13.差し入れを持って行く私
視察から帰り、私はレオン様に会いにカバネル侯爵家へ向かった。
手土産には、私の手作りお菓子。
お菓子はクッキー、チョコレート、マドレーヌ…仕事をしながらでも摘めるものを色々作ってみた。
それからレオン様のお父様へのお見舞いのお花も忘れずに、大事に抱えて持ってきた。
突撃訪問になってしまったが、差し入れを渡すだけなのですぐにお暇する。
「リリアーヌ、いらっしゃい」
久しぶりに会ったレオン様は少し痩せていた。侯爵家の仕事や見放された土地の問題に日々追われて疲労困憊なのだろう…。
それでもアポ無しで来た私にいつもと変わらない優しい眼差しを向けてくれるその姿に胸が締めつけられる。
「こちらはレオン様のお父様へ…お見舞いのお花です。体調はいかがですか?」
そっと花束を差し出すと、レオン様は嬉しそうに微笑んだ。
「わざわざありがとう、おかげさまで体調は落ち着いているよ。綺麗な花だ、父も喜ぶよ」
さぁどうぞ、と私を部屋へ案内してくれようとするレオン様に、私は慌てて持っていたバスケットを掲げた。
「レオン様、今日はこちらをお渡ししたらお暇致します…!レオン様に食べてもらいたくて、クッキー等色々焼いてきました!あと、リラックス効果のある茶葉も入っているので就寝前にお飲みください!」
早口で告げると、レオン様の手にバスケットの取手を握らせた。レオン様は目を丸くしたあとにクスッと笑った。
「ありがとう、せっかくだから今から一緒にお茶にしよう。ほら、リリアーヌ入って」
バスケットと花束を器用に片手で持ち、反対の手で私の手を取ってくれるレオン様に胸がキュンとした。でも甘えた心に喝を入れて、レオン様の手をそっと外す。
「レオン様、お気持ちだけいただきます。お疲れでしょうから私はもう帰ります。今日はいきなり来てしまってすみませんでした…ただ、これをお渡ししかっただけなんです」
そう言って視線を落とし、少し痩せたレオン様の手首を見つめた。
私とお茶を飲む時間があるのならば、少しでも食べて寝て欲しい…
どうやら私の気持ちはレオン様に伝わったみたいで、彼は少し困った顔をして微笑んだ。
それからおもむろにバスケットを開け、中に入ったクッキーをひとつ口に入れる。
「…美味しい。とても優しい味だ、ありがとう」
「立ったままお菓子を摘むのは少し行儀が悪いけど、美味しいから食べる手が止まらなくなりそうだ…」と嬉しそうに頰を緩めたレオン様は、また一口摘み食いをする。その姿がとてつもなく可愛かった。
「…大好きです、レオン様」
思わず心の声が漏れた私に、今度は目を細めて楽しそうに笑ってくれた。その顔も可愛くて胸がキュンとする。
「お菓子のお礼がしたい。今度の休日、一緒に出かけないか?」
レオン様のまさかのデートのお誘いに、頬がポポポッと赤くなった。嬉しい、めちゃくちゃ嬉しい。
でも…いいのかな、私とデートしてる暇があるなら少しでも休んで欲しい…と、また先程の思考に切り替わる。
「たまには俺も息抜きがしたい。それにリリアーヌが見放された土地へ視察に行った感想も聞きたい。頼む、リリアーヌ」
…ずるい。そんな言い方をされたら断れない。
あえて私が断れないような言い方をするレオン様は、本当にずるいお方だ。私は観念するしかない。
「…はい、よろしくお願い致します…」
ドキドキしてレオン様の顔が見れずに俯いた。赤くなる頬にそっと手を添えてみたけど、頬の熱は冷めない。
クスクスと笑いだすレオン様の声を聞き、さらに頬の赤みは引きそうにない。
「それから、俺たちは婚約者なんだからこれからは遠慮せずにいつでも遊びにおいで。今日みたいにまた来てくれたら俺は嬉しい」
突撃訪問も迷惑じゃないから気にするな、と遠回しに伝えてくれる優しさに胸がジーンとする。
「今日は本当にありがとう。休日、楽しみにしてる」
いつもするように、私の頭をポンポンと撫でてくれるレオン様。最初に見た疲れた顔ではなく、今は少し明るい顔になった気がする。
クッキーを焼いてきてよかった。
迷惑ではないみたいで、来てよかった。
次の休日は、レオン様に見放された土地の開拓について、私もやれる事があるなら協力したい想いを伝えようと決めた。