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ep22.好きな人!!

 人の想いを、コントロールすることなどできない。

 生まれ持ったこの超常の力は、いざという時に使い物にはならなかった。だけど、振り返ってみれば、それでよかったのだ。

 あのまま先輩の気持ちを意のままに操れることができたのなら、きっと後悔してしまった。自分の命令をなんでも聴いてしまうような人形相手に、恋をするなんて生き地獄のようなものに違いない。

 今でもそんな地獄を歩いているようなものだが、この気持ちが折れない限り、この呪いのような力は先輩に効くことはない。それは喜ばしいことではないけれど、恋のし甲斐があるというものだ。振られると分かっていながらも、それでもブレなかったこの想いを大切にしていきたいと思う。

「先輩、おはようございます」

「お、はよ」

 朝のコンビニ。

 昨日は月曜日だったというのに、頭が混乱していたせいか立ち読みをしていなかったらしい。ギクリと反応した先輩は、いつものように立ち読みしていた。

 そのギクシャク感は、とても修復できそうにない。今まで通り元の関係になれることはきっとない。何故ならライカは、眼前の先輩に手ひどく宣告されたのだから。決してこの想いは成就することなどないのだからと。

 それでも想い続けたい。以前のままでいれないというのなら、それはそれで好都合だ。これから新しい関係を構築すればいい。

 全てを失い、綺麗さっぱり更地になったからこそ、可能性は未開拓だってこともある。人と人の関係性に正誤なんてない。だから、今度こそ恋愛感情が発露するような絆を結べることだってできるかも知れない。

「……ライカ、お前それどうしたんだよ?」

 目線を上げた先輩は、口を半開きにする。動揺のあまり、売り物だというのに週刊誌を取り落とす。そこまでしてくれると、嬉しさが込み上げてしまう。

「あははっ。気がついちゃいました?」

「気がついたもなにも、そんなにバッサリしたら誰だって気づくだろ」

「そうですね、切っちゃいました。バッサリと……髪を」

 長すぎて、両端で絞っていた金髪の髪。それを惜しげもなく、バッサリと切った。首元にまで短くしたおかげで、頭が羽のような軽さだ。こんなにショートになったのは、髪を伸ばし始めて、初めてのことかも知れない。

「先輩。先輩の家に行った時に、私とあの懐かしいゲームについて話をしたのを覚えてますか?」

「ああ、『ア・ヌビス』のことだろ?」

「そうです。『ア・ヌビス』の主人公みたいに、どうしても、私にも譲れない想いがあるみたいです」

 主人公である皇子は、城の中にずっと閉じ込もっていた。このままでいいのかと葛藤もしていたが、何もできずにいた。外の世界に憧れていたが、叶わぬ夢だと諦めていた。まるで心のない人形のように、ただ漠然と生きていた。

 そんなある時、皇子の前に一人の女が現れる。その女は城の侵入者で、得体の知れない犯罪者だった。だけど、その手をとって皇子は自分の殻をブチ破る。外の世界へと足を踏み出していく。あらん限りの希望をその胸に仕舞って、初めて笑顔を見せながら。

 ――そして、現実を知る。

 どれだけ足掻いても、どうしようもない困難が訪れる。それは、城からくる追っ手や、世界に萬栄する飢饉や戦争。身も心も引き裂かれ、外の世界への憧れが潰えることもあった。

 だけど、挫けそうになった時に、心の支えになった人が主人公にはいた。その人がいたからこそ、自分を曲げずに生きることができた。

 そして、今までの自分と決別するために、ヒロインのいる前で髪を切った。散髪に使ったのは、安寧に暮らしていた皇子が持つには相応しくないナイフ。それだけでも今までの主人公とは違うことは窺い知れる。だけど、皇子の覚悟はそれだけじゃなかった。

 そのゲームの設定では、髪の長さは高貴であるという証でもあった。今までは、長い髪を手入れできるほどの余裕があったということでもあり、散髪するということは、皇子ではなくただの一人の人間になるということだった。

 今までの自分とは決別した皇子。

 それは、ただ区切りをつけるだけの哀しいイベントではない。むしろ、始まりを感じささせる場面だった。新たなる物語の、その門出。今までの着飾った自分ではなく、本当の自分として生きることを覚悟した。そういうシーンだった。

「私は、先輩のことあきらめません。いつか……いつか必ず、私のことを好きだと言わせてみせます。胸キュンさせてみせます」

 それは、恋の宣戦布告。

 決して敗けない、譲らない、折れない。そんな傲慢過ぎる覚悟を乗せて、言の葉を紡ぐ。

 人の想いを、コントロールすることなどできない。

 でも、それは他人の想いだけじゃない。

 自分の想いだって含まれる。

 この真っ直ぐな想いは、誰にも、自分にすら抑えることのできない。今はまだ実を結ぶことがないけれど、いつの日にか報われることを信じているこの気持ち。


 ――それがきっと、自分なりの恋心というやつだった。

―完―

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