アンチオーバーフロー
少し重ためですが、読んで下さると幸いです。
彼らのそんな態度に、ヘルは失望感を露わにし、溜め息をついた。
「結局そうなるのね。よくわかったわ。天国の実情が。ここまで耳を傾けてくれないなんて、はっきり言って失望した。どうやら、私達のことを本当にわかってくれるのは、神様しかいないみたいね。なら……あなた達には死んでもらう。私の絶望でね」
そう言ってヘルは、これまでに味わった絶望を糧にして、光の抗力を高めた。
光の抗力とは、負の感情を中和し心を鎮める効果のある光の力である。
これは、天使や神なら誰しも持っている力で、これがあるおかげで天使達は切り替えが早く、邪念にとらわれないのだが、稀にこれが生まれつき強い者がいる。
抗力が強い者は負の感情を抱くと、必要以上の抗力でそれを打ち消そうとする。抗力は言わば心の抗体のようなもので、抗体で同じようなことが起これば、当然、アレルギーが発症する。
つまり、怒りや悲しみが強ければ強いほど、抗力は過剰に発生する。そして、行き場を失った抗力は、自身も傷つけるヘヴンスのチャージ4の連続暴発などといった形で放出される。
この説明から察すると思うが、ヘルもそんな抗力が強い者の1人である。
普通なら、いつヘヴンスの暴発が起こってもおかしくはなかったが、ヘルはこの時、光の抗力を暴発させずにコントロールし、身体能力強化に転用した。
これは本来、抗力の強い者が歳月をかけてやっとできるものなのだが、それをヘルはぶっつけ本番で成功させたのだ。
その膨大な力と威圧感のまえに、天使も魔族もたじろいだが、天国の者達はそんな強大な力を得た彼女を罵倒した。
というのも、光の抗力を1つの才能や資質と認められるようになったのは、日本が奈良時代だった頃からの話で、当時は、認められないどころか、負の感情によって発動することから邪道とされ、忌み嫌われていた。
だが、そんな罵倒も今のヘルにとってはどうでもいい。
「……言いたいことはそれだけ? なら、死んで」
冷酷な言葉を吐いて間もなく、ヘルはものすごい速度で周囲の者達を片っ端から虫けらのように殺していった。
絶望と殺戮衝動で戦闘狂になってしまった彼女は、心の赴くまま命を奪っていき、周囲にいた魔族全員と天使達は半数が全滅。残った半数の天使は恐怖のあまり、戦意喪失した。
天使が光の抗力を持っているように、魔族も闇の抗力を持っており、魔族にも同様に抗力が強い者がいます。