急転
少し重ためですが、読んで下さると幸いです。
戦況は10億年続いたこれまでの戦い同様、拮抗していた。魔界は魔族を生け贄に生み出した闘争本能のみの存在・強化悪魔を中心とした力押し戦法で、天国はヘラやオーディンらの指揮による統率力と軍略を駆使した兵法で戦っていた。
両者の戦争が熾烈をきわめる中、ロキ達は奮戦し、ヘルはヨルムンガンドのサポートに徹していた。全ては兄を支え、一刻も早く平和を取り戻し、幸せな日々を送るために……。
が、そんなヘルの想いは、突然空に走った光と、轟音によって砕け散ってしまう。
「うっ……。いったい何が?」
ヘルを始め、戦場にいた誰もが事態を把握できずにいると、オーディンの神使が信じられない内容を伝令した。
「総員に連絡! 破壊神・ロキとその息子フェンリルが謀反! ロキが放ったラグナロクによって、こちらの被害は甚大!大至急応援に来られたし!」
伝令から語られた衝撃の出来事に、天使や神達は動揺した。それはロキが裏切ったのもそうだが、彼がラグナロクを放ったことによるものが、一番大きかった。
ラグナロクとは、ラグナとロクという2つのエネルギー弾を混合する事によって放つ、世界を消滅させるほどの力を持つ特大エネルギー弾である。
実はロキは野心家であり、自分と考え方が近いフェンリルと共に、この戦争に便乗して、ラグナロクで世界を一度破壊し、自身が新世界の神になろうと画策していた。
しかし、過ぎた野望は身を滅ぼす。それは彼も例外ではなかった。
「なお、ロキが放ったラグナロクは、神様によって消滅。大罪人ロキもすでに討ちとられ、残すはフェンリルのみ。ですが抵抗が激しく、こちらでは対処しきれません! 急ぎ救援を!」
その連絡を受けた天国の者達は士気を高めたが、家族の謀反と死を同時に知らされたヘルとヨルムンガンドは言葉を失った。
それもそうだ。子供とはいえ自分とは性格や思考が違う者に己の野心を話すのは、リスクでしかない。故に、2人はロキから何も聞かされておらず、そのショックからこうなるのも無理もなかった。
だが、2人に落ち込んでいるヒマなどなかった。友人の謀反に嘆くも、すぐに自身の感情を殺した男によって、非情な審判が下されようとしていたからである。
「……皆、聞いたな?」
「は、はい。ですが、オーディン様……」
「情けは無用! ロキの血を引く者、ロキに与していた者を1人残らず捕縛せよ! 刃向かう者は殺しても構わん!」
オーディンからの命令を受け、天使や神達は魔族の相手をしつつ、ヘル達を敵とみなして捕縛に向かった。
天使達が動き出したのを見て、2人に残酷な現実を突きつけたオーディンは、
(……さらばだ、友よ。そして、すまん。フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルちゃん)
と、心の中で友人の子供達に今生の別れを告げた。
北欧神話などでは主神として描かれることが多いオーディンですが、ここでは、この役職に就いています。