〜プロローグ〜 #2
「後一時間もすれば入学式が始まるんだけど、あなたが挨拶をするのは最後の方。校長先生の挨拶、私の挨拶があってから、あなたの挨拶だから、ちょっと大変になるも」
「あ、分かりました」
頭の中で、どういう風に挨拶をするべきかを、少しだけ考える。
内容が被ってはいけないだろうから、おおまかに考えておいて、校長先生と由紀の挨拶を聞いてから最終調整をすれば良い。
「それほど気にしなくても良いわ。挨拶なんて、常套句みたいなのを並べておけばそれだけで十分」
……そんなんで良いのか……?
「はぁ…………」
この雅咲高校の生徒会長だから、凛々しくきちんと枠を決めて物事を考えるような人だと思っていたが、そんなことがないのかもしれない。いや、今この場だから、こういう感じに言っているだけかもしれない。
「私も入学式の時挨拶したんだけど、それほど緊張しなくても大丈夫よ」
「善処します………… 」
緊張しないようにと頑張ったとしても、そんなものは無意識の内になってしまうものだ。
「そんなに硬くならなくても良いのよ? 挨拶をするだけなんだから。あ、後一つ」
「はい? 」
「入学式の前にクラスでの自己紹介とかの時間があるから、友達の一人二人くらいは作っておきなさい。友達が聞いてると思えば、緊張も無くなるでしょうから」
「友達は大丈夫です。幼馴染が二人いますから」
「あら? そうなの? 」
「はい」
「なら、大丈夫そうね。平野先生」
「ん、何だ…………? 」
由紀の隣で小さくなっていた平野先生は、目に血の気を取り戻したように声を作った。
気が付けば、さっきまで由紀から放たれていた威圧感みたいなのが無くなっている。平野先生が熱血感を取り戻したということは、それを察知したということだろう。
「説明は終わりましたので、藤堂君をお返しします」
「お? そうかそうか」
「ホームルームがもうすぐ始まる時間ですから。それと、平野先生」
「どうしたんだ? はやく教室に行かせてくれっ」
「その熱血さは先生の良いところですが、自分の自己紹介で、生徒達の自己紹介の時間を潰さないでくださいね? 」
またしても、由紀の目に、さっきの威圧感が戻ってくる。
「分かってる分かってる」
「本当ですか? 一年振りに担任を持ったんですから、同じ過ちをしないでくださいね? 」
「心配するな。先生は同じ間違いをしないからなっ」
「分かりました。先生のことを信じます」
そうは言っているが、その表情や目からは、信じていないというのが伝わってくる。
「じゃ、行こうか。藤堂」
「は、はい」
「国松もはやく戻れよ。生徒会長なんだから、ホームルームに遅れるなよ」
「大丈夫です」