三月二十五日
なんて事ない普通の話
「今年の末に世界滅ぶってよ」
「はぁ? なんやそれ」
先生はたまに突拍子も無いことを言い出す。昼休みに中庭に呼び出されて、何事かと思えばこんなくだらない嘘を吐かれたこっちの身にもなって欲しい。
桜が咲き始めた季節。暖かくなってきて眠くなるのも分かる。そもそも先生はやる気も何も無いから常に脳が停止してるようなもんや。
「なんでわしに言うねん」
「俺とお前の仲やんけ。どう生きるかはお前次第やけどな」
「そんなくだらん嘘吐く暇あったら授業しっかりせえや」
「嘘……やったらええよな」
いつもならほくそ笑んで冗談だって言うのに。落ち込んでるというか諦めた様に呟いた。それだけで先生が嘘を吐いて無いって一目で分かった。
「誰から聞いたんや」
「学会のお偉いさん。話長くて大半聞き流してたけど、そこだけ聞いて来た」
お偉いさんが言うには年末、大晦日の夜に隕石が降ってくるって。一日早いお年玉やなって笑ってるけど、実際笑うことしか出来へん。
てか流石やな。そういう大事な場ではしっかりしてるもんやと思ってたけど、どこ行っても一緒なんやな。
「で? お偉いさんはどう対処するって?」
「お偉いさんが選んだ数人を月のシェルターへ連れて行くんやとさ」
「先生は?」
「俺は辞退した」
「何でや?」
「……お偉いさんと一緒に生きても退屈やろ」
どう生きるかはお前次第……隕石が降ってくるなんて普通の人が聞いたら諦めてまうし、パニックを起こしかねへん。先生かって一人で抱え込むにはあまりにも大き過ぎる問題やからな。
「俺はどうでもええよ」
「口癖やな。それ」
「せやな」
隕石を止められる人が居るなら安心なんやけど。そんな奴居ったっけなぁ? 今まで見た事ないしなぁ。
「なんやお前らしくも無い。悩んどんけ?」
「やかましわ。教師には到底理解出来へん若モンの悩みや」
どうしようも無い問題は一番簡単や。諦める以外に選択肢が無いから。ただ一つだけ難しいのが。
「諦めるって言いたいけど、わしの性に合わん」
「やろうな。やっぱお前見てると退屈せえへんわ」
「世の中には神も仏も悪魔もおるんや。わしが隕石止められるようになっても可笑しく無いやろ」
先生の小馬鹿にしたような笑い声を拳を自分の掌に叩き込んだ音で掻き消した。無理だと笑う奴だって居る。馬鹿だと罵る奴もおる。だから何やねん。わしがやるって言うてんねんから関係あらへん。
これが最初の一歩や。