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ヒロインシリーズ

ヒロインでごめんなさい

作者: 青柳 沙緒

※大事なことなので繰り返します。百合ではありません。

※主人公は基本アホの子です。

 私と桜華先輩との出会いは、生徒会長の出待ちの時だった。


「貴女が今回の会長様のお気に入りなのですか? 精々飽きられないように精進なさいませ」


 桜華先輩は艶やかに笑って戦線布告した。


 私が自分の通う学園の生徒会長と知り合ったのは、まったくもって偶然で、私が中庭ですっ転んでいた所を見下された挙句、パンツ見られるという「私が美人だったら、これフラグですよね!?」的なノリだった。


 伝統ある学園になんの因果か高等部から滑り込んだ私は、会長が大企業グループの御曹司なぞとは露知らず、散々に暴言を吐いた上に逃げ出すという「庶民派ヒロインの王道レスポンス」を見事成し遂げてしまった。


 知らないって怖いね。


 そんで想像の通り、会長に目をつけられて度々呼び出しを喰らうハメになった。そして、会長の委員会待ちをしていたときに美しい先輩に戦線布告されたって、これなんて乙女ゲー?


 まあしかし、私もイケメンに興味を持たれて悪い気はしない。高校の3年間くらいイケメンのお近づきになって青春したいと思った私を誰が責めることができようか!


 そういうことで、私は生徒会長とお付き合い出来る様に、美人先輩のイジメにも負けず、会長のイチャイチャに見せかけたからかいを楽しみつつ、学園生活を謳歌していた。



 そんな私の恋のライバルが、桜華先輩。彼女も会長と同じく良家の娘さんで、華やかな美人。名前負けしない強者のオーラを身に纏い、勉強もできて後輩や先生からも信頼の厚い会長に相応しいレディ。


 負けたくないと思うよね? 燃えるよね? このシチュエーション。

 

 

 

 「まどかさん、ご機嫌よう。朝食は食パンだったのかしら? スカートについておりますわよ」


 「おはようございます、桜華先輩。あの……アイライン滲んでますよ?」


 カッと顔を赤くして、走り去った先輩。勿論ウソである。が、いつもより心持ち化粧が荒かったのでカマをかけただけだ。自爆した先輩が悪い。


 

 「まどかさん。そのように焦げたカップケーキを会長様に差し入れするおつもりなのかしら?」


 「先輩、プレゼントは見た目じゃなくて気持ちですよ? 気持ちがこもってないと会長に伝わりませんから」


 その後、私のカップケーキは会長の胃に、先輩のクッキーは生徒会役員全員で食べたそうだ。後でケーキが生焼けだったと怒られた。うう……油断したら自爆してしまったよ。



 「まどかさん、ご機嫌よう。何故ずぶ濡れなのですか?」


 「傘持っていかれてしまって」


 「購買で売ってますわよ、お馬鹿さん。指導室に盗難届がございますから、届けを出せばすぐ戻ってきますわ」


 そう言って、明後日の方向をキリリと睨んで桜華先輩は去った。


 



 来る日も来る日も、私と桜華先輩は正々堂々アピールを続けた。選ばれるのは私の事が多かったが、桜華先輩は決して諦めない。折れない。まるで凛と咲く大輪の花。美しく咲き続けるその姿に、気後れする他の美人先輩達は、決して桜華先輩の傍には寄ってこない。私には色々してくる癖にセコい。




