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第2話:守銭奴勇者現る

「あ、あのぉ、勇者様…?」


「ああ!?ああ、うん。で、魔王軍というのはどこにいるんだ?」


「はい、魔王軍はもはや世界の半分を支配しております。東半分が魔王軍の支配する世界。西半分が人間の支配する世界です。

 そして今いるここが、その魔王軍と人間界のちょうど中央に位置する世界の中心、世界樹です」


「世界樹!?これが世界樹の木なのか?」


「はい、生命を司る、世界樹の木です」


「あの死んだやつに、葉っぱ食べさせると生き返るってやつ?」


「いえ、死んだものを生き返らせる力はございませんが、世界樹の葉には、ありとあらゆる病を治癒し、弱りつつあるものに活力をあたえる力を持っております」


「ほう…、やっぱ1枚しか持てないのか?」


「1枚ですか?いえ、何枚でも持てると思うのですが…」


「なに!? この世界じゃ世界樹の葉を一人何枚も持てるのか!?」


「…はい、持てますが…」


「そうか、あい分かった。んで、今後のプランを聞かせて貰おうか」


「プ、プランですか?」


「ああ、魔王やっつけるんだろ?どんな感じで行くんだ?もうザックリでいいからさ」


 プランと言われても、ついさっき、30分くらい前にお昼寝中に啓示を受けたのだ。

 プランなんて考えてる訳がない。正直にノープランだと打ち明けるか… それとも頼れる妖精だと思って貰えるよう、道を示すか。

 それにしても、ここまで妖精まかせな勇者だとは微塵も思っていなかった…

 ティンクは頭をフル回転させながら考えた。


「ザックリですね…。そうですね、まずは世界中を旅しながら、戦闘の経験を積み、強力な仲間を集め、魔王軍の情報を集める。と、いったとこでしょうか」


「マジかよ!?そっからやんのかよ…。で、どんくらいかかるんだ…?」


「魔王を討つまでの期間ですか? そ、そうですね…、そればっかりはなんとも言えないのですが、10年… いや20年… 」


「ああ、もう一気にやる気失せたわ。そんな感じね。はいはい、わかったわかった」


「ええ!?お、お待ちください。すみません、少し間違えてしまったようです。そうですねぇ、早くて半年、遅くて1年といったところでしょうか?」


「ふ~ん、半年か。半年ならまだいけるかもしれんな。 …めしは? あとはめし次第だな…」


「食べ物のコトでしょうか? 食べ物ならここ、世界樹の森に、クコの実が沢山あります。クコの実には、人間に必要な栄養素がすべて含まれております」


「クコの実?ふ~ん、それってうまいの?肉とかケーキとかないの?」


「あ、肉料理なら人間界で食べれるはずです。クコの実はおいしい…と思います。ここに一粒だけあるのですが、食べてみますか?」


 ティンクは、今日のお昼に食べようと腰に携えていたクコの実を勇者に差し出した。


「ちいさっ!こんなの100粒あっても足りねーぞ」


 勇者は、ブツブツ文句を言いながら、その豆粒ほどの実をひょいっと口に入れた。

 ポリポリ ごくん。


「…無味だな。あい分かった。まずは人間界に行こう。一番近い町まで連れてけ。徒歩圏内か?」


「はい、そうですね…。世界樹の森を下りて、10日ほど歩いたところに、カルディナという大きな町があります」


「10日…。やべーな、そんな感じかぁ。こりゃ無理かもしれんな…」


「ご、ご安心ください。風の加護を勇者様に付与すれば、数分でたどり着けます」


「ふぅ~、あっぶね。さすがに10日は歩けないからな。んじゃ、行くか。この世界樹の葉、持てるだけ持っていくから。

 ちょっと俺届かないからさ、かき集めてきてくんない?」


 世界樹の木の上で、ことの一部始終を聞いていたウエンディは、いよいよ痺れを切らして降りてきた。


「ちょっと!あんた何様のつもりなのよ!?さっきから聞いてりゃ好き勝手なこといってくれるじゃない!それが妖精に物をお願いする態度かっつうの!!」


「は?なんだお前。俺は勇者様だ。なんか文句あんのか?やめるぞ?魔王討伐やめちまうぞ?あん?」


「な、なんてやつなの… とても勇者の言動とは思えないわ…」


 ウエンディ、勇者様にそんな口をきいてはいけません!と、普通なら言ってるとこだろうが、ティンクはなにも言わなかった。

 ティンクも思っていたのだ「なんだこいつ」と…。


「私は、世界樹を守護する森の妖精ウエンディよ。私の許可なく世界樹の葉は渡せないわ!」


「はいはい、じゃあ、いいや。魔王倒すのあきらめるわ。さすがにこんな非協力的なんじゃ、倒せるもんも倒せんわな」


「マジかこいつ… あんたほんとに勇者なの?ありえないわ」


「ウエンディ、落ち着いてください。たしかに魔王軍との戦いには、世界樹の葉が大量に必要になるでしょう。

 世界樹の守護者ウエンディよ、どうか世界樹の葉を持っていく許可をいただけませんか?」


「ティンク… この先のあんたのこと考えると泣けてくるわ… わかったわ、一緒に世界樹の葉を集めましょう…」


「ちっ、もったいぶりやがって…」


 ティンクは勇者の舌打ちを遮るように、声を張り上げた。


「も、森の妖精ウエンディ。感謝いたします!」


 2人の妖精は、必死になって世界樹の葉を集めるのだった…


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