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10.売られた喧嘩と私



 バシュレ家から見放された土地までの距離は、馬車移動でおよそ二日ほどかかる。

私はまだ行ったことがないが、父と一緒に兄とレオン様も現地の視察に行くようになった。


その度に兄とレオン様は一週間ほど学園を休む。

二人が学園に居ない間のみ、私は貴族令嬢達の標的となった。


 まず、兄とレオン様がいないことを良いことに、私に聞こえるように悪口を言いまくる。

一番腹が立ったのが「下品で野蛮な猿令嬢」と言われたときだ。それを聞いていたアランは声を出して笑っていた。


 それから、教科書が無くなった。

基本的に教師の話を聞いているだけで授業内容は十分理解できるのであまり不便を感じなかったが、隣の席のエリクが教科書を見せてくれると言うので必要な時は覗かせてもらっている。


 そして、机の中にゴミを入れられる。

移動教室などで自分の机から離れると、その隙にゴミを詰められる。見つけ次第ゴミを捨てれるようにバシュレ家からゴミ袋を持参してテキパキと捨てているが、時々レベッカにゴミの分別がなってないと指摘される。


 成績優秀で容姿端麗なレオン様、おまけに性格も最高に優しく紳士的でかっこいいので、彼の婚約者になりたい人はたくさん居る。


だから私を妬む気持ちはわかる。妬まれても仕方がないと思う。

…でも、それにしてもやる事が幼稚すぎる気がする。



 そんなある日、ついに上級生の令嬢達に呼び出されてしまった。アランとレベッカと離れた一瞬の隙に。


私一人に対して令嬢達が五人。

逃げる気は全く無いが、人目につかない裏庭の校舎の壁に追い詰められ、逃げ道を塞がれている。


「調子に乗らないでくださる?バシュレ伯爵令嬢」


「乗ってません」


「乗ってますわ!レオン様の前ではヘラヘラしているじゃないの!」


「好きな人の前では調子に乗ります」


しれっと答える私に、令嬢達の怒りはピークに達した。


「貴女みたいな野蛮な令嬢、レオン様が好きになるわけないわ!早く婚約解消してくださいませ!」

「貴女なんかよりレオン様とお似合いになる令嬢はたくさん居るわ!」

「レオン様が可哀想!」


ギャンギャンと子犬のように次から次へと吠える令嬢達に、私は目を細める。


「そんなこと言われても婚約は解消しません。というか、ここですんなり〝婚約解消します〟なんて言うわけがないでしょう。本当に婚約解消させたいならもっと頭を使って行動してください」


「な…っ!上級生に向かってその口の聞き方はなんですの!」


「私の口の聞き方を指摘するなら、貴女方も上級生らしい振る舞いをしてください。下級生一人を大勢で囲んで罵倒して、上級生の淑女のやる事ですか?みっともないです」


「お、お黙り!」


一人の令嬢が私の頬を叩いた。パンッ、と乾いた音が響く。

ジンジンと頬が痛んだ。叩かれた頬を少し撫で、目の前の令嬢をギロッと睨む。


「頬を叩けば黙ると思いましたか?黙るわけがないでしょう。先ほども言いましたが、もっと頭を使ってください。力を使って黙らせたいならこうするのです」


そう言って私は、目の前の令嬢の口を片手でガッと掴んだ。私こう見えて、握力強いんです。


「……ッ、ンー!」


口を塞がれて声を出せない令嬢は、私の力の強さに負け、芝生の上に背中から倒れ込んだ。

私は令嬢の口を押さえつけたままなので、そのまま令嬢の上に馬乗りになる。


「どうですか?これが黙らせるということです」


「ンー!ンー!」


「先に手を出したのはそちらです。理不尽に売られた喧嘩を見逃すほど、私は優しくないです。以後、承知の上で私を呼び出してください」


そう言ってニコッと微笑むと、令嬢達はサッと顔を青くした。



「…えーっと、これはどちらを助ければいいのかな?」


校舎の影からひょこっと顔を出す、苦笑いの男性。

怯える令嬢達と、令嬢に馬乗りになってる私を交互に見て首を傾げた。


どうやらこの男性には一部始終を見られていたようだ。


「ノ、ノエル様…!」


男性の名前はノエルというらしい。

さっきまで青い顔をした令嬢達が、今度はほんのりと赤くなった。

背丈は低めだが、少し癖っ毛の金髪でエメラルドグリーンの瞳が印象的な男性だった。


「助けてください!この方…頭がおかしいのです!」


「人を呼び出しておいて、なんですかその言い方!」


私を指差す令嬢に、私もすかさず口を挟む。

一部始終を見ていた彼は、優しく微笑んだ。


「さあさあ、もうおやめなさい。もうすぐお昼の授業が始まるよ。白金の髪の貴女、その手を退かしてあげて」


そう言って彼はそっと私の手を優しく握り、令嬢の口から手を退かす。

口を解放された令嬢はドンッと私を押し退け、涙を流しながら裏庭から立ち去った。それを合図にするかのように、他の令嬢達もバタバタと逃げて行った。


私は地面に尻餅をついて、ポツンとその令嬢達の背中を見送った。






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