 そんなある日。


 「ご機嫌よう、まどかさん」


 放課後に、生徒会役員室の前の廊下で桜華先輩と会った。その手には恒例ともいえる会長へのラブレターが握られていた。


 「こんにちは、桜華先輩。何でそんな廊下の端にいるんですかー?」


 「まどかさん、研究が足りませんわ。会長様は廊下を歩く際、中央やや左寄りを行くのです!」


 「ストーカーですよ!」


 「愛ですわよ。ところでまどかさん。貴女こそ柱に隠れて怪しいですわ」


 「私は、会長が出てきたらタックルして抱きつく所存です」


 「まあ呆れた。会長の右側は書記の人間がいつもいますから、間違えて抱きつくとよろしいわ」


 「桜華先輩こそ、間違えてそのポエムを会長の左ポジションの副会長に渡せばよろしいのに」


 「言うようになりましたわねっ! お生憎様だけれども、副会長は一歩後ろを歩いているのよ」


 そう言って桜華先輩は私の肩をパンッと払った。痛くないスキンシップをするなんて、私達ものすごく傍から見ていると仲良しに見える。親友がそう言ってた。恋敵でなければ、私真っ先に懐くタイプなのよね、桜華先輩みたいな人って。



 「……桜華」


 「会長様っ!!」

 「かいちょー!!」


 いつの間にか会議が終わって出てきたみたいだ。カツカツと会長が早足でこっちに向かってくる。




 「俺のまどかに何しやがる!!!!」


 会長の右腕に引き寄せられた。パフっと胸にダイブして、いつもなら、わーいって感じだけど今日は会長の左腕が桜華先輩に伸びたからそれどころではない。


 鈍い音が聞こえて、桜華先輩が突き飛ばされて壁にぶつかったことを耳で知った。


 「会長! 桜華先輩に何するの!?」


 「お前が前々からまどかを虐めてたんだな? 俺が気付いてないとでも思ったのか!」


 会長人の話聞いてねえよ! 何桜華先輩を恫喝してるの!


 「……そのような恥ずべき事はしていませんわ」


 ほら! 桜華先輩泣きそうじゃん! 腕の戒めから抜け出そうとするも、痛いくらい力を入れられてどうしようもない。


 「雨の日にまどかの傘を玄関から遠いゴミ箱に捨てたのも、靴に接着剤しこんだのも、プールに突き落としたのも全部知ってるからな!」


 違う! それ桜華先輩じゃないから! 全員名指しで犯人言えるよ!!


 バシバシ会長の腕を叩いて気を向けようとするけれども、むむむ……こっち向け!


 「桜華先輩にそんな事されたことないから! 虐めてたのは違うグループの人でっ」


 「こいつの取り巻きかっ」


 「ちがーーーーーーーう!!」


 桜華先輩はやはりというか、すっごく人望があって後援会もどきもあるけれど、多少睨まれただけで無問題でーーす! というか、会長のファンクラブの方の方がよっぽどイジメ酷い! 学園を代表する淑女と学園を代表するオレ様との人間の出来の違いよきっと……

 


 「何故お前はこいつを庇うんだっ」


 無罪だからに決まってんだろうが!!


 「桜華も黙ってねえで何とか言えよ!」


 そう言って会長は桜華先輩から手紙をひっつかんで握り潰した。


 「こんな美辞麗句並べても中身腐ってんだな」


 酷い!! 桜華先輩が宝石のように綺麗な目を涙できらめかせながら、何も言わず廊下の向こうへと走って行ってしまった。


 桜華先輩! 桜華先輩!! 桜華先輩!!!


 私は思いっ切り会長を突き飛ばして、先輩を全力疾走で追いかけた。背後の呼び声や喧騒を残して。

 




 私が桜華先輩を見つけたのは、美しい先輩には似合わない旧農園部(戦時中にあった部活らしい)の畑脇だった。今では校舎に囲まれて陽も当たらない、ジメジメした場所。


 「桜華先輩……」


 「ま、どかさん」


 この場の感想としては間違っているが、美人は泣き顔も惚れ惚れする位美しい。私が男ならマジ惚れる。


 「お見苦しい、場面を、お見せ、しましたわ」


 「そんな事思ってません! それより、ごめんなさい……会長があんな誤解しないようにするのが先輩への礼儀なのに……犯人をちゃんとはっきりさせなかった私のせいで、先輩がっ」


