〜プロローグ〜 #1
「やっと、ここに来れた」
藤堂友輝は、今日から通うことになる高校の前に立つ。
誰よりも早く到着するように家を出たので、当然、周りに自分と同じような新入生の姿は無い。
在校生の姿はちらほらと見受けられるが、友輝を見ていく生徒はあまりいない。
少しばかり背が高く黒髪黒目の容姿。そして、真新しい制服を着ていても、新入生だとは感じさせない雰囲気が漂っているからかもしれない。
「やっぱり大きい高校だな」
雅咲高校。
学力偏差値、運動部成績、文化系部活動成績どれをとっても全国トップクラスの超難関校。
そんな超がつくほど有名な高校で、友輝はこれから過ごすことになるのだ。
この高校に行きたいと思ってから、他の高校にも目もくれず頑張ってきた。見学だって、この雅咲高校だけにしか来ていない。
この学校に入れないのであれば、他の高校に行く必要が無いからだ。
何故、ここまで友輝がこの雅咲高校に拘るのか。それには、一つの少し変わった理由がある。
中学時代に尊敬し、憧れた先輩がこの学校へと通っているからだ。
その憧れの先輩とは、接点があった。友輝が二年生の時の生徒会長であり、その際に、友輝は副会長として、憧れの先輩を支えてきた。
またその先輩と一緒に学園生活を送れると思えば、友輝は俄然頑張ることが出来た。
「こんなことしてる場合ではないな……」
こんなに早く来たには、理由があった。友輝は頑張った。だからこそ、この難関の雅咲高校に主席で合格したのだ。
自分が何組なのかは事前に知らされているものの、今から友輝が行くのはその場所ではない。
応接間に呼ばれているのだ。主席で入ってしまったものだから、入学式において、新入生代表挨拶をしなければならないのだ。その打ち合わせ。
コンコン。
と、友輝は応接間の扉をノックする。
「お、もう来たのか? なら、入ってくれ」
「はい。分かりました」
……おや……。
友輝が応接間の中に入ると、眼鏡をかけた、熱血という表現がぴったり会う先生。そして、小柄な女の子らしい生徒がいた。
「君が、藤堂友輝か。俺は平野誠だ。君達の担任を務めることになってるけど、俺についての詳しい説明は……」
「平野先生」
小柄な女の子の目が、先生の目を見据えている。自分が見られているわけではないのだが、その光景を見ているだけで、その少女の迫力が感じられる。
「お、どうしたんだ? 国松。お前も聞きたいのか? 俺の話を」
「いえ、そういうわけではないです。平野先生の話は耳にタコが出来るほど聞いてますから」
「そ、そうか……」
言葉使いからも、その少女の大きさを感じられる。身体は小さいんだけれど。
「入学式が迫ってますから、手短に説明をしてしまいましょう。私は国松由紀。生徒会長をしているの。生徒会に入ろうとするなら、平野先生にはお世話になると思うわ。生徒会顧問でもあるから」
「は、はぁ…………」
平野先生から友輝の方に、由紀の目線が移る。
「じゃ、説明するから、ちゃんと覚えて。一回しか言わないから」
「は、はい………………」
平野先生のほうをちらっと見てみると、少し萎縮していた。さっきの熱血さはどこへやら。由紀のクールさに、冷やされたりしてしまったのだろうか。
「どこ見てるの? えっと…………」
「藤堂友輝です。さっき平野先生が言ってましたが…………」
「そうだったかしら。あぁ、そうだったわね……。じゃ、藤堂君。説明を始めるわね」