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只のNPCのようだ  作者: 蜘條ユリイ
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NPCとして初めての犯罪

「それで今日は何ですか?」


 またタクさんから依頼があった。まだ懲りないらしい。


「怒るな怒るな。頼み事なんだ。黙って引き受けてくれないか。」


 口調は冗談みたいだが、意外にも目は真剣だった。珍しく視線も胸じゃなく(こちら)に向いている。


「拒否権は無いんですか。仕方が無いですね。話を聞きましょう。」


 真剣な頼み事なら仕方が無い。


「街中のアンデッド化したプレイヤーを無作為に【正義の鉄槌】で殺してやってくれないか。時間制約は外しておく。」


 本来なら街中やギルドハウスでのプレイヤーキルはご法度。即座のアカウント削除は無いが過去には警告を食らった例もあったはずである。


 装備の制約は運営側でコントロールできるらしい。まあそうかある種の装備を使って貰っては困るイベントとかありそうだものね。


「大量殺人犯になれと。」


 もちろん警告を何度も繰り返せばアカウント削除もあり得る。そんな行為を運営が依頼してくるなんて、どういうことなんだろう。


「まあそういうことだな。姿形はメイクや衣装やアイテムで誤魔化せるように手配する。」


 タクさんはあっさり肯定する。


「理由を聞く権利はありますよね。」


 話半分で聞き逃すとエライ目に合うのは懲りた。今度はどんな修羅場が待っているか分かったもんじゃないから、正面から向き合う姿勢になる。


「怖いな。」


「冗談を言って誤魔化さないで。」


「ああ・・・今回アンデッド化したプレイヤーのうち5割は元に戻れないんだ。」


「えっ・・・。死に戻れば戻れるんですよね。」


「アンデッド化したPCの再生確率はレベルによって左右される。昔設定した頃は再生確率が100%以上になるレベルのPCは居なかったんだが、今は・・・。」


 つまり5割のプレイヤーは再生確率が100%を超えているということよね。


「バグ。いえ仕様ミスですね。」


「まあそうなんだ。」


「次のアップデートで修正すればいいだけじゃないんですか?」


 問題点は解っているんだから、次のアップデートでその問題点を潰してしまえばいいだけ。良くあることに思える。わざわざPCでもある私に問題点を聞かせることも無いはずである。


「2週間前にアップデートしたばかりだ。ヴァーチャルリアリティー社との取り決めで、2か月間はアップデートできないことになっているんだ。」


 つまり1か月半後にはアップデートできる。


「遅いんですね。」


 聞いた話によるとキャラクター変更して出直しているPCが多くいるそうだ。ゲームをやめてしまう人間も居るに違いない。


「そうだ。すでに影響が出始めている。」


 嫌な流れだ。イジメられた頃に何でもかんでも私の所為にさせられたことがある。学校で何かが無くなったら私が盗んだと言われ、何かが壊れていれば私が壊したと言われた。


 依頼内容には空中庭園を出てはダメだとかPCとしてウロツキ回ってはいけないとかいった説明は無かったが、私が勝手な行動したと他の運営から責められているのかもしれないのよね。


「私が空中庭園から逃げ出したことが原因ですものね。解りました。幻影を見せるアイテムがあったでしょう。あれで空中要塞に居た小ボスを演じることにします。」


 空中要塞で現れた小ボスとはピエロのようにカラフルな模様の小さな女の子で女子高生のような言動で近付いて相手を油断させ、目の前で突然巨大化して相手を食い殺してしまうアンデッドモンスター。


 学校の七不思議のような都市伝説でトイレとかに居そうな救いのないホラー。あれならば今、この街を徘徊していても不思議じゃない。


 確か過去に製作された衣装の中に女子高生のブレザーに似たものがあったはず、あれを着て街中で徘徊し突然巨大化と共に【正義の鉄槌】を発動すれば相手のPCを確実に死に戻らせることが出来る。


「悪いな。」


 タクさんは酷く落ち込んでいるみたい。だけど私が逃げ出したことが原因としても対策されていなかったとは思えないんだけど。


「そもそも何でこんなに多くのPCがアンデッド化したんですか?」


 グローさんに聞いた話では過去のクエストでも同じようにアンデッド化した例もあったそうだけど、極々特殊な条件の事例だったそう。


「あの要塞の迷路は大ボスを倒さないかぎり頻繁に変化するんだ。魔法陣から1番遠い位置に居た君を攫ったパーティーはまず無事に魔法陣に戻ることが出来ない。今回は偶然迷路と魔法陣が上手く嚙み合ってしまい、君たちのパーティーが1番に出て行ってしまったがな。」


 なるほど、ここでもステータスが全てゼロなのが最短で魔法陣に行くという幸運を招いたらしい。しかもチヒロくんのように魔法陣の近くに居続けるパーティーが居たことも想定外なんだろうね。


 大ボスにたどり着いたパーティーが居たタイミングで一番最後部のパーティーも空中要塞を数時間彷徨っているはずだし、最後部のパーティーが魔法陣にたどり着けば、程無く他のパーティーも魔法陣にたどり着く計算だったのかもしれない。


「問題がひとつあります。私がこの街を出て他の街に行けないことです。」


 未だにチュートリアルを行っていない私は他の街に行ける旅券を持っていないのよね。ステータスポイントゼロの恩恵を受け続けている私はチュートリアルするためにステータスポイントを割り振るのは避けたいんだけどなあ。


「何処へでも出入りできる旅券を用意しよう。」


 アイテムを取得したアナウンスが流れる。用意してあったらしい。


 旅券はクエストを一つ一つクリアする度に貰えるもので売り買いできるアイテムではないのだけど、アイテムには違いないから運営が提供することをできるようである。


「それでは。このワールド中全て私ひとりで回れと?」


 始まりの街は一つだけど、他の街はサーバーによって何層にも分かれている。コンシューマー機専用などプラットフォームごとの専用の街もある。これらの街を全て回り、アンデッド化したPCを探し出して殺そうというのは無理があると思うんだけど。


「そうだな。それは無理か。どうしたらいい?」


 タクさんも理解したらしく。素直に質問で返してくる。解決策が思い至らないらしい。


「同じように行動してくれる運営PCは居ないんですか?」


 タクさんのようにPCとして動いている運営も居るに違いない。その方々を全て動員して貰えばなんとかなりそうと思うんだけど。それなら私に相談することも無い。独自に運営だけで動けばいいだけ。おそらく無理なんだろうね。


「運営は・・・瑕疵の無いプレイヤーに対して一方的に損害を与えてはいけないことになっている。君たちのときもグローの件はヴァーチャルリアリティー社へ証拠を揃えて提出して許可を得ている。プレイヤーを失うかもしれないという我が社の都合で動ける問題じゃなくなっている。君にしか頼めないんだ。」


 想定通りの回答が返ってきた。ヴァーチャルリアリティーは厳格に運営されているらしい。


「では噂を流しましょう。始まりの街で徘徊しているモンスターに出会えば、確実に死に戻ってくることが出来ると。私も知り合いに噂を流して貰うように頼んでみます。」


 実はチヒロくんやチエコさんといったギルドマスターが何か解決策が無いか聞き出して欲しいと運営に伝手がある私に頼んでいたのである。実際に2・3の事例が発生してから、それとなく教えれば一気に噂が広まるに違いない。


「なるほど。それならばこちらも動ける。宜しく頼む。」


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