生存への一歩
「う・・・うう・・・」
ここは何処だろうか?少年は目を開けようとするが視界に飛び込んでくる光に目が眩み、辺りを見回すことができない。思えば随分と久しぶりに光と言うものを見たかもしれない。
身に覚えのない状況に少年は何が起こっているのかを必死に思い出そうと試みた。
「そうだ、僕は化け物から逃げていて・・・死んだのかな?ここは天国?」
そう思い体を動かすと全身に鈍痛が走った。どうやらまだ死んではいなかったらしい。
おまけに手の自由が効かない。手首を動かすとジャラジャラと金属の擦れる音が聞こえてきた。
鋭い光に慣れてきた目で確認すると、手首はコンクリートの壁から突き出た細いパイプに逃げられないよう鎖で固定されていた。
「あれ、裸になってる・・・」
自分は服を着ていなかった。ますます何が起きているのかわからない。脳から出る危険信号が次第に音を大きくしていく。
部屋全体を見渡すが、打ちっぱなしのコンクリート壁と正面の扉以外は何も無い殺風景な場所だ。
ガチャ
扉が開き、部屋の中に体格のいい男が入ってきた。きっちりとオールバックにされた白髪が印象に残る。
「おう少年、やっと目が覚めたか」
少年は自由の効かない体でとっさに身構えたが裸だったで何とも滑稽な姿であった。
「あなたは誰なんです!?ここは何処ですか!」
「落ち着けよ、今水をやろう。」
そう言うと男は持っていた水入りのペットボトルを床に置いた。男はそのまま少年の目の前に座り、一糸纏わぬ少年の体をまじまじと眺め始めた。抵抗しようにも拘束されている為どうしようもない。脳から発せられる危険信号が最大になった。
「ふーむ、やっぱり大丈夫だ。感染してない・・・一体どうなってやがる」
男は独り言を2,3呟くと脅えた少年の顔をみてふと我に返ったようだ。
「ははは、すまん。何も取って食おうって訳じゃない。感染していないか調べただけだ。」
「僕はパラサイトに?」
「いや、大丈夫だ。8時間は見ていたが咳もしていないし、緑の斑点も出てない。陰性だ。」
少年はホッと胸を撫で下ろした。寄生植物の花粉が傷口や肺から体内に侵入すると人間は脳を支配されてパラサイトになり、化け物へと成り果ててしまう。そうなったら最後、死ぬ以外に治す方法は無い。
「おい、そのガキ大丈夫だったのか?」
安堵していると一人の女が部屋に入ってきた。先まで水浴びをしていたのか女の長い髪の毛は湿り気を帯びていた。
「おう、感染もしてない。至って普通の人間だ。さあ、今鎖を解いてやる。」
男は少年を拘束していた鎖をはずし、部屋の隅へ放り投げた。
「立てるか?」
「あ、ありがとう・・・ございます」
男の手を掴み、少年はゆっくりと立ち上がった。足元が多少ふらつくがなんとか歩くことができた。
ペットボトルに入った水を飲み、久しぶりに生きた心地を感じた。
扉に向かうと、壁に寄りかかっていた女が少年の方に近づいてきた。
「てめぇには聞きたいことが山ほどある」
女はそう言って少年に目線を合わす為に腰を折り曲げた。女は美しい顔をしていたがギラリと光る両目が危険な雰囲気を醸し出している。よくわからないが恐ろしい女なのかもしれない。
しかし、着ていたTシャツから大胆な胸元が見え、思わず視線がそっちに揺れ動いてしまう。
「そう焦るなって。子どもにメンチ切ってどうするんだよ全く・・・疲弊してんだぞこいつは」
「そうかぁ?」
そう言うと女は少年の下半身を見つめ、不敵な笑みを浮かべた。
「結構元気じゃん」
「え・・・?」
少年は自分の顔を真っ赤に染め上げ、持っていたペットボトルで必死にそれを隠そうとした。
「へっへっへ!」
女は満足そうに笑いながら部屋を出ていった。
なんなんだあいつは・・・
「まあ、こっちに来い。自己紹介から始めるとしよう」
「あの・・・まず服を返してもらえますか?」
赤面したまま本当に小さな声で少年は男にそう頼んだ。
「ははは!!そうだった、ほら、返すぞ。」
服を渡され、少年は安堵の溜息をついた。
「着替えたらこっちに来い。後、俺の名前は・・・まあLJとでも呼んでくれ。それであいつの名前はアサギだ。」
男はそういうと部屋を出て、向かいの部屋にあるテーブルへ腰を下ろした。
悪い人達ではなさそうだ。
しかし、いつまでもほっとしてはいられない。聞かなければいけないことが山ほどある。
早々に服を着ると部屋を出て、中央にある椅子へと座った。
「さて、話をしよう」
LJはそういうとこれまでの経緯を話し出した。