NPCとして初めてのソロイベント
またしてもイベントの告知があった。
今度は告知内容を良く読むとバトルロワイヤルだった。しかも全員強制参加だという。イベント専用のマップ領域に強制的に転送されて戦わなくてはいけないらしい。
「えっ。【Mの鎧】を装着してくれるの。もちろん持ってくるよ。」
父親に心配を掛けるから、ログインしないという選択肢は塞がれている。従ってNPC【酒場の少女】がPCとバレないように顔を隠す必要に迫られたのである。
まさか生産系PCに依頼するわけにもいかない。タクさんにはあまりにもエッチな装備だったから捨てたと言ってあるけど、実際には溶けたままなので着れないのである。
ギルドマスター室でタクさんがいそいそと持ってきた【Mの鎧】のマスクと鎧を装着し、マントを羽織る。
【正義の盾】にショップ売りの【大楯Ⅸ】と同じ柄を描き込んだ。若干色合いが違う気がするが分からないと思う。
「どう似合ってます?」
【Mの鎧】を貰い受ける条件は装着して見せること。もちろんスライムを呼び出さないことは厳命させている。
「もちろんだよ。でもマントが邪魔だなあ。・・・おおっ。」
すすすっと近寄ってきたタクさんがマントを捲ってしまう。素早い。
そういえばこの人、忍び特化だった。まあ見られたからと言って減るもんじゃ・・・。
だけどいつまでも見続けているタクさんに心が折れそうになった私は【正義の鉄槌】を取り出して殴ってみるとキラキラとエフェクトを残して消えた。いまごろ12時間の戦闘不能状態に陥っているはずである。
1時間後にはイベントが開始される。戦闘不能状態から解放されるころにはイベントが終わっているに違いない。
「さて何処に隠れていようかな。・・・何よ。見通し良すぎでしょ。」
強制転送された先は『回』の字のマップになっており隠れるところが全く無かった。仕方が無い戦うしか無いようである。
【堕天使の羽】で少し飛び上がりマップの幅ギリギリまで【正義の盾】を広げる。そして【堕天使の羽】を使い超低空飛行で真っ直ぐ進み始める。飛んでいることがバレないように足を動かす。
翼竜並みと思われるトップスピードを維持しながら突進していく。
「なんだなんだ。」
始めはPCがぶつかるばかりだったが相手からみても見通しが良くタイミングを合わせて武器を振り下ろすPCが増えたのか途中からはキラキラしたエフェクトが後ろに流れていく。
『【シールドプレス】スキルを得ました』
30分ほど進んだところでスキル取得のアナウンスが流れた。このスキルの取得を待っていたのである。纏めサイトの記載では所持する盾と接触するだけで相手に1ダメージを与えるというものだった。
あとは流れ作業である。1ダメージが無限大のダメージとなって相手に襲い掛かる。かろうじて下に避けるPCも居たが所持する武器が盾に当たってしまい攻撃力の100倍×無限大のダメージとなっている。
1時間ほどでマップの端まで到着すると1度【正義の盾】を小さくして90度方向転換する。
その時、グローさんと視線が合わさる。慌てて【正義の盾】を大きくするが遅かった。【堕天使の羽】のトップスピードを凌駕するスピードでスライディングタックルをかましてこられたのである。
「その胸は・・・。」
マントが翻り、下の鎧を見たグローさんに1発でバレた。
「ごめんね。」
流石はスピード特化と思ったのに硬直している。そのままグローさんに向けて【正義の鉄槌】を取り出して当てるとこちらもキラキラとエフェクトを残して消えた。
流れ作業の続きを行う。
おかしい。キラキラとしたエフェクトが少ない気がする。
【正義の盾】をやや小さくして上から覗いてみると多くのPCたちがマップの端を曲がるところだった。パニックを起こしたPCが逃げ惑う姿がみられたのである。
【堕天使の羽】のスピードを上げてみる。やっぱり【正義の盾】の大きさによる空気の抵抗でトップスピードが落ちていたようである。そこでギリギリ自分の姿が隠れる大きさに【正義の盾】を調整すると【堕天使の羽】のスピードが上がり、PCたちに追いつくことができたのである。
やや打ち漏らしもあったけど端まで到達した私は再び90度方向転換を行う。今度は角に身を寄せている女性PCの姿が見えた。チエコさんだ。なるほど賢い。
どちらにしても後退はできない私は前進あるのみ。今度は少しだけ左右に振りながらトップスピードを維持しながら前進していくと打ち漏らしも減ってきたように思われた。
1周回ったところで今度は180度方向転換する。少しだけ視界に入ったPCたちとの距離は結構あったが構わず【正義の盾】を通路幅まで広げて、今度は打ち漏らしの無いように前進していく。
走り回って疲れ果てたPCたちが座り込み、【正義の盾】と接触する度、キラキラとしたエフェクトとなって消えていった。もう1度端に到着し、90度方向転換を行い、しばらく進んでいくと6時間あったイベント時間の終了の鐘が鳴り響いたのだった。
「あのときの金鎚は【正義の鉄槌】だよな。何処で入手したんだ?」
後日酒場に来たグローさんは何か言いたげだったけど。その後に来たタクさんにはツッコまれた。
「落ちてたの。」
この答えは予め用意してあった。たとえ『自爆テロ』アイテムで翼竜を倒したとしても使った本人は死に戻っているはず・・・普通は。その後ドロップしたとすると・・・この答えで合っているはずである。
「あのとき拡張エリアに入ってたのか?」
心配そうな顔になったタクさんに少しだけ心が痛んだ。本当のことを話したほうがいいんじゃないかなと思ったけどついつい嘘を重ねてしまう。
「ううん。ギルドの前の森がいきなり破壊されたから怪我人が居ないか見に行ったんだけど。やっぱりこれって【正義の鉄槌】だよね。返したほうがいい?」
私専用になっているギルドの倉庫に保管できることは確認しているから、手渡すことは可能だけど譲られた相手が使えないのであれば飾っておくしかできないと思う。
「いや死に戻って所有権が放棄された装備は拾ったPCのモノになる。それに【正義の鉄槌】はユニーク装備だから譲れない仕様になっているはずだ。」
流石は運営スタッフさんだ。細かい仕様まで覚えているらしい。
「へえそうなんだ。あんな強制参加のイベントが無ければ、タクさんへのオシオキ限定で使いますね。」
「いや・・・それは・・・あの・・・ゴメン。もうしないので勘弁してください。」




