三途の川の言い伝え
少し重ためですが、読んで下さると幸いです。
階級制度が実施されてから18年後、35歳になったヘルは、母として3人の子供を育てながらも、魔神王として忙しくも充実した毎日を過ごしていた。
彼女が作った例の制度によって、あれから魔界も大きく変わった。
明確な上下関係ができたことで、無理に下克上を企てなくなり、無駄死にする者が減った。
それだけではない。アンラ・マンユ達4人の魔神や魔王らによる指導によって、今までバラバラだった魔族達が、小隊を組んで戦えるまでになったのだ。ヘルが来た頃と比べると大きな進歩である。
そんな変化を彼女は誰よりも望み、誰よりも喜んでいた。
だが、楽しい日々はいつかは終わるもの。その時はすぐ側まで近付いていた。
ある日、ヘルは政務の合間を縫って、かつて住まわせてもらっていた羅王の家を訪ねていた。結婚してから来ていないので、19年振りである。
が、それだけの年月を経ても、庭が極端に広くなっただけで、彼の家はあの頃と全く変わっていなかった。
その家の中に残念ながら彼はいなかったが、ヘルは羅王がどこにいるのかわかっている。
家の裏にある三途の川のほとり。そこに29歳になり、立派に成長した羅王がいた。
彼は23歳の時にその献身的な姿勢を評価されて、非力ながらも魔王兼技術長に抜擢されるという大出世を遂げた。そんな今でも、彼は昔と変わらずヘルとアバドンに尽くし続けている。
「羅王君、隣りいい?」
声をかけられた羅王が頷くと、ヘルは彼の隣りに車椅子を止め、一緒に川を眺めた。
「……綺麗ね」
ヘルの心からの呟きに、羅王は肯定した。
「昔からよく来てたみたいだけど、お気に入りの場所なの?」
「ええ。景色もいいですし、何より……ここに来ると自分と向き合えて、慢心しなくなりますから」
羅王のその言葉に、ヘルは少し不思議に思う。
「どういうこと? あぁ、川が果てしなく広いから、ちっぽな自分を見つめ直せるってこと?」
「それもですけど、もう1つあるんです」
そう言うと羅王は、一族に代々伝わる言い伝えを語り出した。
その言い伝えとは、三途の川の向こう岸には、羅王の家の庭とは比べ物にならないぐらい綺麗な花畑があり、地上の霊魂達がそこを通って、この川を渡ってくるというものであった。
それを言い終えると、羅王はクスッと笑った。
「おかしな話ですよね? だって今、地上に生き物なんていないのに、何が渡ってくるんだって話ですよ。けど、それがもし本当なら、僕や僕の子孫達にしかできないことがあるかもしれない。そのためには慢心せず、自分を磨き続けなければならない。ここは、そういうことを教えてくれる大切な場所なんです」
それを聞いたヘルは納得し、同時に悟った。羅王の一族は、初代神様の意志によって生まれた一族であり、今後の魔界にとって必要不可欠な存在だと。
「……ねぇ、羅王君」
「はい?」
「そういえば、羅王君には名字が無かったよね?」
そう尋ねるヘルには、ある考えがあった。
最終章突入しました。魔界を改革したヘルの物語の終焉。最後まで見届けて下さい。




