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何も変わらぬ明日を生きる  作者: v私立桜咲学園文芸部
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三月二十七日 可能性

「何それ? てか何でそんな笑顔なん? 怖いんやけど?」


 注射器を持って満面の笑みで近付いて来る先生。何回見ても慣れへんし、めちゃくちゃ君が悪い。こう言う場合は実験体にされることが多い。しかもロクなもんじゃない。


「これ、新作やねん。もう言わんでも分かるやろ?」


「ちっ……逃げるが勝ちやっ!!!!」


 いつもいつも訳の分からん薬を注射されるこっちの気持ちを考えて欲しい。

 穏やかに過ごせるはずの昼休みを無駄にするのは嫌やけど、ここで逃げやな面倒臭い事になる。


「おらぁああああああああああっ」


 地面を思い切り蹴って四階建ての校舎の屋上へ逃げた。いや、一瞬間に合わなかった。


「っ!? 痛ぇっ!?」


「決まったな」


 地面が猛スピードで近付いて来る中、ふと先生の方を見ると散弾銃のような物を構えてた。自分の腕には注射器が刺さってる。つまり先生はわしを撃ったんや。


「やってる事人間じゃねえっ!!!!」


 爆音と砂煙と共にわしの体は叩き付けられた。


「お前の耐久値も人間離れし過ぎやけどな」


「……これ何の薬やねん?」


 絶妙に手が届かない背中を痛めつつ薬の効果を確かめる。今のところ体に変化はない。


「超絶美少女になれる薬や」


「あと六本くらい打ってくれ。効き目長めでお願い」


「嘘じゃ」


「じゃあ何やねん」


「身体強化。素の力の九十五倍が出るようになる」


 そんな美味しい話ある訳ない。やったらわしが筋トレしてた意味も無くなるし。


「試して見るか」


「どうやって……おい。こっち来んなや」


 先生に軽くデコピンをした。ほんの軽く、飲みかけのペットボトルが倒れるくらいの強さだったのに。


「おお。強ぇ」


 銃弾よりも速く吹っ飛ぶ先生を見て体感した。一瞬にして校舎の壁を突き破って姿が見えなくなった。場所的には職員室だ。


「あ、言い忘れてたけどそれフラッシュバックあるから」


「どう言う原理か知らんけど何事も無いように話しかけるなや」


 職員室に吹き飛ばされた先生が無傷で話しかけて来た。しかも職員室とは反対方向であるわしの後ろから。


「フラッシュバック?」


「十秒もせん内に自分が放った力の七万倍の威力を喰らう」


「じゃあさ——」


 言い終わるよりも早くわしの右腕が吹き飛んだ。


「もうちょい早く言うて欲しかったなぁ」


「せやな」


 後で治してもらうとして、この力があれば隕石跳ね返せるんじゃね? 解決したやん。


「無理やから」


「まだ何も言うてないやん」


「どうせ、わし一人が犠牲になれば止めれるとか思っとるんやろ? 隕石舐め過ぎ」


「無理なんけ?」


「お前九十五人で世界滅亡防げるとは思わんな」


「それもそやな」


 右腕からは滝のように血が流れ出てるせいで、まともな思考が出来へん。これは決してわしがアホなんじゃなくて、血が足りへんせいやから。


「あれ? カラコン入れてるん?」


「あぁ、薬の副作用で目の色変わってんねん」


 普段は深い青色の瞳が今は深紅の色に染まってる。


「それは何の薬? てか目の色変わるのかっこ良すぎるやろ」


「想像した超能力とかが現実になる薬」


「どうせフラッシュバックとかあるんやろ?」


「いや、無反動」


「アホか、それをわしに打たんかい」


 さっき吹き飛ばした先生が後ろから出てきたのは、そもそも吹き飛ばされたことを無かった事にしたからか。注射器を撃った銃も説明がつく。


「はよ腕治してや」


「忘れとった」


 さっきまでの出来事が何事も無かったように治った。穴の空いた職員室の壁も塞がってる。


「じゃあ今の先生は今のわしより強いんや」


「……やって見るか?」


「やったろ」


 深紅の瞳を輝かせて不敵な笑みを浮かべる先生。生憎やけど負けてやる義理はない。全力でぶっ潰す。




「何で俺が負けんねん」


「相手がわしやから」


 なんか無傷で勝てた。薬の効果も消えてたおかげでフラッシュバックも無いし。

 めちゃくちゃデカい魔法陣から大量の剣とかビームが出て来た時は流石に焦った。著作権とかパクリ的な意味で。


「我が拳こそ至高なり」


「まぁ俺が本気出してなかったんやけどな」


「当たり前やろ。何も無い状態でほぼ互角やのに」


 まぁこの薬があれば隕石もどうにか出来るやろうし。待てよ、出来るやん。


「隕石消してや」


「無理や」


「何でよ」


「決められた運命ってもんがあるんや。どんだけ違う行動をしてても隕石が落ちて来るって言うのは変わらんのや」


 バタフライエフェクトの話で聞いたことがある。無限にあるか可能性でも、どこか一点は絶対交わるって。


「厄介やな」


「ホンマによ」


「じゃあ隕石は壊されへんの?」


「いや、隕石が降って来るのは確定やけど壊せるかどうかは分からん。シュレディンガーの猫状態やな」


 観測されてない以上、そこは別の可能性があるってことか。なら確定や。わしが止めてやればええねん。


「それ聞いて安心した」


「これ聞いて安心するのお前くらいやぞ」


 限りなく低い確率? 違う。一パーセントでも可能性があるんやったら確定でわしの勝ちや。

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