『国の母』
少し重ためですが、読んで下さると幸いです。
それでも彼女は態度を崩さなかった。
「したければどうぞ。それでも私は、死ぬその瞬間まで階級制度の、団結の必要性を訴え続ける。それぐらいこの制度は、魔界の未来にとって必要なものなの」
「どういうこった?」
「私の考えが正しければ、いつの日かもう一度天国と戦う時が来る。そんな時に同族同士の縄張り争いなんかで、味方を減らしていたら、いえ、それ以前に1つにまとまっていなかったら、今度は痛み分けじゃ済まない。確実に負ける。そのせいで苦しむみんなを、私は見たくないの」
怒鳴っても、威圧しても、殺すと脅しても己の意志を貫き通すヘル。そこにはもう、かつての人生を諦観していた頃の彼女はいなかった。
そんな毅然とした妻の変化を至近距離で感じ取ったアバドンは、彼女の心の強さにとうとう折れた。
「……けっ。俺も大概だが、おめぇは俺以上の頑固者だな……けど、一理あるか。強い者同士が結託したら最強だし、何より俺達魔族の最終目標は、全世界の統治だ。そのためなら、やれるだけのことはやった方が良さそうだな」
その言葉にヘルは受け入れてくれたと思い、表情がぱっと明るくなった。
「だが、わかってんのか? 戦闘民族である魔族にそれを理解させんのは、骨が折れるぞ」
「わかってる。茨の道だって。けど、それでも成し遂げてみせる」
ヘルの覚悟に満ちた言葉に、アバドンは嬉しそうに、
「言うねぇ。惚れ直したぜ」
と、言って微笑み、ヘルもそれにつられて笑った。魔界の歴史が動いた記念すべき瞬間である。
翌日からヘルは、新制度実施を魔界中に宣言し、魔神と魔王に相応しい魔族の調査と査定を始めた。
当初こそ誹謗中傷を受けたヘルだったが、実力者に見合った階級が与えられ始めると、徐々に評判が良くなり、それによって、打算で同盟を結んでいた者達は、そういうのを抜きにして、協力してくれるようになった。
また、彼女の功績を評価したアンラ・マンユ率いるアンラ派が同盟を結んだことで、他の敵対勢力も傘下に降り、実施から1年が経過し、魔族に受け入れられるようになった頃には、アバドンの領地が同盟相手のものと合わせて、魔界のほとんどを占めるようになった。
こうして、魔界に階級制度を導入して内乱を激減させたヘルは、魔界の制度の基礎を作った功績を讃えられ、『国の母』と呼ばれるようになり、魔界の別名に彼女の名が付くことになった。
その名を人はこう言うだろう。
ヘル。もしくは、ヘルヘイムと………………
セリフも何も無いアンラ・マンユですが、その実力はすごく、冬と悪意と毒と病の力を持っており、相手を弱らせてから仕留めるという戦法をとります。
また、第22部分『カルチャーショック』でも紹介した通り長命者で、46億年近く生きました。




