NPCとして初めてのランクイン
「ちょっと待って。イベントの暫定順位が公式から出てるんだけど、どーしてウチの【NPCの部屋】ギルドがトップなのっ。」
私は一発触発だったグローさんとタクさんを両手で制すると公式サイトから流れてきたメッセージに釘付けになった。
「あっ・・・私の所為かも。」
思い掛けない方向から返事が来た。てっきりタクさんが何かしたんだと思ったんだけど。
「チエコさん、どういうことですか?」
PCの解像度では整っているという程度しか解らないが、凄く美人で少し近寄り難いイメージがあるチエコさんが頭を傾けて考え考えといったふうに口を開いた。
「すぐ傍で【水霊の国々】を含む4つの大手ギルドが絡む大規模バトルに発展したんだけど、ギルドメンバーが所持していたイベント球を全て私に預けていたのよね。なのに結果は私を残して相打ちで終わったの。」
プレイヤーバトル対戦で相打ちになった場合は双方のイベント球はロストするという。
「そんなことあるんですか? チエコさんがプレイヤーバトル対戦で負ければギルドの全てのイベント球を奪われてしまうんですよね。」
「うーん。生産特化型だけどギルドマスターとしてメンバーの協力もあって一通り攻略こなしているんだけど、何故かいつも誰もプレイヤーバトル対戦を挑んでこないのよね。」
理由は本人も解らないらしい。
「それはそうでしょう。攻略組のトッププレイヤーと生産組では戦力差が天と地ほど違う。どう考えても一捻りだ。弱いものイジメに近い。後々の批判を考えれば躊躇するのが普通だ。イベントの衆人環視の中、貴女にプレイヤーバトル対戦を挑んだアホはそこのグローくんくらいのものでしょう。」
タクさんが両手を広げ呆れた表情で告げる。運営スタッフにもファンが居るというチエコさんに嫌われたくないPCはプレイヤーバトル対戦を仕掛けてこないらしい。
一種の心理的勝利の方程式が当て嵌まったのかも。でも弱いものイジメが無いのか。いいところだわ。ここなら、おばあさまのことを話しても大丈夫かも。
しかし、何をやっているのグローさん。そんなことをすれば味方は居なくなる。空気が読めない人らしい。
「それで私は気付いたの。生産特化型すぎると。ギルドマスターとしては攻撃力や防衛力や戦略も必要だと。だから時折グローにお願いして戦略について教えて貰っていたのよ。」
リアルでも交流がある2人は仲良くなっていったに違いない。眉毛の件が無くても時間の問題だった・・・いや鈍感そうなグローさんだから無理かな。
「僕の所為でもあるかも・・・。僕ってスピード特化型なんだよね。今日も常に走り回ってギルドメンバーのイベント球を回収する役目を仰せつかっていたよ。だからプレーヤーバトル対戦申し込みは1度も無かった。通りすぎる際には余程タイミングが良くないかぎり無理なんだよね。」
「えっ。大盾使いなのにスピード特化型なんて有りなんですか?」
普通はステータスポイントの大部分を防御力であるVITに割り振り、賢さのINTや器用さのDEXが重要で素早さのAGIなんて僅かだと思っていたんだけどな。
「この男に限っては有りだ。ベータ版参加者に贈られたガチャで多少レア度が上がっていたとはいえ、VITの代わりに他のステータスに防衛力を割り当てられる確率1千万分の1のユニーク装備を引いたらしいんだ。エピソード1の第1回目の大規模イベントで行われたトーナメント対戦では毎回圧倒的大差で勝ったんだったよな。」
「まあね。でも、お前のことだ。同じくらいポイントを稼いだんだろ白状しろよ。」
グローさんの能力も今回のイベントには持って来いのようである。暫定の個人成績は発表されていないが2人ともトップクラスだと思うけど・・・。
「タクさんも・・・ですか?」
ギルドホームを持つギルドはその数3桁と言われている。2つの大手ギルドのイベント球が集中していたとはいえ2人のPCが奪ったイベント球だけで暫定トップに立てるとは思えない。あとはタクさんの分である。
「おいおい。ルールを覚えていないのか。イベント球を奪えば1ポイント、防衛すれば10ポイントで奪ったイベント球×2ポイントのボーナスが加算される。俺は忍び特化なんだ。気付かれずに行動することは容易いので誰にも知られずにギルドメンバーが居るギルドハウスから盗み出してきたのさ。」
あれっ。ギルドホームに居るメンバーは全て倒さなくてはならないルールと言っていたよね。この人。もしかして嘘だったとか。いや相手に認識されなければプレイヤーバトル対戦に発展されないのかも。
「忍び・・・ですか? でもトラップに掛かりましたよね。」
「アレは天敵なんだ。解除出来ない罠なんて誰が作ったんだよ。しかも5つ連続なんて駿足を使ってもジャンプを使っても回避できないじゃないか。」
とても悔しそうなのだが、あの冗談トラップは始まりの街の雑貨屋にあった。しかも店員さんは巨乳だったから、絶対タクさんが関わっているはずである。
「つまり自分の弱点を知られないためにギルドメンバーになったんじゃ・・・。」
「【初めての幻想の演奏家】以外の4つの大手ギルドと12の中堅ギルド、あと個人で設立してログインしていなかったギルドハウスを24。合計40個のイベント球を奪ってきたが2人の個人成績には遠く及ばないだろう。」
図星だったのか無視されてしまった。上位に食い込むであろうギルドのイベント球を根こそぎ奪ってきたらしい。
改めて暫定ランキングを見てみるとイベント球を防衛した【初めての幻想の演奏家】が2位につけており、【水霊の国々】【聖なる盾】が続いている。
「どうするんですか。NPCのロールプレイング中なのに目立ってしまいました。」
悪い予感しかしない。このまま1位で表彰台に引きずり出されてしまえば、一発でPCとバレてしまう。
「悪りぃ。2位にはなるかもと思ったけど、トッププレイヤー2人のポイントが加算されてぶっちぎりのトップになるとは思わなかったんだ。心配するな。優勝してもギルドは有名になるかもしれないがギルドマスターは特定できない。なあグローくん。【聖霊ノ国】の頃、散々逃げ回っていたものなあ。」
2位でも十分に目立つじゃない。全然、悪いとは思っていないっぽい・・・言動からすると確信犯らしい。やっぱり自分の弱点が晒されるのを回避したとしか思えない。
【初めての幻想の演奏家】の他のギルドメンバーが奪ったイベント球分、トップを取れる算段だったみたい。
「あの頃は目立てば目立つほど、待ち伏せされてプレイヤーキルされるので持ち回りでギルドメンバーに表彰台に行かせてました。だから今でも所属するギルドの役職に就かないようにしてるんです。」
「残念だな。今回は君に表彰台に行って貰うことになりそうだ。」
「えっ。えっ・えええっ・・・もしかして僕しか純粋なギルドメンバーが居ない・・・のか。そんなあぁ。」
グローさんが頭を抱え込む。
そういえばタクさんもチエコさんも別のギルドのギルドマスターだ。彼らが行けば優勝ギルドが混同されてしまうだろう。私はPCとバレなきゃ別にそれでもいいのだけど。