1 5年の付き合い
私、佐々中 いのり は今幸せの真っ只中にいる。
昨日の夜、明日で付き合って5年目になる彼氏からメールが来て、食事をしようと誘われた。
付き合って5年目の記念日に食事、しかもここら辺で有名なレストランでの食事に誘われたらプロポーズかもと有頂天になってしまう。
そうして、その最高に高いテンションのまま赤ちゃんの時から知っている大親友に連絡をした。
「それってもしかしたら、プロポーズされるんじゃない⁉」
「やっぱり、そう思うよね⁉でも、最近仕事の都合で会えてなかったからちょっと不安で...」
「大丈夫よ!付き合ってちょうど5年目の記念日でしょ?しかも社会人3年目でエリート街道まっしぐらなんでしょ?きっとプロポーズよ!」
「そうよね!それしか考えられないよね‼」
大親友こと佐々木みのりも私と同じ考えだということに彼氏からの呼び出しはプロポーズだと確信した。
「あーあ、いのりも結婚かぁ~おめでとうだけど、羨ましいわぁ~うちんとこはまだまだそんな感じしないも~ん」
「そうかな?かず君は早く結婚したそうだったと思うけど...きっと私たちに触発されて結婚しようって言ってくれるかもよ?」
「う~ん、それはそれでムカつくかも」
「あはは、嬉しいくせに~」
「うるさーい」
その後は彼氏のことや仕事のことなどを話して解散することになった。
「じゃあ、もう遅いし帰るね」
「うん」
「じゃあね、お幸せに!」
「ありがとう‼またね」
玄関まで送ると「お幸せに!」と笑顔で言われ、羨ましいと言っていたけど、やっぱり一番は祝ってくれる気持ちがあるということが嬉しかった。
みのりとは赤ちゃんの頃からの幼なじみ。隣どうしの家で母親どうしも親友で昔から家族同然で育った。そんなみのりに一番に喜んでもらえたことが何よりも嬉しかった。
私の彼氏は私が大学に入学してからテニスサークルで出会ったひとつ年上のイケメンだ。名前は黒瀬優翔。髪は真っ黒の短髪で目が二重、顎がシュっとしていて笑顔が似合うスポーツ青年な感じ。彼は色んな人と交流があって、何でこんな人と付き合えたのかって今でも思ってしまう。
付き合ったきっかけは彼が告白してきたことから。夏休みのサークル合宿での自由時間の時、今でも思い出すとドキドキする。それから五年間ずっと付き合っている。
私が社会人になってから、2ヶ月に一回位しか会えなくなってしまったけれど、私は優翔のことが大好きだし、結婚したいとも思ってる。
だから、今度の食事ではプロポーズされるのではと期待したし、そうだろうと確信していた。
そうして実際の食事では.....。
私は目の前の光景に笑うしかできなかった。
「もう一度、お願いしてもよろしいですか?」
「...本当にごめん‼半年前から...真菜と付き合っていて、いのりとは別れたい...」
「優翔さんの言ってることは正しいと思いますの。私の父は会社の重役ですの、優翔さんが出世するのに必要なのは私だと思いません?5年付き合ってるからって、優翔さんの役にたつわけではありませんもの」
「そうですか...。優翔、今日がなんの日か覚えてる?何で今日だったの?」
優翔がこんな性格の悪そうなのと私を二股していたことがムカついてきてしまったが、別れ話をするにしても何故今日なのか、今日が記念日ということを覚えているか確認してみたくなったので聞いてしまった。
「えっ、今日何かあったか...?」
「今日は私の誕生日ですの。だから、私が今日ここで食事をしたいと思い、そのついでにあなたを呼び出したのです」
5年間付き合ってきて別れてしまうという悲しみよりも、優翔が二股していたこと、出世のことしか考えていないこと、記念日を忘れていること、私が呼び出されたのはついでだということ、これらのことで私は心が凍ってしまったように思えた。
優翔の申し訳なさそうな顔も、彼女の勝ち誇った顔も、どちらにももう何も思えない。
今度こそ何も考えられず彼らに「そうですか。私の私物は捨ててもらって構いません。連絡先は今削除させてもらいます。......はい、これで良いですかね。では失礼します」と伝えるだけ伝えて礼をしてそのレストランを出ていった。