家出という旅に出た(執筆中
「ちょっと待ちなさい。」
ふてくされてムッとしている私に父はこう言った。
「家出してもいいけど、素敵な人や物と出会って来るんだよ。そして、それらに出会えた時お父さんにメールしなさい。いいね?」
母は出ていく娘を必死に止めようとしている自分をすっかり擁護するものだと思い込んでいたからか、唖然とした表情で父を見ていた。そこから私が玄関のドアを閉めるまで空気が冷えていたが、カギが掛かったとたん母は暴れ出し、叫んでいるのが聞こえた。まるで餓鬼みたいだと足早に夜闇に消えていった。
友達に貰った電波時計は11時を指している。肌寒く、大通りには街灯が一定間隔で聳え立っておりまだ少しにぎやかだ。新学期が一か月後に迫った私にとって学校なんてただの監獄だった。どうにか一年間耐えてきたけど、正直脱獄したかった。クラスという部屋で一日の半分を過ごし、休み時間には外出が許され、屋上でお弁当を食べることができる。別に望んだわけでもない組み合わせの人たちで学級目標を決めて達成して感動するというエピソードは別に必要なかった。むしろ、何かを望んで集まった人同士で一人の人間として大きくて面白い目標を達成する方が効率が良いし、学校に行きたがる人も増えるのになって。
携帯端末に入れられるだけ詰め込んだ音楽を片耳で流しながら、駅の方へ歩いていくとバイト終わりの先輩が、余りモノだろうか2,3のコンビニ弁当をぶら下げてこちらへ向かってきた。
「あれ、澪ちゃんじゃん。どうしたのリュックなんて背負って」
「あ、先輩。私、家出してきたんです」
「え、なんでよ」
これまでのいきさつを話、状況を読み込んでもらったところで交渉に移った。
「もしよければ、それ、いただけませんか?」
それ、を指さす。
「ああ、いいけど。ホントに大丈夫?」
縦に大きく首を振ると、茶色いコンビニ袋を提げて別れた。
再び、片耳にイヤフォンを付けて18番目の曲を流した。彼女は小さく口ずさんだ。
朝方 夕焼け 黄昏て
どちらも 太陽 前に見て
今まで 自分が どうやって
生きてきたのか確かめて
これから 自分が どうやって
生きてゆくのか確かめた
いつか流した 涙が輝き
宝石になって 歩いた道の上で
星になって 笑ってくれる
弱さがあるから 強さがあるんだ
諦めないで 君は生きている
認め合えないのも 悪いことじゃない
焦らないで ちゃんと 向き合えばいい
地球のどこかで書かれた歌。そう彼女は呼んでいる。この唄には名前があって、生まれた日があって、伝える人もいる。彼女の携帯端末に入っている楽曲の名前は全部、「地球のどこかで書かれた歌」とあり、全く区別がつかない。
最寄り駅に到着した。水色のリュックサックを背負った少女は、あと一か月で期限が切れる定期を手に、高校の最寄り駅まで急いだ。
もう、終電だ。そう思いつつ、今晩の寝場所を探さなければという使命感に
駆られた。ふかふかの羽毛布団とお気に入りのぬいぐるみを抱きかかえて、2次元の憧れを妄想しながら毎晩のようになにかしらの夢を見ていた。まだお腹は空いていない。母の料理が恋しいとは思わないし、たまには見知らぬ世界も必要だと、そう信じていたから自分は今ここに居るんだと言い聞かせ、94%のイーライフに頼ることにした。