2 子供扱い
あの場面を泣かずに出て行けたことに、今更ながら誉めてあげたいと自分で思ってしまった。
レストランを出てからはどこをどうして帰ったか分からなかったが、無事家の前にたどり着いていた。
今日はお母さんもお父さんも結婚記念日で出掛けているから、家には誰もいない。
家の中に入ると、先ほどのことで頭が一杯になってしまい、玄関にしゃがみこんで、泣き出してしまった。
何で優翔と別れなきゃいけないのか、何でよりによって今日なのか、何で、何でと頭の中がぐるぐるしている。
もう嫌だ、もう恋なんてしない。そう思いながらも今日の出来事が辛すぎて、泣き止めないでいると玄関の鍵が開く音がして驚いて振り返った。
「.....静留..くん?」
「良かった、家にいて。もし居なかったらどうしようかと思ったよ」
「どう...して?」
私が家に居たことに安堵している静留くんは困った顔をしながら、私の頭を撫でた。
「今日、親父と今計画をたてている内容の契約を結ぶために相手の企業とレストランに行ってたんだ。.....そこでいのりを見つけて、様子を見てたんだけど、いのりが出て行くときの様子がおかしかったから、契約をさっさと終わらせて、俺だけこっちに来たんだ」
「.....そう」
「様子を見てただけで何があったか分からなかったんだが、話してくれるか?」
「...うん」
静留くんは私の5歳年上の従兄弟だ。豊橋商事という世界でも有名な会社の後継者でもある。私の母親が静留くんの父親と兄妹。
私の母と父は祖父に結婚を反対されて、母が家を飛び出して父と結婚をした。母は家を出たけれど、父は豊橋商事に勤めていたので完璧に縁が切れたかというとそういうわけでもない。
母と父が結婚した当初父はぺーぺーの平社員だったのだが、どんどん会社に貢献し、祖父も認めざるを得ない位の業績を出したことで認められ、そこから我が家と豊橋家との家族ぐるみの付き合いが始まった。
私が5歳の時から、静留くんと静留くんの兄弟で、私と同い年の奏留くん、私の2個下の満留くん、そんな3人とみのりと私と付き合いが始まった。
そんな昔からの付き合いがある従兄弟の静留くんに話すことにためらいもなく、リビングに移動して落ちつてから、静留くんに今までの経緯を話した。
話を終えると静留くんはなんだかすごい苦々しい顔をしていた。
「静留くん?どうかした?」
「い、いや、何でもない。.....それで、いのりはそんな別れかたで良いのか?悔しくないか?」
「...うん。実際、私といても優翔の役にたたないのは本当のことだもん。それに静留くんに話して、少しスッキリしたかも。だから、もう大丈夫‼」
本当はまだまだそんな気持ちにならない。でも、静留くんに心配かけたくないがために強がった。
そんな私に静留君は「...そうか」と告げた。その時の静留君の顔は少し悲しそうに見えた。
「静留くん?」
「うーん、じゃあ気晴らしに明日出掛けよう?明日は土曜日だし、いのり休みでしょう?」
「う、うん、休みだけど」
「よし!じゃあ決まり!いのりは早くお風呂に入って寝ること!俺は今日、客間使わせてもらうね?」
「う、うん」
静留くんの勢いで明日の予定も静留くんが泊まることも決まってしまった。
不思議に思う暇もなくお風呂に入れられ、私がお風呂から出ると静留くんはリビングのソファーでくつろいでいた。
私がリビングの入り口に立っていることに気づいた静留くんは私をソファーに座らせると、ホットミルクを用意してくれて、飲み終わるのを見ると部屋まで私を送ってくれた。
私が布団に入るのを確認すると「お休み」と頭を撫でて、部屋の電気を消して出ていった。
子供扱いされてると思いながらも、泣きつかれていたことや、ホットミルク効果で直ぐに眠りについてしまった。