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ep16.物語の主人公!!

「……返事は、今聞かせてくれないんだ」

「うん、ごめん。その、突然過ぎて……、なんて返していいか分からなくて……。そのっ、ほんとにごめんなさい」

「いいよ、いいよ。俺もそんな簡単に答えを聞かせてくれるとは思ってなかったから。むしろ、俺の方こそ謝らなくちゃ。困らせちゃってごめん。でも、この気持ちは本当だからさ。……だったら、返事は月曜日の学校で教えてもらえると嬉しいな」


 ……そうして、月曜日になってしまった。

 土日はどのようにして過ごしてたのか、記憶はポッカリと穴が開いたようにない。過去が真っ白になるほどに、動揺している自分に驚いていた。

 あの日、泊まる予定だったみんなは、家へと帰宅した。

 そんな安穏とした空気ではなかったからだ。あれから、まんざらでもなかった顔をしていた霧夜とは、顔を合わせていない。視線が絡もうとすると、俺は逸らし続けた。こんな時だからだろうか。いつも以上に、霧夜と接触する機会が多かったするが、そんなものは気のせいだと思い込んだ。

 言葉を交わしてしまえば、決定的なことを告げられそうな気がした。その答えは放課後。どんな形であれ、もう少しで知ることになるというのに、俺は先延ばしにすることを選んだ。

「それじゃあ、体育館裏に来てよ。あそこだったらバスケ部の奴らとか運動部も来ないし。そこで返事を聞かせて欲しい」

「うん……分かった。私はちょっと部活で用事があるから、先に行っててくれる?」

「そっか。待ってるよ」

 視界の外では、磯風と霧夜が話し込んでいた。こちらからも聴こえるような声で、潜めていなかった。それは、何だかもう隠す必要なんてないってことで。結果なんて決まっていると、言外に告げているようだった。

「よっ、九王。どうした? もう、帰るの?」

「……ああ。特にすることもないしな」

 磯風は、なんとも言えないほどの快活さで話しかけてきた。俺のことなんて眼中にないかのような、その挙動。俺の気持ちが分かっていたのなら、きっとこんな態度なんて取れない。

 まあ、そうだろうな。

 今まで俺はこれといって行動を取らなかった。ただ、現状に身を任せているだけだった。だけど、磯風は違う。自分の意見というものを明確化して、そしてそれを言葉として発した。その行動力は凄まじくて、眩しかった。

 こういう人間が、全てを手に入れるのだろうと思う。自分の望んだものを、貪欲に。傍から見れば、軽薄そうに見える磯風だけど、思考していることを即実行に移すのが困難なのは、意気地のない俺が一番よくわかっている。

 他人からすれば、なんて簡単に手に入れるなんだと妬まれる。磯風は器用で、どんなことも卒なくこなすから、そういったレッテルを貼られることは多い。

 友達が多いということは、それだけ、磯風のことをよく思わない連中も多いということだ。

 だけど、俺は磯風のことをそうは思わない。寧ろ、ちゃんと努力をしている人間だと思っている。他の人間からは理解され難いけれど、二の足を踏まずに一寸先の闇へと飛び込めるというだけで、俺にとっては尊敬すべきやつだ。

 傍観者は決して傷つかない。

 だからこそ、遠い安全圏から批評家ぶって、色々勝手な意見を浴びせることができる。だけど、主役は違う。どんな風評が前を塞ぐとも、自分の願望を叶えるためにどんな無理難題にだってこなしてみせる。……そうだ、磯風がどんな人間なのかと他人に聞かれたら、きっと漫画に登場する主役のような奴だと答えるかもしれない。

 一歩を踏み出すということは、血を流すということだ。傷つく覚悟がなければ、他人に告白なんてできない。振られる可能性だってあるのだから、当然のこと。

 それなのに、修学旅行の班の前で、あそこまで堂々と言い切った磯風は、同性から見ても、もうカッコイイとしか言い様がなかった。

 それだけに、自分の愚鈍さが浮き彫りになった。比較すればするほどに、どれだけ自分は無力なんだと気づかされる。

「本当に、それでいいの? 俺、愛澄ちゃんと、ほんとに付き合うかも知れないんだけど」

「いいよ、そんなに何度も聴かなくて。俺には、もう関係ないことだからな」

 ここまでしつこく聴いてくる磯風の意図は分かりかねた。

 ほんとうに、どうだっていいことだ。

 俺の物語は一年前にとっくに幕を閉じていた。今更、脇役がのこのこ舞台に上がったところで、恥をかくだけだ。引き立て役の、ピエロになるだけだ。

 ズキズキと、胸が痛い。

 だけど、こんな感情だっていつか風化する。家に帰って、例え女々しく枕を濡らしたとしても、時間が経てば、いつかはそんな深い傷も癒える。ズブズブと底なし沼みたいなものにはまっていきながら、頭の中が腐っていくような気分になりながらも、全ては記憶の端へと追いやられる。

 そんなものだから。

 どれだけご大層に飾り立てたところで、恋愛感情なんてそんなものだ。俺には不必要なものなんだ。こんなに息苦しくなるのなら、そんな感情は最初から切り離した方がましだ。

 ――そして俺は、背中を丸めながらこそこそと教室から逃げ出した。

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