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5.美男美女と私




 あっという間に新入生歓迎パーティーの日となった。

来てほしくないな、と思うものほど早く来るものだ。


行きたくない私とは裏腹に、メイドのエミリーは「リリアーヌお嬢様をパーティー会場の誰よりも可愛くさせてみせます!」と意気込んでいた。


いつもポニーテールにしているウェーブのかかった白金の長い髪を、今日はおろして髪飾りをつけてもらう。

案の定、兄のフレデリクは濃い青色の礼装を着ていた為、私も濃い青色のドレスを着た。

軽く化粧もしてもらい、自分で言うのもなんだけどまるでお人形みたいだった。おてんば娘とは到底思えない。


…でもこんな姿を見せたいのはたった一人、レオン様だけなのだ。

着飾った私を見て、兄のフレデリクは満面の笑みで「可愛いよ」と言ってくれた。



 パーティー会場は私のように着飾った貴族の子息令嬢で溢れていた。立食パーティーになっていてたくさんの料理が並べられている。


私は兄にエスコートされながら、並べられた料理を眺める。どれも美味しそうで涎が出る。兄はそんな私を呆れた目で見る。


「リリィ、いっぱい食べるのもいいけど…このパーティーで素敵な人を見つける気はあるのかな?」


「…頑張ります」


パーティーは出会いの場だ。全学年合同となれば、まだ婚約者のいない子息令嬢は血眼になって素敵な人を探す。私はそういうギラギラとした視線が大の苦手だ。


また隣で兄の小言を聞きながら、アランとレベッカを探す。

すると、一際目立つカップルを見つけてしまった。周囲の人達もそのカップルを見て憧れの眼差しを向けている。


ーーー私の大好きなレオン様と、その婚約者のアンナ様だ。


アンナ様はオレンジ色の髪を後ろで三つ編みにし、そこに小ぶりなお花のかんざしをいくつかつけて、おしゃれでしつこくない華やかなヘアアレンジをしていた。

そしてオレンジ髪が映える淡い黄色のドレスを見にまとい、レオン様に幸せそうな笑顔を向ける。

その姿は、本当に女神のようで。女の私も魅入ってしまう。


隣に立つレオン様は紺色の礼装を身に纏い、なんといつも下ろしている前髪を、今日はかきあげたようにセットしている…!

いつもは見えないレオン様のおでこが、見えている。

赤茶色の瞳が、いつも以上に煌めいていた。

さらにきっちりとお堅い礼装を着ているのにも関わらず、美しい腰のラインと長い足で色気が倍増している。


ああ、パーティーに参加すればこんな素敵なレオン様が見れるのか…と実感した。


まさに、美男美女。誰も邪魔することを許さない、許されない。

相思相愛の二人は手を取り合って微笑み合いながら楽しそうに何かを話ししている。


 数年ぶりのパーティーで見た以来の華やかな二人に、嫉妬と共に諦めを覚えた。

私には、一生叶わない恋だと思い知らされた。


「リリィ…」


兄が心配そうに私の顔を覗き込む。昔から空気の読める兄だ、私の感じている事もすんなりわかってしまうのだろう。兄の瞳をじっと見つめ、私は口を開いた。


「私、お兄様と結婚したい」


「…何言ってるのさ、無理だよ兄妹だから」


血は繋がってないから良いじゃない、とは言えない。

本当の家族のような無償の愛をバシュレ家から貰っているのだから。



「ふふふ、本当に仲が良いのね」


兄を見つめていた視線を戻すと、目の前には先ほどの美男美女がいた。

女神のようなアンナ様は口元に手を当て、優しい微笑みで私達を見つめて言った。


「リリアーヌちゃん、お久しぶり。昨年フレデリクの誕生日祝いを渡しに行った時に会った以来よね。相変わらず可愛いわ」


よしよし、と私の頭を撫でるアンナ様。

アンナ様には知り合った時から妹のように可愛がられている。こんな私にも、アンナ様はいつも優しくしてくれるのだ。

私はニカッと笑って、アンナ様のされるがままになった。そんな私に、レオン様は優しい眼差しを向けてくる。


…ダメだ、とわかりながらもドキドキは抑えられない。

だがしかしレオン様の次の言葉で、私は目の前が真っ暗になり動けなくなった。



「ドレス、似合っている。これでフレデリクのようにリリアーヌを大事にしてくれる男性に見初められるといいな。妹のように可愛がっているリリアーヌには幸せになってもらいたい」


 そして優しい笑みを私に向けるのだ。


なんて残酷だろう、と思う。でもレオン様は私が五歳の頃から一途に想い続けていることに気づいていない。

私の「好き」も「結婚して」も彼は本気で捉えたことがないのだ。


単純に、私はレオン様の親友の妹。ただそれだけ。


嫌というほど、思い知ってしまった。

私はレオン様を諦めなければいけない。


今日この日から、ついに私はレオン様のことを諦めることに決めた。




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