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只のNPCのようだ  作者: 蜘條ユリイ
8/22

NPCとして初めての采配

 結局、彼らは誰ひとりとして手を抜く事無く【NPCの部屋】を優勝に導いてしまった。


「そこで相談なんだがギブアンドテイクといこうじゃないか。」


 表彰台にはグローさんが行ってくれた。配信された動画を見た限り満面の笑顔で表彰台に立つこと自体は平気みたいでホッとする。規制はされたが周囲には多くの人々が詰めかけていて、私なら卒倒しそう。


 それどころか友人なのか女性たちが表彰台から降りてきた彼を祝福している。ゲーム内でも彼はモテるみたい。女性PCのひとりが祝福のキスを送っている。


 そっとチエコさんを窺うと表情が固まっている。大丈夫なのだろうか。この夫婦。


「何のことです?」


 配信された動画見終わるとタクさんが声を掛けてくる。


「今回のイベントの副賞のギルドハウスのことだよ。1年間管理費は不要だが、その後は月々徴収されるよ。」


 ギルドハウスの管理費はレンタル料同様に毎月ギルドのFC口座から引き落とされるらしい。金額を聞くがとても私には払いきれる金額じゃなかった。


 3ヶ月支払いが滞るとギルドは閉鎖され、引き落とされなかった額はギルドマスターのFC口座から引き落とされる。もちろん足らない部分は課金対象になるようである。


「えっ嘘。」


 頭が真っ白になる。どうすればいいの。そんな額が銀行から引き落とされたら、また親に心配かけてしまう。


「そこで相談なんだが【初めての幻想の演奏家】に売ってくれないか?「ちょっと待って! それなら【水霊の国々】に売って頂戴。」」


 タクさんの話に割り込むようにチエコさんが提案してくる。権利を譲渡することもできるらしい。


「・・・ハアハアやっぱり。酷いよチエコ。一緒に提案しようと言ったじゃないか。」


 そのときギルドハウスの扉が開きグローさんが駆け込んできた。


「あら祝勝会に行ったんじゃ無かったの? 個人成績トップさん。」


 チエコさんの冷たい声に辺りが凍り付く。


「まだ過去のことを気にしてるのかい。言ったじゃないかリアルの俺を知ると皆離れていく。君だけなんだチエコ。傍に居てくれたのは。」


 これは夫婦喧嘩なのだろうか。それとも惚気なのだろうか。どちらにしても居た堪れない雰囲気。できれば他所でやってほしいのだけど。


「あれだけ、とっかえひっかえしておいて。・・・まあいいわ。最後には選んでくれたんだものね。」


 多くの女性と付き合いがあったらしい。女性をモノにすると興味を失う浮気者のようである。


「随分長い蜜月だったんだな。」


 ようやく惚気が終わったと思ったら、まるで夫婦喧嘩を煽るようにタクさんがまぜっかえしてくる。唇の端が上がっているから楽しいらしい。


「そんな甘いものじゃないわよ。いつもゲームのオフ会で知り合った女性を紹介してくれるから初めはこっちに気があるのかと思ったけど、連れてくる女性が皆巨乳揃いなんですもの。豊胸手術を受けようかと思ったわよ。」


 思わずタクさんの顔を見ると視線を外されてしまった。もしかして今の今まで胸を見られていたのか。


「ギルドマスターから100億FCまで出せる約束を取り付けてきた。どうかな?」


 グローさんの目は泳いでいた。話を逸らすように元の話題に戻ってきたらしい。はっきり言ってタダでもいいから譲ってしまいたい。このままでは宝の持ち腐れどころか借金の元になる。


「じゃあウチは110億FC。」「俺は120億FCだ。」


 続けてチエコさんとタクさんからほぼ同時に条件が提示される。グローさんって、おバカというか正直者というか。金額の条件を自由に設定できる2人のギルドマスター相手に手の内を曝け出してどうする。


 まあ次々と付き合っている女性をチエコさんに紹介している時点で正直者なのよね。私なら嫌だけど、そんな正直者。


 大規模イベントのポイント球は持ち回りで全て防衛されたし、ポイントの貢献からするとグローさんがトップでチエコさんタクさんの順である。金額と貢献度からは決められそうにない。


「じゃあ、こうしましょう。各ギルドが持ち回りで管理費を払ってください。個室を利用したいメンバーを紹介してください。ここに居る皆で面接して問題なければ【NPCの部屋】のギルドメンバーにします。」


 個室はギルドメンバー個人に割り当てられるため、部屋にアイテムや装備を保管しておくことが可能で各街の倉庫で保管する経費を減らすことができるのが利点。大手のギルドの場合、初期から居るメンバーに割り当てられてしまい溢れたメンバーに行き渡っていないと聞いたことがある。


 中にはゲームを退会せず休止しているメンバーが占有していることもあり、不公平という声もあるらしい。各ギルドマスターはそれをこの機会に是正したいと思っていたという。


「いいのか? 多くのPCがギルドハウスに出入りすることになるぞ。NPCのロールプレイングしていることがバレる危険性も高くなると思うが・・・。」


 ゲーム内で引き籠ろうとレンタルを始めたギルドハウス。まあ気の抜けるスペースが欲しかったの。


 元々始まりの街の酒場は多くのPCの目に触れることから緊張の連続だけど、最近はリラックスして勤められている。それに本当に休憩したいのならゲームをログアウトして現実世界に戻ればいいだけなのよね。


「大丈夫ですよ。ギルドマスターが誰とはわからないシステムですから、普段はギルドマスター室に引き籠っていることにします。」


 ギルドメンバー同士は誰がギルドに所属しているか解るシステムだけど、ギルドメンバーがギルドマスターに連絡する手段はフレンドメールしか無い。ギルドマスターの個人的知り合いをギルドメンバーにするシステムだから、こんなふうになっているみたい。


「最近はそこまでバレないことに固執してません。バレても、こんなふうに皆さん優しくしてくれるから。・・・おおっギルドマスター室が実装されたみたいですね。行ってみましょうか。」


 ちょっと照れ臭くなった。そのときギルドハウスの内装が大きく変化した。ベッドルームがあった方向にギルドマスター室が実装され、両隣には大小様々な5つの個室が実装されていた。他にも会議室が幾つか実装されたみたいだ。おそらくギルドハウスの隣にはギルドメンバー専用の1万もの個室が実装されているはずである。


 運営からのメールによると扉に取り付けられたインターフォンを押すと内部から一方的に訪ねてきたメンバーの姿が見える仕組みとなっていて、内部で許可を与えない限り入室できないという。


 カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。


「誰だよ。こんなところに5つも冗談トラップを仕掛けたの。」


 誰かが律儀に5つともトラップに掛かってくれた。鈍臭いPCのようで私がSSを撮っていることも気付かないようである。


「なんだ【正義の鉄槌】のミッツじゃないか。」


 タクさんが相手の前に立ちはだかるように出迎える


 この声は・・・まさか。


「貴方が何の用よ。」


 更にチエコさんが私を庇うようにしてくれる。


「そうだ。今大事な相談の最中なんだ。」


 グローさんがチエコさんに寄り添う。彼らの隙間から相手を窺うとやっぱり思った通りの相手だった。


 前の学校の生徒会長。会う度に私を詰ってくるイジメの中心人物と思われる男。どうやらゲーム世界でも同じように正義を唱えているみたい。


「【初めての幻想の演奏家】のタクと【聖なる盾】のグローと【水霊の国々】のチエコお姉さままで・・・やはり、お前たち組んでいたな。不公平だぞ。恥ずかしくないのかっ。」


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