 「貴女までそんな泣きそうな顔はなさらないで。わたくし、貴女のこと甘くみていたようね。気を悪くなさらないでね。最初はこんな平凡な娘なんて、一時の遊びで会長の身辺にまとわりついてるのだと思ってましたの。けれどね、貴女は真っ直ぐで、卑怯な真似はなさらないし、今までの会長様のお相手よりもずっとできた方なのだと思い直しましたわ。わたくしの事も庇ってくださいましたし、わたくし、これでもう……」


 「そんな事言わないで! 桜華先輩! 私だってずっと桜華先輩の事見てました。知ってましたよ。先輩だってお家の力を使えば何だって妨害できたのに。現に別の先輩で親が学園の理事会役員の人は、私に色んな事押し付けて妨害してきましたし。そんな事一切先輩はしなかったし、それとなくその役員に手を回してくださったから、私の仕事も減ったんですよね?」


 少し驚いたような、照れたようなそんな顔をして私の顔を見つめる先輩。


 「それに、傘をなくした時だって、そのあと嫌がらせした人達を風紀委員に突き出してくださったって。それに、靴をやられた時も、担任にそっと手回ししてくださったから、代わりの靴履けて帰れて。それに、プールの時だって、水泳部の部長さんに言ってくれて。部員が虐めにプールを使ってるって。そのおかげで、1番しつこかったグループの人達は部長さんに絞られて虐められなくなりましたし。先輩にこんなにしていただいたのに!」


 私の言葉を聞いて、驚きを隠せないような顔をしている先輩。もう涙も止まったみたい。


 「その事をどなたから……」


 「名前は本人の希望により伏せますが、初等部からエスカレータの私の友人です」


 「知ってらしたのね」


 「はい。それなのにごめんなさい」


 「よろしいのよ。わたくしも表沙汰にならないようにしておりましたもの」


 「桜華先輩と仲直りできてよかったぁ」


 ふにゃーっと笑うと、先輩も微笑んだ。目尻から溢れた滴が真珠に見える。まじまじ見つめると、照れたようにそっと、目をお伏せになった。絵になる。




 私、あんな暴言吐く会長(バカ)よりも先輩の方が大事だ。


 私、先輩となら百合もありかもしんない(照)

 

 


 見つめ合いながら、地面に座る先輩に手を差し伸べようとした。


 「ありがとうございますわ、まどかさん。それと、わたくしの事はお気になさらず、会長様と……」


 「桜華っっ!!」


 バタバタと畑に全力疾走してきた大きな影が、私の横を通り過ぎて先輩をすくい上げた。



 「……涼二」


 「日も暮れたのにこんな薄着で冷えているではありませんか。これを着なさい」


 おおっ!

 私の事を総無視してダッシュしてきたのは、なんと副会長様。


 そして、桜華先輩、副会長を 名 前 呼 び!? ナニコレ!?ワクワク!!


 いそいそと自分の男物コートを桜華先輩に着せている副会長。萌え袖の先輩ギザカワユス。


 「今日は俺、車で迎えに来てもらってますので、送ります。何も考えなくて良いですからね。大丈夫ですから」


 そう言って先輩の頭を撫でている副会長。よく見ると今日は眼鏡かけてる! いつもは眼鏡なしだし、細マッチョでワイルドさを強調しているが、眼鏡を装着することによって、インテリ感が強まっている! これもイイ! ついでに敬語萌え! 美男美女オイシイ!!


 「涼二……わたくし……」


 あっ。また先輩泣きそうになってる。副会長とは気を許せるアヤシイ仲なのかしらん。


 「会長(バカ)の言う事など忘れなさい。貴女の良い所が分からない可哀想な男のために泣かないで、桜華」


 奥様ご覧になって!? 少し腰を抱き寄せましたよ! あまーーーーーーーーい(古)


 そのまま2人で歩き出しましたよ。このままお帰りになるのかなっ?


 「伊東、そこにいるのでしょう? 一応こちらの彼女についてあげてください。俺は桜華を車に乗せて、彼女の鞄を回収してきます」


 ひょこっと校舎の影からあらわれたのは、書記様ではあーりませんか!


