12.見放された土地と私
ノエル様と会い、私もレオン様や見放された土地のために何かできることはないか…と考えるようになった。
そこで、父と兄が見放された土地へ視察に行く日に私もついて行くことにした。
ただし、毎回ついて行くと学園を休む日が増えてしまうので、私は三カ月に一度という条件つき。
私の視察初日、残念ながらレオン様は侯爵家の仕事で一緒に行けず…父と兄と数人の従者と、馬車に揺られて現地へ向かった。
見放された土地に到着した私は、言葉を失った。
立っているだけでじんわりと汗が滲む暑さに、樹木の緑も海の青も無い。ただただ一面が荒れ果てた不毛な土地。
「ここが、見放された土地だよ」
兄の言葉で、私は瞳から一筋の涙が落ちた。
想像していたよりも、土地は遥かに酷かった。
土地の一部に頼りないテントが数件立っていて、そこに人が住んでいることがわかる。
テントの近くには小さな湖のような水の溜まり池があり、きっとその水がここの住人の生活源になっているのだろう。
この何も無い土地で、生きている人がいる。
今までそんなことも知らず、何不自由なく平凡に過ごしてきた自分が情けなく感じた。
そんな私に気づいているかのように、兄がそっと背中を撫でてくれる。
「リリィ、この土地は降水量が極端に少なく、水不足のため樹木が育たない。河川を作ろうとしても水が溜まらない。手をかけても何も利益が得られない土地だから、見放された土地と呼ばれているんだけど…」
父が住人のテントの近くにある池を見た。
「あそこにある池は、この土地の住人の生活の源になっている。常に一定の水量を保っていて、枯渇することなく、水質もそこまで悪くないのだが…なぜあそこにだけ水源があるのか、私はずっと気になっていた」
どうやら父のその疑問が、バシュレ家の調査の中で解明されたようだ。
「調査の結果、この池の水は地下水ということがわかった。ここから馬車で二時間の距離にある、丘の上のモンペールという町の方から続いている地下水だ。それが沸き出て池のようになっている」
父に促され顔を上げると、ここから少し遠くに見える丘の上の町が見えた。
家や緑で囲まれた、賑やかな町。視察で滞在する私達も、モンペールで宿泊することになっている。
「見放された土地から一番近い町、モンペール。あそこの土地は樹木も豊かで適度に雨も降る。食料も豊富で、見放された土地とは全く真逆の住みやすい町だ」
私は拳をグッと強く握った。
ここの土地とあまりにも違いすぎて…なんだか悔しい。
「でも、モンペールも見放された土地にも、地面の下には同じ地下水が存在している。これをうまく利用すれば、見放された土地も住みやすくなるはずなんだ」
父の横顔は凛々しかった。自信に満ち溢れていた。
そして兄も少し嬉しそうな顔で語りかける。
「まだまだ課題ばかりだけど、これからは住民の家を建設し、一軒一軒に地下水を汲める井戸を作ろうと計画中なんだよ。幸いにも、ここの土壌は水さえあれば植物の栽培が可能だということも調査をしてわかった。きっと植物の緑も増えるだろう」
ただ…と、今度は困った顔をする。
「あとは建築や井戸開発をしてくれる人材確保と、資金の見直し…それから工事が始まったら住人達には一旦土地から離れて暮らしてもらわなくてはいけなくなると思うから、貧しい住人達を受け入れてくれる転居先の確保…まだまだ課題はたくさんあるんだ」
「莫大な資金がかかる。我がバシュレ家から資金を工面しても到底足りない。ましてやカバネル侯爵家は土地を購入したり前当主の治療費などで大きな出費をしているし…資金をどうするかが今一番の課題かな」
お金のことに関しては私はどうすることもできない。
でも、何か良いアイデアがあるのではないか…と、私も考えることにした。
今まで私は自分勝手に生きてきた。
やりたい事はやるし、淑女になる気なんてなかった。
我が儘に自由に過ごしてきた私なのに、父と兄は一人の人間としてきちんと今の現状を話ししてくれた。
〝私も何かしたい”という、私の意思を尊重してくれた。
私はとことん、バシュレ家に甘やかされている。
「お父様、お兄様…お話ししてくれて、きちんと教えてくれて、本当にありがとうございます」
私は目の前の二人に、深くお辞儀をした。
「みんなで、ひとつずつ頑張っていこう」
そう言って父は優しく微笑んでそっと私を抱きしめてくれた。