〜プロローグ〜 #3
「なぁ……………………っ!? 」
教室の後ろ側の扉から自分のクラスにへと入った友輝は、誰にも気付かれないように、小さく驚きの声をもらした。
自分以外のクラスメイト全員がすでに席についているからではない。同じクラスには、絶対いない人を見つけたからだ。勿論、見えるのは後ろ姿だけであったが、それが誰なのか、一発で分かった。
……坂上真由奈先輩……!
その後ろ姿からでも発せられているオーラは、まさしく先輩のそれだった。
しかし、ここで一つの疑問が浮かび上がる。
……何で……先輩がここに……?
先輩、と友輝は真由奈のことを呼ぶ。一つ学年が上の先輩だから、当たり前のことだ。
友輝が、この雅咲高校に入学を決めた理由がここにある。先輩と、また一緒に学園生活を過ごすためだ。
どれだけ考えても、真由奈がここにいる理由が分からない。自分が憧れている先輩が、こんな自分と同じ教室にいるわけがない。そんな先入観が、友輝の思考をストップさせていた。
「坂……………………」
「ん? 藤堂? いつまでそこに突っ立っているつもりだ? 早く席に座れ」
真由奈に話しかけようとした友輝を止めるように、教室の前側の扉から平野先生が入ってきて、友輝に注意を飛ばす。
「わ、分かりました」
仕方が無いので、友輝は、しぶしぶ自分の席にへと着席した。
……この感じは……。
教室の後ろのドアが開いて誰かが教室内に入ってきた瞬間、その入ってきたクラスメイトの気配を、坂上真由奈は敏感に察知していた。
自分のクラスの名簿をはっきりと確認したわけではないが、一つだけ、自身の席に座っていない生徒がいることを確認していた。
それが誰なのか分かっていなかったが、今理解した。
……藤堂友輝君……。
一年振りの再会。気配がしただけだから確証は掴めないが、真由奈は、自分が友輝の気配を間違えるわけが無いと思っていた。
中学三年の時、真由奈が生徒会長をしていた時、副会長としてとてもとても慕ってくれていた男の子だ。
自分の後を追いかけて来る。それは、考えればすぐに分かることだった。だけど、まさかこんなにも早く出会うことになるとは思ってなかった。同じクラスになるとは、微塵も思っていなかった。
……幻滅するかな……友輝君は……。
先にこの学校に入学したはずなのに、自分と同じクラスにいる真由奈を見たらショックを受けるだろう。それも、憧れの先輩が、だ。
真由奈は、友輝にとって、憧れの対象であることを、きちんと理解していた。裏を返せば、それほど、生徒会長と副会長としての絆があったということなのかもしれない。
「えぇ、まず、入学おめでとう……………………」
担任である平野先生が何やら挨拶をし始めたが、そんなものは、真由奈の耳を通り抜けて行くだけだった。