23 大切な人
「私はあなたを許さないわ‼静留様は私のものなんですから‼」
そう言って報道陣が立っていた場所に出てきたのは、私が高校生の時に静留くんを諦めるきっかけになったデートのお相手の方だった。
周りはいきなり現れたその人に驚き、報道陣も何事だと思いながらもカメラを回し、写真を取る。
静留くんは「何で居るんだ?」と疑問の声をあげていた。
そんな中、お祖父様が「川嶋の家には招待状が届いていないはずだが?」とその人に話しかけた。
「そうよ。私の家には招待状が届かなかった。今まで届いていたのに!それもこれもこの女のせいよ‼お前なんかいなければ私の家がつぶれることも、静留様がお前のものになることもなかったのに!静留様は私のものなんだから‼」
「...あなたは静留くんをものだというけど、それは静留くん自身を見ていないですよね?私は静留くんと側にいられればいいけど、あなたは静留くんが豊橋じゃなくなって、この顔じゃなくなったら、離れるでしょ?」
「何を当たり前のこと言ってるの?静留様は豊橋という名があって、その顔だから静留様なんじゃないの。可笑しなこと言わないで?」
私の質問に女性は何をバカなこと言ってるの?と言いたげな顔で笑いながら告げる。
私たちが話している間に周りは動き出していて、今にも女性を捕らえようとしている状態だったけど、私はこの人の言いぐさに腹がたったことで言い返していた。
「あなたみたいな人が居るから静留くんが苦しんできているんじゃない‼静留くんを見ていないのに!自分のことしか考えてないのに!静留くんを自分のものだなんて言わないで‼」
「あんたなんかに言われたくないわ‼私の前からいなくなって‼」
そう言って鞄からナイフを取り出すと鞄を投げ捨て、私の方へ一直線に走ってきた。
周りの人はそれを止めようと動いていたけど間に合わず、私の前まで迫っていた。
周りがスローモーションになり、叫び声もハッキリとした音として聞き取れなかった。
そんな中、「いのり‼」と言う静留くんの声だけが聞こえたと思ったら目の前に静留くんの背中。
ドンっ!と静留くんが衝撃を受けた様子が分かった。そうして、ゆっくりと静留くんがこちらに倒れてくる。
私は支えることができず、静留くんと一緒に倒れ尻餅をついた。
そんな私の膝上に静留くんの苦しそうな顔がある。
「キャーーー」
「静留‼急いでヘリを用意しろ!病院へ運ぶぞ‼」
「何で❗何で❗何で❗静留様がこんな女守るのよ‼離しなさい‼私に触らないで‼離せって言ってるのよ‼この!」
周りが騒ぎ出しているなか私は状況が読み込めない。
「..い..いのり...だい..じょ...ぶ?」
「し、静留くん?」
静留くんは苦しそうに喋っていた。お腹にナイフが刺さったままで、私を心配していた。
「....はは...ちょっと...っ..どんくさい...っは..かな?」
「何で?」
静留くんが手を伸ばしてきたので、掴むと安心したようにでも痛みを耐えたような顔で無理して笑っていた。
「...ごめ..んね...いのり....すぐ..っふ...げんきに...っ....なる..から..ね。ちょっと...まって..て....ほしいな...っは...」
「ぅん、うん‼早く..元気に、なってくれないと..困るよ?」
「...はは...っ...じゃあ...はやく....げん..きに...ならなきゃ...ね」
私はいつの間にか涙が止まらずにいた。そんな私の頬を触ってから静留くんは意識が落ちていった。




