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第四話 小豆の陣中見舞・金ヶ崎退き口

赤尾清綱は市姫の居室を訪れていた。

「市様、残念ながら織田様は我らとの約束を破り、越前へ出陣なさいました。」

「信長様が?」

「はい、浅井は朝倉軍と共に織田様の軍勢を挟み撃ちにします。」

「…。」

暫しの沈黙の後、市が口を開いた。

「頼みがあります。」

「頼みと申されますと?」

「信長様の陣中にこのお手玉を…」

「…なる程。承知致しました、某の手の者に届けさせましょう。」

「お願いします。」

(信長様、お願い気づいて…)

市は祈るような気持ちで清綱の背中を見送った。


【織田軍本陣】

「いやはや朝倉軍は大したことありませんな。」

佐久間信盛が口を開く。

「全くよ、手筒山城での我が軍の暴れっぷりに恐くなったのじゃろう。」

柴田勝家が同調する、諸将の顔は明るい。

そこに信長が現れ、場が静まる。

「ご苦労であった、手筒山では大きな損害を受けたがもはや朝倉の本拠、一乗谷を落とすのみじゃ。」

「殿、気になることが。」

明智光秀だ。

「なんじゃ、光秀。」

「浅井の参陣が遅うございます。」

「準備に時間がかかっているのでありましょう。」

楽観的なのは池田勝正だ。

「浅井軍はすぐに駆けつける。なにしろ長政は市の婿、わしの義弟になった男じゃ。」

信長が自信満々に答える。

「申し上げます。」

急に一人の兵士が駆け込んできた。

「どうした、長政が到着したか?それとも朝倉が出てきおったか?」

「は、長政様の御謀反にございます。」

一同は沈黙した。

漸く信長が声を発した。

「真か?」

「朝倉軍と共に挟撃しようということのようです。」

「信じられん…。」

「殿、赤尾清綱様から使者が。」

別の者が現れた。

「して、なんと?」

「市様から陣中見舞いの品をあずかったとのこと。」

「持って参れ。」

使者が持ってきたのは先ほどのお手玉である。

「お手玉で遊べとでも?それとも小豆粥にでもするのか?」

勝家が使者に怒鳴りつける。

「いえ、ただこれを届けろとだけ。」

「下がってよい。」

使者と先ほどの兵士を下がらせると信長の脳は高速で回転を始めた。

「殿…、」

秀吉が何か言いたげだ。

「なんじゃ?」

「某が殿(しんがり)を。」

「わしはまだ何も命じておらん。」

「はっ。」

信長は一呼吸おくと大声で下知した。

「勝正、殿を任せる。秀吉と光秀もじゃ。残りは退却する。浅井領内は通れぬ、若狭に抜け、朽木谷を越えて退却する。すぐに陣払いをせよ。」

織田軍は慌ただしく動き始めた。

陣払いが済んだ部隊から徐々に退却していく。

池田勝正、木下秀吉、明智光秀は金ヶ崎城で朝倉軍を足止めする準備を整える。

「兄者、朝倉軍です。」

秀吉に声をかけたのは弟の小一郎である。

織田軍は大方の部隊が退却を開始している。

殿(しんがり)の軍勢は鉄砲を撃っては逃げ、また鉄砲を撃ち…を繰り返しつつ朝倉軍の追撃を退ける。


【朝倉陣中】

景鏡は軍勢を南に向けていた。

「織田軍は退却を始めました。」

伝令が告げる。

「そうか、信長め、口ほどにもない。さっさと国外に追い出してやろう。」

景鏡も義景同様に自分の所領を守れば良い、自領の危機が去れば良いという気分である。

執拗な追撃はしない、犠牲を小さくするためだ。


かくして織田軍はなんとか逃げおおせ、信長も無事京へたどり着いた。

秀吉や光秀も追撃の手を逃れた。

だが、京へたどり着いときの信長は10人ほどの配下に守られてなんとか逃げ延びたという状態だった。

信長は越前を攻めたことで江北を支配する浅井氏を敵に回した。

甲賀郡には今尚六角氏が息の根を止められずにいる。

近江は本拠地の岐阜と京を結ぶ重要な土地だが、その近江は敵だらけだ。

信長は対策として、宇佐山城に森可成、永原城に佐久間信盛、長光寺城に柴田勝家、安土城に中川重政を配置し、これらの諸将は軍団に近江の国衆を取り込んでいった。


越前に発生した戦乱の雲は江北へと移ろうとしていた…。

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