18.募金活動と私。
「へぇー、それでチャリティー活動ねぇ…」
ーーー学園のエントランスの隅。
個包装にラッピングされたクッキーやマドレーヌ等のお菓子を並べ、募金箱を設置している私に話しかける彼は、目を見開きながら大量のトマトとナスを両手に抱えていた。
エメラルドグリーンの瞳をパチパチと瞬きしながら唖然とした顔で私を見つめる…今日も金髪の癖っ毛が可愛い、私の畑仲間のノエル様。
あの日。レオン様とサンブール街でデートをした翌日から私は募金活動を始めた。
学園に許可を貰い、学園の隅で迷惑にならない程度で行なっている。
募金をしてくれた人達には、お礼に私の手作りのお菓子を渡している。
「見放された土地をどうするのかとは思っていたけれど…バシュレ家もリリアーヌも頑張っているんだね」
にっこりと優しく微笑むノエル様に、私は苦笑する。
「いやー、それが…私の悪評がここで生きてしまったというか…募金してくれる人が全然いなくて…へへっ」
…そうなのだ。十日経ったが、募金をしてくれる人が全然いない。せっかく焼いたお菓子達も全く減らない。
レオン様をアンナ様から奪った、我儘で令嬢らしくない女…それがこの学園での私のイメージらしい。なかなかみんなの視線が厳しい。
親友のレベッカとアランは、初日と二日目に募金をしてくれた。しかもクッキー全てを買い占めるという膨大な額の募金を…。
『私だって見放された土地を何とかしたいよ。だからこうして寄付ができるなら、我が家総出で力になりたい!私はとにかく、リリアーヌの力になりたい!』
『レベッカと同意。これで力になれるなら毎日お菓子を買い占める』
レベッカとアランはそう言い、二日間ですごい額の募金をしてくれた。
そしてこのまま、多額の募金を毎日しそうな勢いだったので、二人には募金活動のお手伝いをして力になってもらうことにした。
三日目は、まさかのエリクがお菓子を買い占めた。
むしろお菓子が足りないくらいの額だった。
エリクはモジモジしながらも、「僕もやれることやるよ。それに、リリアーヌさんの作ったお菓子…嬉しいな」と言ってくれた。とても嬉しかった。
だが、募金をしてくれる人は増えず…。今も募金の宣伝をしに、二人が学園内を練り歩いてくれている。今日も余ったお菓子はレベッカ達に配る形になるだろう。
「なるほどね…リリアーヌは頑張っててえらいなぁ」
「ありがとう、ノエル様」
ノエル様とは一緒に畑のお手入れをするうちに、お互いに砕けた話し方で会話をするようになった。
今では結構仲良しで、採れたての野菜を二人で調理して食べることもある。
きっと今日も採れたての野菜を食べようと誘いに来てくれたのだろう。
「トマトとナスか〜…募金活動が終わったら、パスタにでもしよっか!ノエル様がよければ親友達を呼んでもいい?」
また調理室を借りなくては。
ノエル様と私で畑トークをする横で、よだれを垂らすアラン、そのよだれを呆れた顔で拭くレベッカの姿が想像できて…なんだか笑えてくる。
「いいね、みんなで食べよう。よし、そうと決まれば早く今日の募金活動を終わらせなきゃね。僕も手伝うよ、ちょっと待ってて」
そう言ってノエル様はどこかへ走って行った。
……と思ったら、その数分後に戻ってきた。
大勢の令嬢達を引き連れて。
「ほらみんな、これを見て。見放された土地への募金だって…レオンが一丸となって向き合っている土地問題だね。どうやら見放された土地に住んでる人がいるようだ…その人達のために僕達にできることは何もないのかな…」
ノエル様は切な気に令嬢達に向かって微笑んだ。
令嬢達はノエル様のその表情にウッと胸を打たれている。
「僕は募金するよ、毎日募金する」
そう言って募金箱にお金をいれてくれたので、私は慌ててお礼を言った。
「あ、ありがとうございます…!お礼といっては大したものではありませんが、お好きなお菓子を差し上げておりますので、よければ…」
「へぇ〜!これは美味しそうなお菓子だ…どれ、一ついただこう」
私の言葉に被せる勢いで、ノエル様はお菓子の中からクッキーを選んで食べた。
「とても美味しい。募金をしたらこんなに美味しいお菓子ももらえるのか…誰かの役にも立てて、美味しいお菓子ももらえるなんて、素敵だと思わないかい?レオンのことは僕も応援してるから、みんなも一緒に応援してくれると嬉しいな」
ニコッと営業スマイルで女子の目をハートにさせるノエル様。…そうだった、この人も女子生徒から人気なんだった。
レオン様の名前を出してくれた効果もあるのだろう、おかげで募金は殺到。本日のお菓子達は見事に売り切れた。
そしてノエル様は募金してくれた令嬢一人一人にお礼と握手のサービスも忘れない。
「ここのお菓子は僕のお墨付きだから、もっとたくさんの人に知ってもらいたい。みんなにもまた募金して食べてもらいたいな」
ノエル様はちゃっかりと『次は他の人も連れて来いよ』も忘れない。
いつもふわふわとしているノエル様が、令嬢達を魅了する意外と小悪魔な一面があるということを初めて知った。
令嬢達がいなくなった途端、ノエル様は「さてと!」と満面の笑みで私を見つめる。
「早くみんなでパスタを作って食べよう」
…そして、欲望に忠実なこともわかってクスッと笑ってしまった。
私は改めて、自分には頼もしい友人達がいることを実感した。友人達がいてくれるから、もっともっと頑張ろうと思った。