたところで後ろに振り返り、迫る熊へと突撃する。


 スキル【鉄壁】発動!急に俺が向かってきたことに驚いている熊へと右腕を大きく振りかぶり、鼻へと拳を叩き込んだ。


 熊は猛スピードで走っていたせいで俺の拳が必要以上にめり込み、後ろへと弾き飛ばされる。


 右腕がかなり痛むが、俺は熊の突進を真正面から打ち返しても吹き飛ばなかった。


 どうやら、【スーパーアーマー】のおかげで突進を受けてもそのまま拳を振り抜けたらしい。


 おそらく、このスキルがなければ吹き飛ばされていたのは俺の方だっただろう。


「ゴ…グル……」


 熊は鼻のダメージと、頭への衝撃でフラフラしている。

 今がチャンスなのだが、こちらには右腕があまり動かせない。熊が立ち直れば直ぐにやられてしまうだろう。


 そうなれば、やることは1つ。


 今のうちに逃げる!









 魔物は、初めて獲物を逃した。


 最近この森に来たとはいえ、すぐに森に慣れ、その力で頂点に座していた。


 誰であろうと自分には敵わない。負けるはずはないと常々思っていた。


 最初は貧弱な人間がたった一人でこの森に入ったことに笑いが止まらなかった。


 追いかけて、体力が底をついたところで、ジワジワといたぶりながら殺してやろうと、そう思っていた。


 だが、誰が予想できるだろう。


 魔物はその人間に負けた。人間は微動だにせず、魔物は吹き飛ばされた。


 この巨体を、この重量を眉ひとつ動かさず、拳を振り抜く。魔物にとって、一方的に力負けするなど初めての経験だった。


 敗北者は死に、勝者は生きる。それが自然の摂理だ。死を覚悟しながら、魔物は揺れる頭に耐えかねて意識を手放した。



 目が覚める。

 魔物は生きていた。周囲にはあの人間の姿は無く、しかし未だ残る痛みがあれは夢ではないと物語っている。


 なぜ、あの人間はトドメを刺さなかったのだろうか?


 命を狙った魔物を生かす理由など、あるはずがないというのに。


 そこで、魔物は思いつく。あの人間は、魔物に追われている訳ではなかったのだ。


 ただのお遊びだった。自分より弱い魔物が必死に追いかけてくる姿が面白かったのだろう。

 そして、飽きたから一撃で沈め、立ち去った。もとから殺し合いとも認識されていなかったのだ。


 これ以上の屈辱があるだろうか。いや、無い。これまでこの森の頂点に立っていた魔物は、誇りも自信もボロボロにされ、腸が煮えくり返る程度では済まない怒りを覚えた。



 いいだろう、お前がその気なら俺も考えがある。


 まだ人間の気配を感じる。森にいることは確かだ。ならば、殺し合いをするに足る存在になってやる。


 俺が敵だと認識するまで、俺は絶対に諦めない。



 魔物は、その日に初めて目標を得た。

 強くなるため、他の動物や魔物を狩り始め、仕留めた者の魂に溜まった魔力を吸い上げ己のものとする。



 待っていろよ。いつか、俺はお前に届いてやる。



 その日から、森の命は一匹の魔物によって急激に減り始めた。


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