 「バレてた? まどかちゃんの事は俺に任せて早く帰っちゃえよー」


 ヒューヒューみたいな事言ってる。相変わらず軽いな、書記の伊東さん。




 街灯に照らされる2人の寄り添う背中を見送る私と伊東さん。素敵だなー……


 「まどかちゃん、気になっちゃう感じ? あの2人ね、幼馴染なの。本当は涼二の従兄弟の許嫁候補が桜華ちゃんで、その布石として涼二が送り込まれたんだけどね。だけど涼二の方が桜華ちゃんに惚れちゃって、初等部の頃から猛アピールしてたんだよね」


 「まさかの幼馴染ラブ!?」


 なんて素敵なんだ! 思わずガッツポーズしてしまった! ちょっと伊東さん! 爆笑しないで!!


 「まあ、一応カイチョーにまどかちゃん探すように言われてたから、取り敢えず戻ろうか」


 「ええ!? 会長なんかどうでもいいよ! それよりも出歯亀しましょ! いい雰囲気でしたよ!」


 さらに伊東さん爆笑。何故よ! 桜華先輩に新しい恋だよ! しかも5年以上思い続けてくれている誠実な副会長とだよ! 応援しないわけにはいかないじゃない! 先輩にはイケメンで誠実な男性と幸せになって欲しいよ。



 伊東さんとはその後どこをどうしてこうなったのか、副会長と桜華先輩が車に乗る所を2人で校舎脇から観察し、鞄を取って来てもらってから(私はコート着ていた)、某ファミレスに突撃かまして、ドリンクバーで粘りつつ、先輩たちの馴れ初めとか、初等部時代の求愛エピソードとか教えてもらっちゃいました。うわー意外と桜華先輩って鈍感ちゃんなんですね、ふふふ。


 そして、私は桜華先輩の可愛い後輩(自分で言う)として伊東さんに情報を横流しすることを約束し、メアドを交換して別れた。ここに、『副会長と桜華さんの恋を出歯亀し隊』を結成した!!





 何か忘れてないかって?

 いや、別にどうでもよくない?



 


 

 

蛇足


〈ファミレスにて〉


まどか「へー。副会長ってそんな小さい時から先輩にぞっこんなんですね」


伊 東「そうだよー。中等部で桜華ちゃんが会長に夢中になっちゃってねー。会長ってワイルド系でしょ?涼二も筋トレして、コンタクトに変えちゃったり」


まどか「えっ」


伊 東「見た目を桜華ちゃんの好みに変えるためにね。涼二って綺麗めなイケメンなのにさ。多くのインテリ眼鏡好きな女の子が涙をのんだらしいよ」


まどか「マジか」


伊 東「あと涼二は齢僅か7つにして、親を操作して従兄弟に別の女の子が許嫁になるように誑かしたんだってさ」


まどか「それってヤンデレに近い執念……」


伊 東「いやー一応理性が勝ってるから心配ないよー」


まどか「一途と紙一重よね」


伊 東「意外と単純だよ。今頃きっと今日眼鏡かけてた事を後悔してるね。桜華ちゃんと2人きりのチャンスなのにーってさ」


まどか「何それ可愛い」


伊 東「そしてこれを全てスルーする桜華ちゃん(笑)」


まどか「出歯亀隊のフォローが必要だねっよしっ(ガッツポーズ)」



翌日、門の前で仁王立ちしている生徒会長を見て、昨日放置したことを思い出した。


伊東さん!そこで爆笑してるの見えてますからね! 



〈蛇足完〉


お粗末様でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] まずいカップケーキを食べてくれた会長は良い人だと思いますよ。 誤解してるだけで。 なにげに可哀相な人です。笑
[一言] やや盲目的になっちゃうくらいにはまどかちゃんが大事になってるのにこの扱いとか会長カワイソスw この後も自分より桜華様優先されたり出歯亀隊2人の友情にもやもやしたり書記にからかわれたりするとい…
[一言] これはチャラ書記と幼馴染の恋を出歯亀し隊の悪友関係からの友恋発展だと美味しい。 会長?そんな人いたっけ?(笑)
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