兄達の現在
少し重ためですが、読んで下さると幸いです。
しばらく沈黙が続いていたが、ヘルはふと、先日、自分のろに来たフェンリルのことを思い出し、その時のことをオーディンに語った。
フェンリルは終戦後も追っ手から逃れていたが、業を煮やした初代神様によって狼の姿に変えられ、力を失ってしまったらしい。
それでも父と夢見た野望をいまだに諦めておらず、ヘルのところに来た時には『いつか力をつけて同志を募り、天国を転覆させてやる』と、豪語していた。
「あいつらしいな。だが、そうなれば天国も黙ってはいまい。事を起こした途端、必ず阻止され、今度こそ殺されるだろう」
オーディンのその言葉にヘルも同意した。それでも妹として、身勝手な兄を止める気にはなれなかった。止めても無駄だとわかっていたからである。
そんなどうしようもない兄のことを話していると、その流れでもう1人の兄であるヨルムンガンドのことが気になった。彼が今どうしているのか尋ねると、何故かオーディンは無念を顔に滲ませ、重い口を開いた。
「……ヨルムンガンドは、ヘルちゃんが無力化した知らせを聞いたあと投降し、そして……大蛇に姿を変えられ、魔界に送られてしまった」
予想だにしなかった兄の現状に、ヘルは耳を疑った。
オーディンいわく、ヘルを逃がした際の抵抗も理由の1つだが、1番の原因はヘルが堕天したことを知らされ、彼女を免罪するようテミスらに訴えたことによるものだった。
彼の必死の訴えもテミスらには聞き入れてもらえず、それどころか神様の判断に抗議したということで反逆と見なされ、問答無用で罰せられたそうだ。
兄が受けた仕打ちを知って、ヘルはひどく落胆した。自分を守り、支えてくれた優しい兄にもう会えないかもしれない。そう思ったヘルの心は深い闇に沈んだ。
その心にオーディンは光を灯した。それは、今後の彼女の人生を左右する一縷の希望の光であった。
「ヘルちゃん。どうしても彼に会いたいか?」
「え?」
「ヨルムンガンドと会って、彼の側で生きたいかと聞いている」
オーディンの質問の意味はわからなかったが、ヘルは冷静に考え頷いた。
すると彼は、1つの提案をした。それは、当時の天国出身者には考えられないものだった。
遅ればせながら、2章目スタートしました。




