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何も変わらぬ明日を生きる  作者: v私立桜咲学園文芸部
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三月二十九日 分岐点

春休みでも週六。

文芸部の活動は週六で、日曜日は絶対休みや。例え降って来る隕石をどうにかせなあかんくても。

 月曜日がしんどく感じるのはわしも先生も、文芸部の子らかって一緒や。


「なんか暖かいから眠いわ」


「先生いつも眠そうやん」


「春やからな」


 嘘や。夏でも秋でも冬でも適当な理由をつけてサボってるだけや。冬の日なんか冬眠とか遭難したとかよー分からんことばっかり言いよって部活来んかった時もあったし。


「まぁええわ。それより手に持っとる紙飛行機はなんや?」


 気怠げにベンチにもたれ掛かる先生。その右手には紙飛行機。見た目は普通の紙飛行機やけど、それを先生が持ってる時点で普通じゃない。


「ただの紙飛行機や?」


「嘘吐くなや。面倒くさがりのお前が作る訳ないやろ」


「飛ばしてみよか?」


 力無く適当に投げた紙飛行機はふわりと高く飛んだ。


「ん?」


 力無く落ちて来る“はず”の紙飛行機。実際は物凄い威力を増して落ちて来た。わしを目掛けて。


「そう簡単に当たってやらん」


 紙飛行機は地面に衝突した跳ね返りで、わしの腰へ刺さった。


「痛ぇ」


 やられる度に段々とリアクションも薄くなって来た。


「ん?」


 引っこ抜こうとした紙飛行機から変な音が聞こえる。なんかシューって音がしてる。ガス漏れ? いや、導火線に火が付いたような……


「俺は既にその紙飛行機に触れている」


「なっ!?」


 爆発した。映画で見る手榴弾ばりの爆発が起きた。わしの腰で。もうわしのこと殺そうとしてもうとるやん。


「自動追尾型爆撃紙飛行機。略して紙飛行機」


「略し方下手くそやんけ」


 わしじゃ無かったら木っ端微塵やった。鍛えてて良かった。じゃなきゃ死んでたもんな。


「たーんと食らえ。おかわりもあるぞ」


「やべっ。やべっ」


 無造作に放たれた三十を超える紙飛行機はふわりと空へ飛んだ。そして例の如くわしを目掛けて流星群のように降って来た。


「クソがっ!!!」


 地面の土を握って、無数に降り注ぐ爆撃機に放り投げた。銃弾を超える速度で放たれた土は次々と紙飛行機を撃ち落とした。


「危ねぇ……もうちょいで刺さるとこやった」


 まぁ一機だけ見落としてて結局刺さったんやけど。


「あ」


 例に漏れず爆発した。この場合はもう回避不可として諦めるほか無い。


「実験としてはボチボチやな。実用出来るようになったら隕石の軌道変えれるんやけど」


「毎回実験体にされるわしが可哀想」


「ホンマにな」


「お前に言うとんじゃアホ」


 そんなわしの声も先生の心には届かなかった模様。白衣の内ポケットから指揮棒を取り出してこっちに向けて来た。


「何それ」


「リモコン。紙飛行機の」


「ほぇ〜ラジコンみたいに動かせるんや。同時に何機ぐらい飛ばせるん?」


「見たら分かるで」


 指揮棒を天高く掲げて素早く振り下ろした。その瞬間、職員室の方から窓が割れる音が聞こえて来た。

 百を余裕で超える数の紙飛行機がさっきより遥かに速い速度で飛んで来た。


「おいおいおい。死ぬでわし」


 何もしなければ死ぬ。何かしなければ死ぬ。何をするかなんて分かりきってる話。

 全てを無かったことにすればええんや。


「せいっ!!!!」


 一昨日先生が使ってた都合の良い薬。昨日の夜に先生の家からパチって来といて良かった。


「あれ?」


「一昨日話したやろ? 確定してる未来は変えられへんて」


 未来を確定することなんか出来へんやろ。もしかして出来るん? やったら何で隕石が落ちて来いひんって未来を確定せえへんねや?


「なぁ」


「隕石は俺が作った訳じゃないからな。自分で作り出したモノしか無理や」


「そうけ」


 無数の紙飛行機が物凄い速さで迫って来る。この薬、思い通りにならんことばっかりやな。なんて薬への文句を考えながら爆発に呑み込まれた。

 ん? でも、さっき先生言うてたよな。上手くいけば隕石の軌道変えれるって。どう言うことや?


「さっきさぁ」


「あぁ、確定した未来が二つある場合矛盾が生じるやろ? 例えば絶対地球に降ってくる隕石と、絶対に隕石が降って来ない地球。そう言う時は分岐点の多い方が勝つんよ。今のところ隕石が降った後の方が確率としての分岐点が多いんよ」


「破片が飛び散ったり爆発で他の星に被害が出たりってこと?」


「そう言うことや。今の人らは代わり映えのしない普通の日常を送り続けとるからな」


「なるほどなぁ」


 上手いこと出来とるなぁ。世の中。

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